「DVなら単独親権」は “机上の空論”か DV被害当事者たちが「共同親権導入」に反対の声を上げる

弁護士JP編集部

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「DVなら単独親権」は “机上の空論”か DV被害当事者たちが「共同親権導入」に反対の声を上げる
DV被害の当事者である女性二名(1月16日都内 /弁護士JP編集部)

1月16日、「共同親権」導入に向けた民法改正要綱案について、配偶者からDVを受けた被害当事者や支援団体の代表者らが、反対の声明を発表する記者会見を開いた。会見では、離婚後共同親権が導入されるとDV・虐待のケースを除外することは困難であり、子どもが危険にさらされる可能性が高いと訴えられた。

「DV・虐待の恐れがあるなら単独親権」は「机上の空論」

2024年(令和6年)1月9日、法制審議会の家族法制部会は、離婚後も父母双方に子の親権を認める「共同親権」の導入に向けた民法改正要綱案の取りまとめに向けた意見交換を行った。

現在の法律では、夫婦の離婚後には子どもの親権はどちらか一方が取得する「単独親権」制度が採用されている。改正要綱案はこれを見直し、原則として夫婦が協議して共同親権か単独親権のどちらとするか選択可能にすることを提案するもの。ただし、改正要綱案でも、配偶者に対するDV(家庭内暴力)や子どもに対する虐待の恐れがある場合には、家庭裁判所が単独親権と決めるとされている。

しかし、家庭内で発生するDVや虐待は証拠によって立証することが難しく、現行の法制度においてもDV・虐待の被害が看過され被害者の避難や救済が十分に実現できていない、という問題は以前から支援団体などによって指摘されてきた。

「「離婚後共同親権」から子どもを守る実行委員会」の代表世話人である熊上祟教授は、法制審議会が単独親権の現行制度を支持する意見が多数派とされるパブリックコメント(パブコメ)を「考慮しない」と表明したことについて、「パブコメを無視した共同親権ありきという取りまとめは許されない」と批判する。

また、今回の会見では、共同親権が実現した場合には配偶者や子どもがDV・虐待から逃れることはさらに困難になるという問題が強調された。配布された資料には「離婚後共同親権を導入してもDV・虐待のケースを除外できるという考えは机上の空論であり、当事者に危険をもたらすものです」と記載されていた。

「離婚後共同親権は子どもを幸せにしない」一人目の女性の訴え

会見には子どもと同居している親でありDV被害の当事者でもある女性二名が参加して、それぞれの体験を語った。

一人目は、過去に元夫から暴力や性行為の強要などのDVを受けた女性。

離婚を切り出した際には罵倒され突き飛ばされるなどの暴力を振るわれ、その場面を目撃した子どもは「こわい」とおびえた。「養育費を必ず支払う」という元夫の口約束を信じて協議離婚したが、養育費は支払われず、元夫から面会交流調停が申し立てられた。調停委員に「住所を知られたり暴力を振るわれたりする恐れがある」と訴えても「実際にやってみないと被害が出るかどうかわからない」と言われてしまい、強制的に面会交流が実施されることになる。

面会で元夫は子どもの「もう帰りたい」という希望を無視して子どもの身体を触り続け、嫌悪感を抱いた子どもは「もう面会に行きたくない」と泣き、指や爪をかむなどの自傷行為も行うようになった。写真や診断書を提出しても調停委員や(家庭裁判所の)調査官は考慮せず、面会は続行された。

「これは決して一部の極端な事例ではありません。DVや虐待があるのに面会を強制されて苦しんでいる親子がたくさんいます。このような実態に対して十分な調査も議論もされないまま、被害者が後遺症に苦しみながら必死に書いたパブコメが無視され、離婚後共同親権が法制化されようとしていることはとても恐ろしいことです」と女性は語る。

また、女性は「子どもと自分の身を守りながらDVの証拠を取ることはとても難しい」「加害者と、子どもを守る被害者は対等な関係性ではなく、子の利益になるような話し合いは不可能です」と主張して、離婚後共同親権は子どもを幸せにしないと訴えた。

「裁判地獄」はどこまで続くのか…二人目の女性の訴え

二人目の女性は、結婚当初は「結婚したら我慢することはお互いさまだ」「怒らせてしまうのは自分の頑張りが足りない」と考えて、夫の顔色を気にしながら生活していた。しかし、子どもを出産した後にも夫は育児を支えず、子どもがいても怒鳴った。「このままでは自分が壊れる」と感じた女性は別居を開始したが、別居後に友人から「それってDVだよ」と言われてはじめて「自分はDVを受けていた」と自覚する。

「(夫との)同居時には(DVを)自覚できませんでしたし、自覚できていたとしても自分を守るのに必死で録音やメモを残せる状況にはありませんでした。いまになってDVの証拠を出せと言われても出せません。夫は面会交流調停、私は離婚調停を申し立てました。家庭裁判所では面会交流の話ばかりでした。私は手元にわずかに残っている夫からの脅迫メールや配偶者暴力相談支援センター記録、保健士さんから紹介された精神科の意見書、子どもの主治医の意見書、保育園の園長の意見書を提出しました」。

しかし、家庭裁判所の調停員や裁判官は、提出された証拠は夫と子どもの面会交流を認めない理由にはならないと判断。女性は高裁まで上告したが、面会交流に関わる手続きだけでも五年間という時間と百万円以上の費用がかかった。現在では夫が精神的苦痛を訴えており、慰謝料の請求や再度の面会交流調停の申し立てがされる可能性も女性は危惧している。

「裁判の終わりが見えません。もしここで離婚後共同親権が導入されたら、親権をめぐって新たな申し立てがされるに違いありません。これから離婚裁判ですが、DVがあったことを証明するのは困難が予想され、もう長い長い裁判をしたくないので、性格の不一致を離婚理由にしようと思っています。マスコミは【共同親権、DVは例外】と報じていますが、私はDVと判断されるのでしょうか。DV被害を訴えても訴えなくても、どちらを選んでも地獄です。離婚後共同親権になったらさらに裁判が増えるだけです」。

NPO法人「全国女性シェルターネット」の山崎友記子事務局長は「面会交流をめぐって高裁まで争うことはよくある話です」として、二人目の女性の事例は極端なものでないと補足した。

全国女性シェルターネットの山崎事務局長(1月16日都内 /弁護士JP編集部)

「DVの事実を立証することは難しい」支援団体が共同親権に抱く懸念

山崎事務局長は「いまは加害者の暴力が非常に巧妙化しており、殴る蹴るなどの跡が残る方法ではなく、精神的にコントロールして証拠が残らないような追いつめ方をしてくるが、それは身体的な暴力よりも恐ろしい結果を生む」と分析する。

また、日本にはDVの事例を認定する機関は存在せず、共同親権が導入された場合にも「DVがあるから単独親権とする」と認定できるのは裁判所しかないことを指摘。共同親権を導入した際のDVのリスクアセスメントが法制審議会では議論されていないことについて、危惧を表明した。

熊上教授は、離婚後共同親権は「離婚後もパパもママも(子どもと関わる)」という制度であるとの誤解が広まっていると分析。親権を取らなかった方の親が子どもと関わることは現行法でも可能である一方で、離婚後共同親権が導入されると子どもの通園や進学、転居や病院での手術についても父母両方の合意が必要とされることから、「(親権を取らなかった親によって)子どもの希望をふさぐ、子どもを支配する制度」になると論じた。

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