彼の奥さんを殺して…“闇落ち”につけ込む「復讐代行業者」のワナ

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

彼の奥さんを殺して…“闇落ち”につけ込む「復讐代行業者」のワナ
株式会社RCLの調査より

先日、ある探偵事務所の調査で、パートナーに浮気された人の約4割が「復讐したことがある」と回答したことが分かった。

復讐といえば、浮気現場に乗り込む、自分も浮気をする、 SNSで浮気の事実を拡散するなど様々な手段が連想されるが、“復讐のプロ”として、より大胆な工作を請け負う「復讐代行業者」が存在することをご存じだろうか。

浮気だけが復讐心を生むきっかけではない。今年2月には子ども同士のトラブルを巡り、復讐と称してターゲットの車を傷つけた元復讐代行業者の男と、依頼者の女が逮捕されたことも話題になった。

復讐代行業者の実態はどのようなものなのか。その違法性、万が一トラブルに巻き込まれてしまった場合の法的対処法を紹介する。

「復讐代行業者」検索すると26万件以上ヒット

復讐代行とは映画やドラマの世界のような話だが、Googleで「復讐代行業者」と検索すると、3月30日時点で約265,000件ものヒットがある。表示されたページをいくつかクリックしてみると、実在する業者のホームページらしきものも少なくない。「復讐します」「何でもお受けします」「別れさせ屋」といったキャッチーな言葉とともに、料金や問い合わせ先など、依頼者のための具体的な情報も掲載されている。

依頼から実行までは、大まかに以下の流れで進める業者が多いようだ。

  • 問い合わせ
  • カウンセリング・ヒアリング→依頼を受けられるか判断
  • 見積り
  • 契約
  • 入金
  • 実行
  • 結果報告

探偵が副業としているケースもあるが…

一体、どのような人たちが復讐代行業を営んでいるのだろうか。日本調査業協会(※1)の高橋新治さんは「探偵が副業でやっているという話も聞きますが、探偵と、復讐代行業者や別れさせ屋はまったく別のものです。そもそも探偵業を営むには『探偵業の業務の適正化に関する法律(以下、探偵業法)』に従う必要があり、復讐や別れさせ工作に伴う行為は、これに違反する可能性が高い」と指摘する。

※1 探偵事務所・調査会社・興信所が所属する業界団体

特に、探偵業法第6条「探偵業務の実施の原則」は、以下の2つをしてはならないと定めている。

  • 他の法令において禁止又は制限されている行為
  • 人の生活の平穏を害する等個人の権利利益を侵害

カップルを無理に別れさせたり、嘘の事実を吹聴して人間関係を破綻させたり、冒頭で紹介した事件のようにターゲットの車を傷つけたりすることは、合法的な探偵業務から逸脱していることは明らかであろう。

日本調査業協会・高橋新治さん

また、高橋さんは「復讐や別れさせ工作が成功するかはターゲットの気持ち次第。成功率が低い上に、結果が出なくても高額な報酬を支払わなくてはならないため、金銭面でトラブルになるケースも珍しくありません」と続ける。

ちなみに、報酬金額は業者や工作内容によってまちまちだが、工作員1人あたりの稼働時間で換算されるケースが多いようだ。

「探偵業と同様、張り込みや工作をしている間はターゲットから目を離すわけにはいけません。よって、基本的に1組2人以上で行動すると考えられます。工作をドラマ仕立てにするなど、より高度な技術が必要になれば、それだけ報酬金額も跳ね上がるでしょう」(日本調査業協会・高橋さん)

依頼者、復讐代行業者ともに逮捕された事件も

実際に、過去には復讐代行業者を巡るトラブルが事件化したケースもある。代表的なものをいくつか紹介する。(年齢はいずれも逮捕当時)

