“都市公園法”違反で逮捕? 知られざる公園利用ルールの裏側

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

“都市公園法”違反で逮捕? 知られざる公園利用ルールの裏側
公園の禁止事項が多くなり、遊びづらくなったと言われているが…(natchan / PIXTA)

今年1月中旬、京都府宇治市内の公園にハンモックなどの遊具を無許可で設置したとして、近所に住む男性(82)が逮捕された。

男性は約15年前から市の指導に従わずに遊具の持ち込みを続けていたといい、昨年12月24日に市公園緑地課が「都市公園法」に基づく中止命令を下していた。しかし同日に園内の木にハンモックを設置したため告訴に至った。

男性は京都新聞の取材に対し「子どもたちを喜ばせたかった」と話しているという。男性が違反したとされる「都市公園法」とは何か、そして今求められている新しい公園のあり方を探った。

「都市公園法」で逮捕とは?

国営海の中道海浜公園事務所長で『都市公園のトリセツ 使いこなすための法律の読み方』(学芸出版社)の著者である平塚勇司氏に聞いた。

都市公園に施設を設置するためには、都市公園法第5条に基づき申請し、公園管理者からの許可が必要だ。法令には施設とあるが「遊具」もこれに当たり、男性は申請を怠ったため逮捕に至った。

公園施設の設置について定められた都市公園法第5条(e-Gov法令検索より。傍線は編集部で加工)

法令にある公園管理者とは、具体的には「その公園の設置を告示している者である地方公共団体(都道府県、市町村)の長となることが多いです」(平塚氏)。つまり公園の遊具は、公園を所有する地方公共団体の長が自ら設置するか、他者への設置を許可したもので、それぞれの公園にあるルールや禁止事項なども、各自治体によって定められている。

「遊具」は減り、「禁止」が増えた

前述の事件が報道されたあと、SNS上では「たしかに危険だけど、遊具を設置する男性の気持ちもわかる」という声があがっていた。

近年、公園では児童向けの遊具が減っている。例えば、向かい合って4人ほどが座ることができる箱ブランコ。国土交通省の調査(全国の都市公園等における遊具等の設置状況や安全点検の実施状況等)によれば、1998年には1万4198機あった箱ブランコは、2013年には1864機にまで数を減らした。激減した理由は箱ブランコで起きた事故だ。同様に事故によって数を減らした他の遊具もあり、また老朽化し撤去されるケースも多い。

箱ブランコ(qwerty / PIXTA)

逮捕された男性は日頃から「公園では大いに楽しんでほしい」「万一の危険を言い出せば、何の遊びもできない」とも発言していたという。

しかし、公園は子どもが楽しむところ、遊ぶところという昔ながらの考え方は、法律上ではすでに変わりつつある。

都市公園法施行令の改正(1993年)により、子どもを対象に作られていた「児童公園」は、より多くの世代を対象にした「街区公園」という位置付けに変更された。少子高齢化が進んだこともひとつの要因だろう。

公園で求められる他者への配慮

街区公園では、遊具も減った画一的な景観に「ボール遊び禁止」「楽器禁止」「大声禁止」などの看板が目立つことも多い。これらの看板は、利用者同士が公園に求めるニーズが違うことで生まれたトラブルや苦情から行政が設置したものだ。ボール遊びをしたい人、犬の散歩をしたい人、リラックスしたい人、それぞれが公園に求めているニーズは異なる。

利用者同士のトラブルを防ぐために、前出の平塚氏は「自分たちが公園で何かをすることで、他の方が利用できなくなる可能性を考えること」が重要と話す。

公園でのコスプレ撮影会を例にとり、「個人での撮影であれば周りの利用を制限するものではないが、大勢で集まって撮影会をすれば他の利用者が利用できなくなる可能性もある。だから勝手にやってはまずいのではないか(許可がいるのではないか)、という判断が働くと思います」(平塚氏)。

公園でのホームレスへの炊き出しや募金活動など、慈善団体の活動についても、通常はそれぞれの条例に基づく許可を得て行われている。

理想の公園は「公園を管理する行政、施設等の管理を行う民間事業者やNPO、利用者である市民の三者がWin-Win-Winな状態の公園」だと語る平塚氏。「今回の事件は、この三者のいずれにも分類できない立場で公園に関わろうとされていますので、公園にとっては好ましくない状態だと思います」と行政に携わる人としての心中を打ち明けてくれた。

