ワイドナ出演急転白紙…ダウンタウン松本・吉本興業VS出版社「裁判に注力するための仕事休業」は戦略?【弁護士に聞く】

弁護士JP編集部

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ワイドナ出演急転白紙…ダウンタウン松本・吉本興業VS出版社「裁判に注力するための仕事休業」は戦略?【弁護士に聞く】
裁判に突入すれば、1~3年は要する長期戦になりそうだ(bee / PIXTA)

タレントの松本人志氏が芸能活動の休止を発表した。週刊誌による性加害報道が続く中、「さまざまな記事と対峙して、裁判に注力したい」がその理由だ。本当の理由はともかく、裁判のために仕事を休むことの有用性や戦略性について、弁護士に聞いた。

ひとまず”休業”を選択した背景

昨年末、週刊誌が過去の松本氏の性加害疑惑について報道。それに対し、所属の吉本興業は「事実無根」とし、その後、松本氏の休業が発表された。週刊誌は続報も含め、報道内容に自信を見せ、一方の松本氏側は事実無根を強調しながらも、記者会見などは行わず、裁判での決着を視野に動いている。

両者は互いに引かず、徹底抗戦の様相を呈しているものの、ネット上では、松本氏側が会見を行わないことへの非難が多く寄せられている。「本当にシロなら記者会見すべきだ」との声が大勢を占め、松本氏が「闘いまーす」とのXでのポストで会見をスルーし、懇意のテレビ番組への出演をほのめかしたことで、さらにその論調は激しくなっている。

吉本興業が発表した松本氏の今後の活動のお知らせ(出典:吉本興業HP https://www.yoshimoto.co.jp/)

松本氏側(吉本興業)が発表した休止表明を読み解くなら、「このまま芸能活動を継続すれば、さらに多くの関係者や共演者の皆様に多大なご迷惑とご負担をお掛けすることになる」は、とくにスポンサー、テレビ局に対する配慮といえ、休業もやむなしと捉えられる。

問題は、「一方で」と続く、次の一文だ。「裁判との同時並行ではこれまでのようにお笑いに全力を傾けることができなくなってしまうため」として、当面の間は活動を休止するという。なんの問題もなく、本当に事実無根ならむしろ、ネタに展開して笑いに転化させることも可能だ。そうではなく、「お笑いに全力を傾けられない」というのは後ろめたさがあるからなのかと、疑念も膨らむ。

弁護士が推察 松本氏側の戦略性と裁判の行方

果たして、全面戦争を見据え、休業を選択した松本氏側にどのような戦略があるのか、勝算はあるのか…。幅広い分野で豊富な実績があり、上場企業での勤務経験もある中井和也弁護士に、その有用性や裁判における展望などについて推察してもらった。

裁判をするなら実際に動くのは弁護士。一般的に、裁判のために当事者が仕事を休んだりするものなのでしょうか。

中井弁護士:その通りで、通常は、弁護士に依頼しますから、長期間、ご当人が仕事を休むということはないと思われます。

例えばあえて休むことで、その間の収益の損失分を賠償額に上乗せすることは可能なのでしょうか。

中井弁護士:仕事を休んでいるのは、ご自身の意思です。なので、その間の収益分を賠償額に上乗せすることは容易ではないでしょう。

ただし、事実無根の報道による精神的なストレス等によって休業を余儀なくされたということであれば、その分の損害を上乗せできる可能性はあります。

また、報道が出たことによって、CM等の収益がなくなったという点を重視して、損害賠償額を上乗せできる可能性はあると思います。

「裁判のために休む」ことが一般的でないとして、休んでまで裁判に備えることのメリットとしてどんなことが考えられるのでしょうか。

中井弁護士:(休業理由の)実際のところは、テレビ関係者に対する配慮という面が強いかと思われます。

現時点で事実かどうか分からないですが、そうした報道が出たことで松本人志さんがテレビに出演することでスポンサーが離れてしまう。そんなことになるようなら、テレビ関係者に損害を生じさせることとなります。

そこで、吉本興業と松本人志さんが打ち合わせをして、一旦、松本人志さんの報道が事実ではないと確定するまでは休業と決めた可能性があります。

また、松本人志さん本人としても、ありもしない報道によって精神的なストレスを抱え、お笑いに集中できないために休業した可能性もあります。

そもそも今回のような密室での性加害行為で明確な証拠を出せるものなのでしょうか。

中井弁護士:こういった密室での性加害行為については、その場にいた関係者の証言やその後のやりとり(LINE等)、被害申告をした経緯などをふまえて事実があったかどうかの判断がなされることとなります。

記事を掲載した出版社を名誉毀損で訴えるようです。勝敗の分岐点は?

中井弁護士:判例上、「事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、右行為には違法性がなく、仮に右事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される」との判断がなされております。

そのため、松本人志さんが性加害行為をしたかどうかが争点ではなく、「性加害行為をしたと判断するに足りるだけの取材、調査をしたかどうか」がポイントとなります。

まだ、これからも、さまざまな記事が出てくるかもしれませんが現時点では、全ての報道が出ている訳ではないため、判断がつきづらいですね。

過去に出版社を相手取った名誉棄損の例では大きな額の獲得は難しいようです。今回のケースにおけるご見解は?

中井弁護士:松本人志さんは高額の収入を得ています。損害賠償額が高額になる可能性はあり得る、と私は考えています。

こういったケースは滅多にないため、金額は正直どの程度になるか検討がつかないですね。

一般的にこのようなケースだと決着までにどれくらいの時間を要しそうでしょうか。

中井弁護士:どこまで争うかによりますが、1年〜3年程度はかかる可能性があるかと思います。

もちろん、途中で和解で決着となれば、早期決着もあり得るでしょう。

「裁判に注力したい」との松本氏の休業理由は、あくまで一つの口実でしかないようだが、超大物タレントが、出版社の”砲撃”を真っ向迎え撃つ形となる裁判。ポイントが、出版社側の「取材力・調査力」となれば、まさに「タレント生命」VS「出版社の存在意義」をかけた空前の大一番となる。

休業前最後のメディア出演として調整が進められていた「ワイドナショー」(14日日曜日10時~)での”あいさつ”は10日、急転見合わせとなったが、これで闘争の舞台はひとまず、法廷へと移行することになった。

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