「気持ちはわかりますよ」も遺族を傷つける可能性…「死別悲嘆」直面する当事者に寄り添うには?

榎園 哲哉

榎園 哲哉

「気持ちはわかりますよ」も遺族を傷つける可能性…「死別悲嘆」直面する当事者に寄り添うには?
大切な対象を喪失した際、誰にでも起こりうる「悲嘆」…身近な人はどう声をかけるべきか(KOHEI 41 / PIXTA)

240人の命が失われた(2月5日現在)石川・能登半島地震。自然災害や不慮の事故、病気などによって大切な人を失った悲しみは計り知れない。こうした「死別」による「悲嘆」(グリーフ)は長期化することもある。

重くつらい悲しみ、苦しみを抱える人に周囲はどう対処すればいいのか。災害時のメンタルケア、グリーフケアを専門とする神戸赤十字病院心療内科部長の村上典子医師に心得を聞いた。

「悲嘆」は誰にでも起こりうる“自然な反応”

悲嘆(グリーフ)は村上医師によると、かけがえのない大切な対象を喪失した際に起こる反応だという。対象は家族や友人等の人間だけではなく、長年過ごした家屋や街並み、仕事やペット、まひ等による自身の身体機能の喪失でも起こる。

特に愛する人を失う死別の悲嘆は、人生において最も過酷ともいえる体験。深い悲しみはもちろんのこと、呆然自失(現実感がない)、否認(亡くなったことを認められない、認めたくない)、怒り(自然災害ではやり場のない怒りを八つ当たり的に他者に向ける可能性も)、後悔・自責(~すればよかった)など、さまざまな感情の行き来が繰り返すという。

災害の場合は悲嘆が長引くことも

「死別悲嘆」自体は、村上医師によると、愛する人を失った際に誰にでも起こりうる自然な反応だが、長期化し通常のプロセスとは違う悲嘆の状態に陥ることもあるという。

特に災害による場合は、「死別が突然であり、心の準備もできず 、複数の家族を同時に失うこともあり、さらに家屋など他の喪失も重なり悲嘆が長引いてしまうことも考えられます」(村上医師)。

通常のプロセスとは違う悲嘆には、うつ病、パニック障害のような不安障害、亡くなった時の場面がトラウマになって残るようなPTSD(心的外傷後ストレス障害)などが挙げられる。

一方、それらとは別に、「死別悲嘆」自体の長期化を精神疾患のひとつとして捉える動きもあり、「複雑性悲嘆」、「遷延性悲嘆障害」などと呼ばれているという。これらは死別後半年から1年以上症状が持続する際につけられる病名で、治癒には5年、10年という長い年月を要することもある。原因不明の頭痛や胸の動悸といった身体の症状が出る場合もあり、症状が強い場合は薬が処方されることもある。

治癒に至る期間が長引くケースとしては、たとえば、地震で自分だけが家を飛び出し残された家族が犠牲になったなど、悔いを残す状況や、複数の人を亡くし悲しみを分かち合ってくれる人がいない、などが挙げられる。個人の性格によっても変わることがあるという。

遺族に「使うべきでない」言葉

かけがえのない人を亡くした時、本人はどう乗り越えればいいのか。

「亡くなった方が帰ってくることは決してない。それでも少しずつ、愛する人のいない人生を受け入れていく、といった癒やしに向かうプロセス(喪の作業、グリーフワーク)があります。そのためには、つらくともご本人が自分自身で歩んでいかなければなりません」(村上医師)

周囲の人たちはどう対処すればいいのか。死別悲嘆に悩み、苦しむ人を支えていくために、村上医師はこうアドバイスする。

「まずはご本人の思いをあるがままに受け入れること。ご本人が自ら思いを話される場合は余計な口をはさまず、ただ傾聴することです。無理に話を聞き出そうとすることは決してすべきではありません」

当事者が遠方に住んでいる場合は、メールやSNSのメッセージを送ってもいい。その際は、「心配しています、気に掛けています」などの気持ちを伝えるとともに、相手にプレッシャーを与えないよう「返事はいりません」といった一言を最後に添えることも大切になる。

一方で、話を聞く際などに、掛けてはいけない言葉もある。

村上医師らが執筆した一般社団法人日本DMORT(ディモート、災害死亡者家族支援チーム)の「家族(遺族)支援マニュアル~2024年能登半島地震編~」では、遺族を傷付ける可能性があるとして、「気持ちはわかりますよ」、「これからがんばってください」、「あなたが生きていてよかった」などの一見ポジティブな言葉も使う際に気をつけるように呼び掛けている。

一般社団法人日本DMORT「家族(遺族)支援マニュアル~2024年能登半島地震編~ 」より

「そっと寄り添うことが大切」

筆者知人にも死別悲嘆に苦しむ女性(40代)がいる。一昨年秋に恩師を亡くして以来、メールはほぼ絶えている。当初にもらったメールには、「人生でいちばん辛いことは大切な方との死別ですね 百日以上涙止まることなく 精神的にも不安定ですが いつか一筋の光を見つけたいです」と記されていた。

そうした辛い時期を乗り越えた人もいる。村上医師の下で癒やしに向かっていった、夫を亡くした女性(50代)は、「(同医師が)受け入れてくれ、話を聞いてくれなかったら、私は生きていけなかったと思う」と謝意を伝えたという。

日本DMORTのマニュアルには、グリーフケアのポイントのひとつとして、「そっと寄り添うこと」を挙げる。再びの春の訪れを共に待ち、信じることが大切なのかもしれない。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア