コロナ緊急事態宣言下で取り消し・延期になった裁判も多数。災害時の司法手続きはどう定められている?

弁護士JP編集部

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コロナ緊急事態宣言下で取り消し・延期になった裁判も多数。災害時の司法手続きはどう定められている?

2020年4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて国内では初めて緊急事態宣言が発令された。その後、第2波、第3波と感染の波が押し寄せる度、各都道府県で緊急事態宣言が出された。4回目の緊急事態宣言は2021年9月末日に解除されたが、多くの国民は度重なる緊急事態宣言に慣れたのか、4回目にもなると街には多くの人出が見られた。

しかし、初めて緊急事態宣言が出た直後は、社会全体が不安感に包まれ、街は閑散としていたことは記憶に新しく、当時は学校が休校になったり、さまざまなイベント等が中止に追い込まれたりした。

まるで社会全体が機能停止に陥ったかのような印象を受けた1回目の緊急事態宣言下で、司法はどのような動きをしていたのだろうか。裁判所は適切に運営され、刑事裁判や民事裁判などの司法手続きは正常に動いていたのだろうか。

1回目の緊急事態宣言下での裁判の状況や災害時における裁判の取り扱いなどについて、五十嵐優貴弁護士に話を聞いた。

1回目の緊急事態宣言中、裁判は通常通り動いていたのでしょうか。

緊急事態宣言が発出された地域の裁判所については、緊急性が認められる一部の手続きを除いて、期日(裁判のこと)の取り消しや延期が相次ぎました。

緊急性が認められるものとは、たとえば刑事事件の保釈に関する判断が挙げられます。刑事事件で逮捕されて身柄が拘束をされていると被告人は心身ともに厳しい状況に置かれます。そのため裁判所は、身柄拘束の解放に直結する保釈請求の判断については、緊急事態宣言下でも原則として止めることはありませんでした。

民事事件では、たとえばDVに関することなどは、まさにこの瞬間に配偶者から暴力を受けているということですから、すぐに判断をしていくということになっていました。ほかにも子どもの監護や虐待などに関する事案も原則として止めることなく、手続きは進んでいました。

刑事事件において被告人はどのような扱いがなされていたのでしょうか。

裁判が中断しているわけではなく期日が延期されたという扱いなので、従前の身柄の状況が維持されるのが原則でした。ただ、身体拘束がいたずらに長期化しないように、在宅事件に比べて身柄事件については可能な限り実施、もしくはなるべく早く期日を指定するなどの配慮がされていたようです。やむを得ずに身柄事件で期日が延期された場合、その他の事情によっては保釈が認められることもあったようです。

裁判員裁判については数か月、期日が延期した裁判もあったようです。刑事裁判は通常、裁判官、検察官、弁護人の日程を調整すれば事足りますが、裁判員裁判の場合は再度、裁判員の選任から行わなわなければならず、結果的に半年以上延期された事案があったと耳にしました。

民事事件において、時効がある事件などにはどのような影響があったのでしょうか。

民法では、裁判上の請求によって時効の完成は猶予されると規定されています。つまり、緊急事態宣言の影響で期日が延期されたとしても訴状が裁判所に提出されている以上、時効の完成は猶予されていたということです。そして、裁判所が緊急事態宣言の影響を受けて、訴状の受け取り自体を延期するということはしていませんでしたので、時効については原則として影響はなかったといえます。

なお、時効とは関係ありませんが、損害賠償などに関わる遅延損害金については、支払義務を負う側にとっては、期日が延期されることによって事実上の不利益が生じたといえます。

緊急事態宣言に限らず、大きな災害が起きたとき、裁判の取り扱いをどうするかといった何か規定などはあるのでしょうか。

民事訴訟法上では、天災があったときには訴訟自体を中止することができるという規定があります。ただ、これを適用するというよりは裁判所でBCPと呼ばれる業務継続計画が別で策定されていますので、その計画に従って運営されることが多いでしょう。緊急事態宣言に関係するものでは、「新型インフルエンザ等対応業務継続計画」というものがあり、ほかにも地震を想定して、「首都直下地震等対応業務継続計画」があったりします。

これらBCPに従って裁判所は優先する業務や中断する業務などを判断し、事実上の対応をとっているといえます。

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