「高校生AV」出演解禁は現実? 4月1日からの“18歳”成人開始で起こり得ること

弁護士JP編集部

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「高校生AV」出演解禁は現実? 4月1日からの“18歳”成人開始で起こり得ること
写真はイメージです(写真:弁護士JP)

「高校生AV出演解禁を止めてください」

18~20歳前後の情勢からのアダルトビデオ(以下AV)出演に関する被害相談が急増しているとして、さる3月23日に衆議院第二議員会館において院内集会が行われた。

4月1日から施行される改正民法によって、成年(成人)年齢が20歳から18歳に引き下げられる。それにより、高校生(男女)のAV出演が可能となり、かつ契約の取り消しも困難となることなどから、出演強要といった性暴力被害が深刻になるとして、早急な法整備を呼びかけたもの。

性的搾取をなくす取り組みを行うNPO法人ぱっぷすとNPO法人ヒューマンライツ・ナウが主催したこの集会。内閣委員会においてAV出演で未成年者取消権が行使できなくなることについて、政府の見解を求めた立憲民主党・塩村あやか議員をはじめ自民党、公明党、共産党などの国会議員も出席し、その関心の高さが伺えた。

成人年齢の引き下げによって「高校生AV」が解禁される。衝撃的な文字面だけではなく、会場では、実際に被害者と対面した相談員から被害事案なども語られた。今何が起きようとしているのか。

集会では包括的立法の必要性などが語られた(3月23日 衆議院第二議員会館/弁護士JP編集部)

成人年齢引き下げで懸念されること

明治9年以来約140年に渡り、日本では民法(第4条)によって成人年齢は20歳と定められてきた。今回の改正の背景には、諸外国の多くで成人年齢は18歳と定められ、若者の⾃⽴を援助するような施策が導⼊されていることなどがあった。

たとえば、世界的にみて18歳までに選挙権が認められている国は全体の92%(平成26年国立国会図書館調べ)。これらにならい、少子高齢化を迎えた日本でも、「選挙権」の年齢の引き下げの議論が始まり、それに付随する形で進められてきたもの。

先に施行された選挙権の年齢引き下げなどは、若者がより主体的な意識で社会に参加するきっかけとなり、「大人としての自覚を持って自立する」メリットも言われている。一方で、今回の改正では「未成年取消(権)」(民法第5条1項2項)が認められなくなるなど、若年層の消費者被害の広がりなども懸念されている。

成年年齢の引下げで変わるもの・変わらないもの(政府広報オンラインより)

これまで18、19歳が親や保護者の同意を得ずに結んだ契約は、「未成年取消(権)」によって原則後から取り消すことが可能であった。しかし、4月1日からの成人年齢引き下げは、それら保護の対象ではなくなることを意味する。

これにより、「高校生AV解禁」は法律的な”お墨付き”を持って現実的なものになる。そう語る前述のNPO法人ぱっぷす代表の金尻カズナさんは、性被害者女性の相談に多く携わってきた。

18、19歳の成年年齢のAV出演による性被害の現状、今後どのような対応策があり得るのか話を聞いた。

相談者の多くは撮影中「無」だった

4月以降に高校生がAVに出演することが現実に起こり得るのでしょうか

金尻さん:実際そのような動きがあり、18~20歳前後の女性からの相談は増えていることは確かです。「幼い性」は日本ではすごく価値があるとされ、商品として儲かる。これまでは見るのも出演するのも違法で、保護されていたものが、18歳からのAV出演が「合法」となることは業者側もとっくに理解しています。したがってリクルート(スカウト)は15、16歳の女性に向けて巧みに行われてきました。

AV出演被害・デジタル性暴力の新規相談件数(NPO法人ぱっぷす資料より)

未成年に対するスカウトは実際どのように行われるのでしょう

金尻さん:本当にキリがないほどいろいろ事例があります。一例を上げますと、Twitterです。あるタレント活動している男の人がいて、芸能活動に興味がある児童(被害者)の方がリツイートしたことをきっかけに実際会うことになって。事務所を紹介し、15歳、16歳からアイドル活動などをさせ信頼関係を築くわけなんですね。

基本的に同調圧力というか、信頼関係を作っても断れない状況にする。場合によっては保護者を巻き込む。具体的なその撮影内容は知らされることはまずなくて、同意書を取らせたりする例もあります。