行政が動く、新しい公園の形

公園のあり方自体を変えた自治体もある。区内に約500の公園を持つ東京都内随一の公園保有区である足立区だ。

足立区では2013年より「パークイノベーション」と銘打ち公園改修を進めている。区立公園を「にぎわいの公園」と「やすらぎの公園」の二つに大きく分類し、利用者がその時々の自分に合った過ごし方を選択できるようにした。

足立区パークイノベーション担当課の金澤氏は、パークイノベーションのきっかけについて「個性に乏しい公園が多いこと、じゃぶじゃぶ池などの公園施設が偏在していること、施設などの改修時期を一斉に迎えることへの対応として取り組みを始めました」と振り返る。

「ボール遊び」で苦情が出ない理由

区立公園では「にぎわいの公園」「やすらぎの公園」を問わず、公園の広場で硬いボールを投げ合うなどの危険なボール遊びは禁止しているが、ゴムボールなどの軟らかいボールでの遊びは禁止していない(※一部禁止となっている公園もある)。

公園の広場で「できる」ことも書かれた「ボール遊びルール」看板(足立区サイトより)

広場のほか、「子どもたちが気兼ねなく安心してボール遊びができるよう、フェンスで囲われた広場(ボール遊びコーナー)を、区内にバランスよく配置しています」(金澤氏)。

ほかの自治体では、音がうるさい、ボールが飛んできて危険だという理由で苦情も多く禁止されがちな球技だが、苦情は出ていないのだろうか。金澤氏によると「ボール遊びコーナーでは、不適切な利用によるボールの飛び出し等の課題はあるが、夜間はボール遊びコーナーを閉鎖するため、苦情の件数は少ないほうです」と、運用の工夫にも一定の効果があるという。

また、もう一方の「やすらぎの公園」は、既存樹木の木陰を維持しながらベンチを整備するなど、乳幼児を連れた保護者から高齢者までのんびりと過ごせる公園として人気を集めている。

パークイノベーションへの利用者の評価は?

足立区が行った世論調査によれば「よく行く、または行きたい公園がある」と思う区民の割合が、2014年の43%から2020年には48%と増加している。

金澤氏はあくまで改修を行った一部の公園での利用者調査の結果とした上で、「利用者が5割ほど増えた公園もありました。また、ヒアリングで『良い公園になったと思う』と答えた方が8割以上、『この公園を今後も利用したい』と答えた方が9割以上となった調査もあります」とパークイノベーションの手ごたえを伝えた。

魅力ある公園づくりに向けて

さらに足立区のサイトでは、少年野球場やバスケットボールリングが設置された公園がわかる「ボール遊びおすすめの公園マップ」や、めずらしい遊具のある公園を見つけられる「おもしろ遊具マップ」、障がいのある人でも遊べる公園を紹介する「インクルーシブ施設のある公園」などが紹介され、住民がもっと公園を活用できるようにという区の心意気が感じられる。

おもしろ道具MAP(足立区サイトより)

足立区では持続可能な公園運営と並行して、魅力ある公園づくりも目指している。金澤氏は、Park-PFI(※1)やキッチンカーの誘致など民間事業者との協働に力を入れていきたいと今後の展望を描く。

(※1)公募設置管理制度のこと。カフェや売店、アスレチックなどを運営する民間業者を誘致するなどし、公園利用者の利便の向上とともに、公園管理者の財政負担の軽減をはかるとして期待されている制度。

足立区がパークイノベーションに乗り出したきっかけがそうであったように、全国の多くの公園でも公園の改修が必要な時期を迎えている(※2)。多様化する利用者のニーズにひとつの公園で応えることは、小規模な公園では現実的ではないが、足立区のように利用者がライフスタイルや自分の気分に合わせて公園を選択できれば、利用者同士のトラブルも減りそれぞれの楽しみ方で公園を満喫することができるのではないだろうか。

(※2)足立区の場合、以前は年に1~2か所の公園をすべて新しく作り直す手法で改修していた。その手法のままでは、2023年には50年以上大規模な改修を行っていない公園が、公園全体の約17%になってしまうことがパークイノベーションのきっかけとなり、既存施設の再生を中心とした改修へと転換した。(足立区パークイノベーション推進計画 平成30年4月策定。令和4年現在、第三次足立区みどりの基本計画に統合。)

■書誌情報


『都市公園のトリセツ 使いこなすための法律の読み方』
著者:平塚勇司
出版社:学芸出版社
ISBNコード:978-4-7615-2741-9
販売価格:本体2500円+税
出版社サイト内書籍ページ

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア