戦後初の「死後再審」は始まるのか? 「日野町事件」弁護団や元被告遺族ら最高裁に早期開始求め意見書提出

弁護士JP編集部

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戦後初の「死後再審」は始まるのか? 「日野町事件」弁護団や元被告遺族ら最高裁に早期開始求め意見書提出
再審への思いを語る阪原弘さんの長男阪原弘次さん(左から2人目)(2月7日都内/弁護士JP)

滋賀県日野町で1984年に起きた強盗殺人事件(日野町事件)で無期懲役刑が言い渡され、服役中に死亡した阪原弘(ひろむ)さんの「第2次再審請求審」をめぐり、2月7日、弁護団と遺族らが最高裁に早期の再審開始を求め意見書を提出した。

「日野町事件」は、滋賀県日野町で酒店経営の女性=当時(69)=が殺害され、金庫が奪われた事件。酒店の常連客だった阪原さんが犯行を自白したとして、88年3月に強盗殺人容疑で逮捕された。阪原さんは公判で、警察官から暴行や暴言を受けたために虚偽の自白をしたとして、一貫して無罪を主張していた。

殺害を裏付ける直接証拠はなく、阪原さんの自白と、事件現場を阪原さんが案内できたという「引き当て捜査」(※)の結果が確定判決の決め手となった。

※被告人が事件現場などを案内し、捜査員らに事件当時の状況を説明する捜査のこと。

「第2次再審請求審」で大津地裁は、検察側が新たに証拠開示した引き当て捜査の際のネガフィルムの分析から、阪原さんが捜査員から金庫の場所を示唆されていた可能性を指摘。調書の信用性を否定して、2018年に再審開始を決定した。

昨年2月には、大阪高裁も検察の即時抗告を棄却し、再審開始決定を維持したが、3月、検察は最高裁に特別抗告した。

再審公判が開始するのか、最高裁の判断に注目が集まっている。なお、再審開始が決定すれば、元被告の死亡後に裁判がやり直される「死後再審」は戦後初となる。

阪原さんの長男「母が元気なうちに」

最高裁に意見書を提出した後、弁護団と遺族らは東京都内で記者会見を行った。

弁護団の知花鷹一郎弁護士は「早急に(高裁の再審)開始決定を維持してくださいという趣旨で意見書を提出した」と説明。

阪原さんの長男弘次(こうじ)さん(62)は、第2次再審を請求したことについて、「父が亡くなったとき、『もうやめようかな。もう父ちゃんもいいひんようなったことやし、もうええやん』、そうも思いました。でも、父の名誉も無念も、何も解決していない。そういう思いで再び立ち上がりました」と述べた。

その上で、「高齢になった母が元気なうちに、家族みんなで父の墓前に(再審無罪を)報告したい。裁判所には一日も早い(特別抗告)棄却決定、再審無罪をいただけるよう切に希望しています」と訴えた。

家族旅行で訪れた鳥取砂丘で孫を抱く阪原弘さん(前列左)は、この半年後に逮捕された。(写真:遺族提供)

日野町事件=謎の事件

事件から40年目を迎え、日野町事件を知らない人も増えた。弁護団の石側亮太弁護士は、日野町事件について、「何もわからない、謎の事件」と評する。

「この事件で何が起こったかが確実にわかってる事実関係としては、被害者の女性が何者かに殺害されたということと、被害者の所有していた金庫が日野町内の別の場所で発見された。つまり、盗まれたということだけです。

誰がやったかというのは、阪原さんだと言われていて争点になっています。ただ、強盗殺人事件であるというからには、本当は、いつ、どこで、どうやって殺害されたかがわからないと、説明としては全然足りない。金庫もどうやって盗まれたのか。もっと言えば、金庫をとった人は被害者を殺害した人と同じ人なのか。これがわからないと、本当は強盗殺人事件とは言えないわけです。ところが、何もわからない。証拠がない。これが日野町事件の特徴です」(石側弁護士)

その上で、検察側の立証は、阪原さんの自白に頼っていて裏付けがないと指摘。さらに、新証拠のネガフィルムからは、阪原さんが「事故現場を案内できた」という有罪判決の根幹が揺らいだとする。

検察側からは反論なし…

弁護団はすでに2通の意見書を最高裁に提出している(今回の意見書で3通目)が、この間、特別抗告を申し立てている検察は反論等を一通も提出していないという。

「検察庁が(再審開始決定を)ひっくり返したい立場なんだから、たくさん(意見書等を)出しそうなものですけれども、この事件は、まっとうな法律家が、きちんと現在ある証拠関係を検討すれば、有罪判決は維持できない事件です。詭弁(きべん)を弄(ろう)しない限り。そういう意味では、検察庁は言えるだけのことはもう言っちゃったんじゃないかとも思います」(石側弁護士)

検察の特別抗告からもうすぐ1年。最高裁が結論を出すために必要な期間は「過ぎた」と弁護団は口をそろえる。戦後初となる「死後再審」の扉は開くのか――。

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