内容を理解した上で、自分の意志で契約する本人の責任について語られることもあります

金尻さん:もちろんさまざまな理由から自ら出演を志望する人もいるでしょう。4月から子ども家庭庁の審議が始まるのですが、その中で「子ども」の定義について「心身発達の過程にある者」として特定の年齢(18、19歳)で区切らず、切れ目のない支援が必要とあります。先ほどの例のようにTwitterやインスタグラムでの発信で何かキラキラした世界に対する憧れや、若年女性が社会に希望を持てなくなり、繋がりを見いだせなくなった瞬間に業界へとアクセスする。

これら心身発達過程で判断力が乏しい子どもの行動に対して「自己責任」で済ますことができるのでしょうか。事業者はそれらを巧みに利用するシステムを作り上げている。両者の間には交渉力、情報量の格差が歴然としてあります。ある種困惑した状態のまま出演し、実際に性的画像記録が拡散した後、受けた被害の大きさに気がつく相談者が少なくありません。

相談者の多くは撮影中「無」だったというんです。性交を伴う撮影が行われ「無」になるというのは、レイプ時に受ける心的外傷のためのボタンと同様で、完全に性被害を受けた状態です。

契約、あるいは出演の段階で拒否することはできない?

金尻さん:これまでは取り消したいと言った時に「未成年者取消(権)」が使えましたが、4月1日以降、保護の対象にはなりません。

成人の契約後の取り消しに関しても、AV人権倫理機構(※)が販売停止申請制度を設けていますが、AVの権利保有者が販売停止に同意した場合に限るため、販売停止は約束されていないこと。申請の結果、販売サイトから女優名のみを削除するだけで販売を続ける場合もそれなりにあること。原則として販売から約5年以上経過しないと販売停止に応じないとしていることがあります。

申請している間にも、販売したメーカー以外の非合法な動画サイトなどへ完全に消し去ることが難しいデジタルタトゥーとして拡散されるリスクも高まることはいうまでもなく、販売停止したからといって被害はなくなりません。

契約に関しても、出演同意契約は一度でも出演しますと同意してしまうとそれを覆すのは困難です。また、強要のような圧力があったとする場合、それを立証する必要があります。たとえば事業者と被害者の連絡は基本的に電話によって行われます。

現在のスマホは通話を録音できませんので、文章の証拠が残らない。事業者は充分理解していてLINEなども「頑張ります」「ありがとうございました」との履歴しか残さないような回答を誘導するなど、立証はほぼ困難な状況です。契約書で合意しているので、裁判で仮処分を申し立てても認められず、泣き寝入りを余儀なくされます。

※アダルトビデオ業界の発展と健全化を目的として設立された非営利の任意団体

取り消しのハードルは高いですが、対応策として何が必要でしょう

やはり未成年者取消(権)の代わりとなる被害救済・被害等防止制度の特別法の立法化が急務です。

3月1日、塩村議員(前出)の質問主意書へ「4月以降は成年となった18歳、19歳に(未成年者)取り消し権を拡張することは困難」と政府が回答したように、法律的には残念ながら認められることになりました。

ただ、立法事実の必要性が明らかになったので、ある種良かったのかもしれません。そのために、4月からの施行はまず厳しいですが、法律の穴を埋めるプランを作るための働きかけを根気強く続ける必要があります。

院内集会でも早急な対応を訴えた金尻さん(3月23日 衆議院第二議員会館/弁護士JP編集部)

岸田総理大臣も問題を認識

金尻さんは「AVを観る方達もいらっしゃることは理解していますが、実際その裏にある性的被害、人権侵害に関わる問題の存在も覚えていただくことも重要だと考えています」とも語った。今回の問題・議論をきっかけに受容する側の意識も変える時期に来ているのかもしれない。

3月23日には、業界団体であるAV人権倫理機構(前出)から、「AV出演を希望する女性に対する面接、契約、登録、撮影は20歳以上とすることを強く推奨」するなどの成年年齢引き下げに伴う新たなルールに関する通達が、メーカーやプロダクション団体向けになされた。

また、3月28日参議院決算委員会での塩村あやか議員(立憲民主党)の18歳、19歳のAV出演を阻止する「議員立法」に関する質問に対し、岸田文雄総理大臣は「立法措置を行わなければいけない。その内容、議論の状況。これをしっかり政府としても見守った上で、政府として対応を考えていきたい」と答えている。

高校生AV出演問題に関する制限処置、あるいは特別法の制定につながる議論については、今後、本格的に進む可能性がありそうだ。

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