えん罪「大川原化工機事件」地裁敗訴の国と都が控訴 日弁連会長「強大な権限を不正に濫用」

弁護士JP編集部

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えん罪「大川原化工機事件」地裁敗訴の国と都が控訴 日弁連会長「強大な権限を不正に濫用」
「メンツのため」との批判も続出している(リュウタ / PIXTA)

化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長ら幹部3人が不正輸出の疑いで逮捕・起訴された事件をめぐり、昨年12月末に東京地裁が「検察と警視庁による捜査は違法だった」として国と東京都に1億6200万円余りの賠償を命じた判決について、国と都は不服として10日に控訴した。

これを受け、日本弁護士連合会の小林元治会長は談話を公表し、捜査にあたった警察官や検察官の行為について「強大な権限を不正に濫用したもの」と批判した。

現職警察官が事件の「ねつ造」を証言

大川原社長らは2020年3月、同社が輸出した「噴霧乾燥機」が規制対象であるにもかかわらず、国に無許可で輸出したとして外国為替及び外国貿易法違反の疑いで逮捕・起訴された。しかし輸出規制要件となる性能を立証できなかったことから2021年7月に起訴が取り消された。

逮捕後、大川原社長らは無罪を主張し何度も保釈請求をしたのにもかかわらず、約11か月にわたり身柄拘束され続けた。社長とともに逮捕・勾留された役員の相嶋靜夫さんは拘置所で胃がんが見つかったものの、保釈が認められないまま死亡している。

起訴取り消し後、社長らには刑事補償の手続きが取られ、事実上の無罪が認められた。その後社長らは国と都を相手取り、「不当な捜査で逮捕された」として東京地裁に国家賠償訴訟を提訴。証人尋問では、現職警察官が事件の「ねつ造」を証言するなど、異例の展開となった。

判決は、前述の通り検察と警察庁による捜査の違法性が認められ、国と都が敗訴。これについて日弁連の小林会長は「本判決において国家賠償法上違法とされた警察官や検察官の行為は、強制捜査や公訴提起といった強大な権限を不正に濫用したものと言わざるを得ず、本判決の判示は正当なものである」とコメントしている。

「メンツのため」「税金の無駄遣い」

報道によれば、国と都は「捜査の違法性について上級審の判断を仰ぎたい」ものと見られる。これには、「メンツのため」「税金の無駄遣い」など、著名人から一般のSNSアカウントまで、各方面から批判の声が上がっている状況だ。

日弁連の小林会長は事件について「罪を認めない『無実の人間』が拘束され続けたのであり、まさに『人質司法』による身体拘束がなされた事案」であるとして、「本件のような悲劇を二度と繰り返さないためには、無罪を主張し、あるいは黙秘権を行使する被疑者・被告人を殊更長期間拘束する『人質司法』の解消が必要不可欠」とコメントしている。

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