●実行されなかった殺人依頼、詐欺被害を警察に相談し発覚

2005年9月、インターネットで見つけた復讐代行業者に不倫相手の妻の殺害を依頼したとして、A子(32)が犯罪請託罪で逮捕された。

A子は事前報酬として復讐代行業者に約1500万円を支払ったものの、一向に計画が実行されなかった。詐欺被害を疑ったA子が警察に相談し、一連の事件が発覚した。

逮捕後、A子は起訴猶予となったが、職場は解雇されている。また、復讐代行業者のサイト管理者と、A子の窓口になっていた自称探偵業の男はともに詐欺罪で逮捕・起訴。サイト管理者には懲役1年6か月、執行猶予4年の判決が、自称探偵業の男には懲役2年6か月の実刑判決が下された。

●元ターゲットの恋人に正体が発覚。口論の末に殺害

2009年4月、不倫相手の女性を殺害したとして、別れさせ屋の工作員B(30)が逮捕された。

Bと被害女性は、別れさせ工作をきっかけに出会った。女性の元夫が、離婚するための別れさせ工作として、女性に接近するようBに依頼したのだ。工作は成功し元夫と女性の離婚は成立したものの、Bはその後も女性との交際を続けていた。

ところがある日、女性はBが別れさせ屋の工作員であること、さらには妻子がいることを知る。不信感を募らせるようになった女性がBに別れを切り出すと、口論になり、Bが女性を殺害するに至った。

Bは殺人罪に問われ、懲役15年の判決が言い渡された。

●「あなたへの復讐依頼を請け負いました」と脅迫

2017年5月、知人女性に「あなたに対しての復讐依頼を当社が請け負いました」などと書いた手紙を送りつけ脅迫したとして、病院職員の男C(27)が逮捕された。

Cはインターネット上に実在する復讐代行業者を名乗っていたという。警察の調べに対し「憎しみが込み上げて嫌がらせのつもりで手紙を送った」と容疑を認め、余罪についても調べられることとなった。

前田啓吾弁護士「直ちに違法だとは言いきれない」

復讐代行業者は、過去の事件例からも違法性が高いと考えられるが、法律のプロはどのように見ているのだろうか。万が一トラブルに巻き込まれてしまった場合の対処法とあわせて、前田啓吾弁護士に聞いた。

「復讐代行業」という生業に違法性はないのでしょうか。

前田弁護士:直ちに違法だとは言いきれません。ただし「ターゲットに復讐する」「カップルを別れさせる」といった目的自体が異常ですので、工作過程で傷害、暴行、住居侵入など何かしらの刑罰法規(刑事罰を定めた法律)に違反してしまう可能性は十分あります。

復讐代行を依頼することは罪に問われないのでしょうか。

前田弁護士:復讐代行業者の行為が刑罰法規に触れた場合、業者と協働したとして依頼者も責任を負う可能性があります。

依頼者と業者の罪の重さの違いについては、例えば復讐代行業者が暴走して過剰に行動したのであれば、復讐代行業者の罪が重くなります。反対に依頼者の意向が強く反映された行動だったのであれば、自ら手は下していなくとも、依頼者のほうが重い罪を被ることもあるでしょう。

復讐代行を依頼し、業者とトラブルになった場合はどうすればよいのでしょうか。

前田弁護士:トラブルの内容にもよりますが、お金関係のことであれば弁護士に相談して、民事訴訟を起こすなど法的解決を図ったほうがいいと思います。もし復讐代行業者から脅迫されるなど、刑罰法規に触れるようなことをされた場合は、警察に相談したほうがいいでしょう。

「復讐代行を実行します」という文書を送り付け脅迫する手口もあるといいます。身に覚えはないけれど、無視するのも怖い場合はどうすればよいのでしょうか。

前田弁護士:文書の送り主に直接連絡することはリスクが高いです。

そもそも、こういった文書を送ってくること自体が脅迫罪にあたる可能性が高いので、無視するのが怖ければ警察に相談して対応してもらうのも手です。もしどのように対応すればよいか迷った場合は、弁護士に声を掛けていただければ、警察に相談するかも含めて力になれると思いますよ。

取材協力弁護士

前田 啓吾 弁護士

前田 啓吾 弁護士

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア