「即位・大嘗祭」国家賠償請求に棄却判決 争点は「政教分離原則」「信教の自由」「納税者としての権利」など

弁護士JP編集部

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「即位・大嘗祭」国家賠償請求に棄却判決 争点は「政教分離原則」「信教の自由」「納税者としての権利」など
吉田弁護士(左)、佐野教授(右)(1月31日都内/弁護士JP編集部)

1月31日、「即位の礼」や「大嘗祭(だいじょうさい)」に国費を支出するのは憲法違反であるとして、宗教関係者や大学教員など原告317名が国に対して損害賠償を請求した民事訴訟について、東京地裁は棄却判決を言い渡した。

訴訟の経緯:差し止め請求と国家賠償請求

本訴訟は、2019年に平成天皇から令和天皇の代替わりに際して行われた「即位の礼」や「大嘗祭」(以下では「即位・大嘗祭」と表記)などの儀式は政教分離や国民主権の原則に反し、原告らの信教の自由や納税者基本権などを侵害しているとして、国家に賠償を請求したもの。

提訴されたのは該当の儀式が行われる前、2018年12月であり、提訴の際には儀式自体の差し止めも求められていた(当初の原告は241人)。

しかし、当時裁判所は原告らの要求を「納税者基本権に基づく差し止め訴訟」と、本日に判決が出た「国家賠償請求」に分離。前者については弁論が開かれないまま2019年2月に東京地裁によって却下。同年4月には東京高裁、同年10月には最高裁によって、同じく弁論が開かれないまま却下された。

2019年3月には77人の原告を加えて「人格権に基づく差し止め訴訟」も提起したが、こちらも2021年3月に請求が棄却されている(東京高裁の控訴審後、東京地裁での差し戻し審)。

本日に棄却された国家賠償請求に関しては、原告らも弁護団も控訴を行い、請求を続けていく見通しだ。

訴訟の争点と裁判所の判断

(1)政教分離原則違反

原告らは、即位・大嘗祭は憲法20条や憲法89条に定められた「政教分離原則」に違反することで、原告らの人権または法律上保護される利益(信教の自由)を侵害するものと主張。

裁判所は、政教分離原則は「国及びその機関が行うことのできない行為の範囲」を定めることによって「間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである」が、「私人に対して信教の自由そのものを直接保障するものではない」として、儀式が政教分離の原則に違反しているとしても原告らの権利や利益は侵害されないと判断した。

(2)信教の自由の侵害

原告らは、国が即位・大嘗祭を挙行し国費も支出したことで信教の自由が侵害された、と主張。

裁判所は、儀式の挙行や国費の支出は「原告らに対して特定の宗教の信仰や宗教上の活動を禁止しまたは強制するなど」したものではないとして、信教の自由が侵害されたとはいえないと判断した。

(3)思想および良心の自由の侵害

原告らは、儀式の挙行や国費の支出によって思想および良心の自由が侵害された、と主張。

裁判所は、儀式によって原告らの意に反する行為が強いられたり、儀式に反対する意思を原告らが表明することが禁じられたりした事実はないとして、思想および良心の自由の侵害 が侵害されたとはいえないと判断した。

(4)主権者としての地位の侵害

原告らは、儀式の挙行や国費の支出は、原告らの主権者としての地位(国民主権)を侵害するものと主張。

裁判所は、憲法前文および憲法1条では「主権者としての地位」は個々の国民ではなく「総体としての日本国民」に存するものと定められているとして、原告らに主権者としての地位に関する個々の具体的な権利や法律上の利益が存在するわけではないから、原告らが権利侵害を主張することはできないと判断した。

(5)納税者基本権

原告らは、儀式の挙行や国費の支出は、原告らの納税者基本権を侵害するものと主張。

裁判所は、憲法30条や憲法84~86条など(財政や租税に関する諸規定)では、国民は代表機関である国会の審議および議決を通じて国費や皇室費用の支出に関する決定にも間接的に関与しており、また憲法や法律は個々の国民が「納税者としての地位」に基づいて国費や皇室費用の支出の違法性について争う制度をそもそも定めていないとして、原告らが権利侵害を主張することはできないと判断した。

また、原告は、2019年5月に当時の内閣総理大臣(安倍晋三)が令和天皇の即位に祝意を表したことについても、特定の宗教の儀式を国が後援するものであるとして、政教分離原則違反と思想および良心の自由の侵害を訴えた(「儀式の挙行や国費の支出」に関するものとは別の争点)。

これらの訴えについても、上記(1)や(3)と同様の理由で、裁判所は棄却。

「信教の自由や思想・良心の自由を狭くとらえている」と原告弁護士は批判

判決後に「即位・大嘗祭違憲訴訟の会」および「即位・大嘗祭違憲訴訟弁護団」は、地裁の判決は不当であるとする抗議声明を発表した。

「国側は、本件諸儀式は「個々の国民」に向けられたものではなく、たとえ宗教的感情を害するものであったとしても、「具体的権利侵害」はないとする。諸儀式は個々の日本国に居住する人間に向けられたものでないならば、なぜかように多額の国費を費やしてこのような儀式を行う必要があるというのか。儀式を行う側は、その効果を認識しているからこそ行うのである」(抗議声明より)

判決後の会見では、吉田哲也弁護士が、裁判所の判断は「信教の自由や思想・良心の自由を非常に狭くとらえたものである」と批判。国が儀式を後援したり国費を支出したりすることは特定の宗教を助長・促進するものであり、別の宗教や思想をもつ人に圧迫感情を与えて損害を発生させるという問題を考慮すべきだ、と論じた。

また、吉田弁護士は「政教分離原則の違反は個々の国民に対する権利侵害ではない」とする裁判所の判断が通ると、政教分離原則に違反した行為が行われても国民が裁判所で争う術がなくなってしまう、という問題も指摘。

酒田芳人弁護士も、「裁判所の判断はあまりに消極的」「原告の問題提起に答えていない」と批判した。

筆頭原告の佐野通夫教授(東京純心大学)は「すでに、提訴してから5年以上経っている。裁判所にはもっと誠意をもって迅速に対応してもらいたかった」と語った。

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