「ランドクルーザー」が盗難車数最多。狙われる「トヨタ車」のジレンマ

弁護士JP編集部

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「ランドクルーザー」が盗難車数最多。狙われる「トヨタ車」のジレンマ
納車まで4年待ちとも言われている人気のトヨタ・ランドクルーザー300(写真:MediaFOTO/PIXTA)

先ごろ日本損害保険協会より発表された「自動車盗難事故実態調査」によれば、不名誉といえる昨年の盗難ワーストランキング車種の1位は「トヨタ ランドクルーザー」となった(3月16日発表)。1954年の発売以来、70年近い歴史をもち、その優れた走行性能と耐久性で世界から高い評価と信頼を受け、国連やNATO軍でも採用されるほどの、自動車界の「生ける伝説」(米CNBC)。日本が誇るクルマがなぜ盗難のターゲットとなってしまうのか。

第23回自動車盗難事故実態調査結果(一般社団法人日本損害保険協会)より一部加工の上表を作成

「世界一の自動車ブランド」ゆえの副産物

警察庁の統計による2021年全国の自動車盗難の認知件数は5182件だが、実はピーク時の2003年(6万4223件)の1割以下にまで減少している。しかし、前述のランキングとともに発表されている車両本体盗難における1件あたりの支払保険金は236万9000円とコロナ禍前の2019年(208万円)と比較して増加している(自動車盗難事故実態調査)。1台あたりの被害額が高くなっているということに他ならず、価格の高いクルマが狙われる傾向がより強くなったと言えるのではないだろうか。

高級車といえば「外国車」という単純なイメージがあるが、今回は1位のみならず10位までがレクサスブランドを含めすべてトヨタブランドの車種となっているのも興味深い。その背景について、国内外の取材経験も多い自動車ジャーナリストK氏は「世界一の自動車ブランド」ゆえの副産物ではないかと指摘する。

「トヨタ車が盗まれやすい理由としては、単純にその人気ということにつきるのではないでしょうか。リセールバリュー(中古車として販売価値)の高さ、耐久性、絶対的な信頼度は、国内外の自動車メーカーの中で群を抜いています。国外、とくに中東、東南アジア、アフリカ地域では、走行距離が200万キロ超ではないかと冗談半分でいわれるほどの古いトヨタ ハイエースなどが走っているのは珍しくありません。

おのずと海外からも「TOYOTA」への信頼度も厚くなる。車検がない国もあるので、それこそ「土」に還る直前まで乗り倒される(笑)。一般的に国内メーカーでも日産、ホンダ、マツダなどのメーカーは都市部、比較的感度の高いユーザーに支持されていると言われますが、それは海外でも同様の傾向です」

中東などでは日本で見かけなくなった年式のトヨタ車が走っていることも珍しくない(写真:Yuichi Mori/PIXTA)

不正輸出の手口も巧妙化している

メーカーとしての世界的信頼度が仇となり、盗難のターゲットとなってしまうという皮肉。自動車の盗難、盗難自動車の不正輸出を防止するための総合的な対策について検討するため、2001年9月に設置された「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」が発表している実態によれば、自動車盗難に「犯罪グループ」が組織的に関与しているケースも少なくないという。

日本国内での盗難車両売却は、登録・車検制度が行き渡っていることもあり難しく、海外に向けた密輸出の割合が多くなる。

近年、税関当局なども監視の目も強化され、海外への直接の持ち出しが困難となり、その手口も巧妙化している。たとえば、盗難車はヤードと呼ばれる施設で一旦不正に解体されるなどして海外へ輸出、再び海外の整備工場において組み立てられるなどのケースもあるという。

今年1月には、レクサスやプリウスなど35台(被害総額6320万円相当)を兵庫などの5府県で繰り返し窃盗を行った容疑で、2人の男性の逮捕が報じられたが、その手口も盗難車を偽造プレートに交換し、車の解体や不正輸出を行うヤードなどへ持ち運び取引していたというものだった。

自動車盗難後の一例

海外の犯罪組織が、日本人を「下請け」の実行犯として雇うケースも少なくないと前述のK氏。逮捕のリスクが高い犯罪と言えるが、それでもトヨタ車の盗難が後を絶たない理由とは何か。

「日本と海外ではクルマの販売価格が違います。たとえば東南アジアの富裕層などに人気のアルファードなどは、日本国内の新車価格はグレードが高くても700万円程度。ところが海外であれば1000万円超は普通で、人気のボディカラーのパールホワイトなどであれば中古車であっても日本の1.5~2倍近い値段で売られていることも珍しくありません。そんな値段で誰が買うんだと思われるかもしれませんが、これが飛ぶように売れる。

先日タイのバンコクのモーターショー(第43回バンコク・インターナショナル・モーターショー2022)の取材に行きましたが、タイの富裕層の購買力の凄まじさに驚きました。日本では実感がないかもしれませんが、僕らが想像するヒルズ族的な富裕層の100倍以上という感覚でしょうか。犯行グループにとっては、世界的視野に立てば、盗難車でも十分需要があるのでさばきやすく、なおかつリスクを犯しても、それ以上のリターンがあるというのがトヨタ車というワケです」(K氏)

大きな故障がない、という信頼性もさることながら、トヨタディーラーは海外の田舎にもあり、万が一の場合に備えたサービスネットワークの広さも支持される理由のひとつだとK氏は続けた。

最適な防犯対策はあるか

もちろんメーカー側も手をこまねいているワケではない。昨年発売され、現在納車4年待ちとも言われ人気となっている「ランドクルーザー300」は指紋認証によるセキュリティが採用されており、従来より防犯対策はかなり強化されている印象だ。

前述した「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」では、ホームページで車両盗難防止対策(※)も紹介している。

※車上荒らし対策も併記されている

【確実な施錠】
短時間でもクルマから離れるときは、完全に窓を閉めキーを抜きハンドルロックとドアロックを施す。

【イモビライザーの装着】
イモビライザーとはキー自体とキーの電子的(ID)な照合のダブルロックで車両盗難や自動車の乗り逃げを防ぐ防犯装置。

【盗難防止機器の活用】
警報音を発する警報装置、ハンドル固定器具、タイヤのホイールロック、GPS追跡装置などの防犯機器を活用する。

【防犯設備が充実した駐車場の利用】
見通しがよく、防犯カメラや照明などの防犯設備が充実し、管理された駐車場を利用する。

窃盗犯への威嚇にもなるハンドル固定器(写真:FINEDESIGN_R/PIXTA)

さまざまな対策を講じても、それをかいくぐって新たな盗難手口が「開発」されるという、イタチごっこが続いていることもまた事実。

冒頭の「自動車盗難事故実態調査」は、車両保険に加入し盗難届が受理され、契約者に車両保険を支払われた台数である。それ以外はカウントされておらず、実際にはもっと多くの盗難被害が起きている。現状、万全な防犯対策をした上で車両保険への加入が「唯一最大のケア」(K氏)ということになりそうだ。

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