宮城県立高校教師パワハラ自殺事件、処分は「停職3か月」...疑問残る対応も批判の声受けて「免職」追加へ

小林 英介

小林 英介

宮城県立高校教師パワハラ自殺事件、処分は「停職3か月」...疑問残る対応も批判の声受けて「免職」追加へ
教育委員会も入る宮城県庁舎(MediaFOTO / PIXTA)

宮城県の県立高校に勤務していた30代の女性教諭が、パワハラを苦に自殺した。パワハラをしていたのは50代の男性教諭で、女性教諭に対して執拗(しつよう)なパワハラを行っていた。

「仕事は一切お願いしません」

事件の発端は2020年、女性教諭が学校内の会議で男性教諭から仕事の進み具合についてしつこく問いただされたことから始まった。

女性教諭から相談を受けた学校側は、今後の対応を協議。仕事を行う上での伝達方法はメモで行うものとした。ただその後、男性教諭は女性教諭に対する伝達の中で、女性教諭に対し、女性教諭への不満をつづった手紙を机の上に置いた。

校長からはそういった内容を記載した手紙を置くことをやめるよう注意されたものの、男性教諭はそれを一切改めようとしなかったという。それどころか「仕事は一切お願いしません」などと書いた手紙をさらに置く行為をはたらき、女性はその後、精神に異常をきたして職場に姿を現さなくなった。そして女性はその後自ら命を絶ったとみられている。

県教育委員会の基準には「免職」あらず、「処分甘い」意見も

「本当にいたたまれない気持ち。強い憤りを感じる」

宮城県の村井嘉浩知事は、2024年2月6日の定例会見でこの事件について、憤りをあらわにした。

ただ、女性教諭にメモを手渡した男性教諭の処分を停職3か月と決めたことに対しては、「感情だけで処分することも簡単にできない」と揺れる胸中を明かした。さらに「同じような事象が起こった時に、どうすればいいのかというのはよく考えていただきたい」と県教育委員会(以下、県教委)に対して苦言を呈した。そして、最後にはハラスメントに関する懲戒処分の基準について「つくらないとダメですよね。よく検討します」と基準を再考する考えも示していた。

では、県教委の処分の基準はいかなるものなのだろうか。

本稿記者の取材に応じた県教委の担当者は、今回の停職3か月という処分の根拠について「教員に対する処分原案の基準」(宮城県教育委員会)等により判定したと回答した。同基準によると、パワハラを対象とした懲戒処分は「停職」、または「減給」、そして「戒告」の3種類のみとなっている。すなわち、「免職」はパワハラによる処分の対象になっていないのだ。ところが、人事院が示す懲戒処分の指針には、パワハラによる処分の中に免職が入っている。

ちなみに指針のうち、パワハラに関連する部分は以下の通りとなっている。

(1)パワハラを行ったことにより、相手に著しい精神的又は身体的な苦痛を与えた職員は、停職、減給又は戒告
(2)パワハラを行ったことについて指導、注意等を受けたにもかかわらず、パワハラを繰り返した職員は、停職又は減給
(3)パワハラを行ったことにより、相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患にり患させた職員は、免職、停職又は減給

※パワハラ・セクハラに関する事案について処分を行う際、具体的な行為の態様や悪質性等も考慮の上判断する

指針を今回の事案に照らすと、(3)に当てはまるはずだ。なお、停職3か月の処分に対しては、県教委に「処分が甘い」等と意見が寄せられているという。このことに関して、県教委は「処分を受けた職員に対する指導を徹底していく」とだけ回答した。

「免職」追加を決定、ようやく動いた県教委

事件を受け、2月13日には臨時の校長会議が開かれ、処分を今年3月末までに見直して免職を追加した基準に変更し、停職より重い「免職」を追加することに決めた。

1人の職員が自ら命を絶ち、厳しい声が相次いでから動き出した教育委員会。校長会で教育長は「痛ましい出来事を今後二度と起こさないという決意を持って、学校教育の信頼回復に全力で取り組む」などと述べて、強い意欲を見せた。

パワハラの場合、上司と部下の関係が良ければ問題にはならなかったはず。人間関係の構築も含めて、これからの職場にはコミュニケーション能力がさらに求められるようになると感じている。

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