3人に1人が再犯。少年院を出た後の人生に潜む闇

弁護士JP編集部

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3人に1人が再犯。少年院を出た後の人生に潜む闇
画像提供:認定NPO法人 育て上げネット

成人年齢の引き下げに伴い、4月1日に改正少年法が施行される。新たに成人となる18・19歳にも引き続き少年法が適用されるものの、「特定少年」として、17歳以下の少年(※1)とは一部異なる扱いを受けることとなる。

2021年に発表された少年犯罪のデータを見ると、前年に確認された再犯率は34.7%だった(犯罪白書より)。罪を犯した少年の約3人に1人は再犯に手を染めているということになる。

ではなぜ、少年たちは再び罪を重ねてしまうのか。そこには、一度過ちを犯した彼ら(※1)に対する、社会の厳しい目がある。

本記事では、少年院を退院した若者にスポットをあて、彼らの現状と支援の動き、改正少年法が与える影響に迫る。

(※1)本記事では性別を問わず「少年」「彼ら」と呼称を統一します。

少年の自立更生を阻む“社会の目”

20歳に満たない「少年」が事件を起こした場合、原則としてそのすべてが家庭裁判所に送られ、処分が決定される(全件送致)。少年事件といえば「少年院」を連想する方も多いかもしれないが、下図のように、家庭裁判所が「保護処分」と判断した場合の対応の一つが「少年院送致」だ。

法務省によると、少年院とは「家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、その健全な育成を図ることを目的として矯正教育、社会復帰支援等を行う法務省所管の施設」であり、おおむね12歳から20歳(※2)までの少年を収容している。

(※2)家庭裁判所の決定などにより、20歳を過ぎた少年の収容継続も可能。また改正少年法の施行後も、18・19歳の少年(特定少年)は引き続き少年院送致が可能となる。

少年院入院後は、規則正しい生活を送りながら「生活指導」「教科指導」「職業指導」「体育指導」「特別活動指導」の5分野からなる矯正教育に取り組み、社会復帰を目指す。

法務省矯正局『少年院のしおり』より

少年院は、刑罰として収容される「刑務所」などとは異なり、あくまで少年の更生を目的とした施設だ。よって、少年院に入院したとしても前科とはならない。

ところが、入院中に罪の意識を改め、いざ志を持って退院したとしても、彼らには“社会の目”が容赦なく降り注ぐ。特に、すでに社会人になっていたり、家庭が経済的に苦しかったりするなど自立を求められる若者を取り巻く状況は厳しい。

退院後の若者を支援する「認定NPO法人 育て上げネット(以下、育て上げネット)」の髙崎大介さんは、「賃貸契約、携帯電話の契約、就職活動、クレジットカードの発行など、生活のために必要なあらゆる場面で壁に突き当たるケースが少なくありません。結果、貧困状態に陥ったり、もとの交友関係に戻ったりして、再び罪を犯すリスクが高まってしまうのです」と実情を語る。

弁護士JPのインタビューに応じる育て上げネット・更生支援事業担当の髙崎大介さん

「わからない」が言えない少年たち

「育て上げネット」は、引きこもりやニートなど、社会との繋がりを失った若者たちを対象に持続的な就労をサポートする団体。その活動の一環として5年ほど前から続けているのが、少年院を退院した若者たちの自立更生サポートだ。

退院した若者は「手早く収入を得たい」という考えから、時給など条件だけを見て就職先を決めてしまうケースもある。「いきなり仕事を掛け持ちしようとする方もいますが、慣れない環境の中で孤立し、挫折してしまうことも少なくありません」(髙崎さん)

支援団体を介して就職先を探すことに煩わしさを感じる若者もいる。また、他人に頼ることが苦手な若者も多い。

事実、育て上げネットでも退院した若者が自分たちの支援に繋がりにくいことが課題だった。そこで現在、育て上げネットは少年院での矯正教育の一環として学習支援にも参加し、入院中から少年たちとの関係性づくりに取り組んでいるという。

「学習支援を通して驚いたのは、『わからない』と言えない子が多いことです。このまま退院した場合、社会生活の中でつまずいたとき誰にも相談できず、ふとしたきっかけで再び犯罪に引き込まれてしまうリスクが高いと感じました」(髙崎さん)

犯罪白書によると、2020年の少年院入院者の被虐待経験率は、男子37.9%、女子68.6%だった。一概には言えないかもしれないが、彼らの育ってきた環境と他人への頼れなさ、自立更生の難しさは、決して無関係ではないだろう。

令和3年版犯罪白書「第3編 少年非行の動向と非行少年の処遇」より

改正少年法が自立更生に与える影響は

少年院に入院した少年の約99%は、保護観察下で社会生活を送る「仮退院」を経て、完全な社会復帰を果たしている。仮退院中は「保護観察官(※3)」「保護司(※4)」による指導・支援を受けながら生活することになるが、公的な制度であるため、彼らが若者たちに長期的に寄り添うことは難しい。

(※3)保護観察官:心理学、教育学、社会学などの専門知識を持つ国家公務員
(※4)保護司:地域性・民間性を持つボランティア

そこで、公的ケアではカバーしきれない部分をサポートしているのが、育て上げネットのような民間団体だ。育て上げネットの場合、保護観察官や保護司のサポートを離れた仮退院後にも、月1回ほど面談の機会を設けている。また、カウンセラーなどの心理職やソーシャルワーカーとも連携し、若者たちにとって「困ったときに気軽に相談できる場所」であり続けられるよう努めているという。活動開始から5年で、30人ほどの退院後サポートを行ってきた。

なお、4月1日に施行される改正少年法について、髙崎さんは「若者たちの自立更生にどんな影響を与えるのかは、正直わからない」と言う。

「ただし、私たちはできることを続けていくしかありません」と髙崎さんは続ける。

退院した若者の自立更生には、社会の理解が不可欠だ。育て上げネットでは「理解者を増やすことも使命」として、クラウドファンディングを通した周知活動も行っている。寄付者(1000円/月)に対し、支援の様子など活動報告のレポートを配信するほか、コロナ禍以前には少年院でのスタディーツアーも実施していた。

「支援者が増えれば増えるだけ、自立更生しようと頑張る若者たちに『社会にはあなたを応援してくれている人がこれだけいるんだよ』と言うことができる。現在は120人ほどに参加いただいていますが、目標は1000人です」(髙崎さん)

無意識に“厳しい目”を向け、現状を変えようともがく若者たちの自立更生を阻んでいるのは自分自身かもしれない。まずは彼らを知ることで、社会を少しだけいい方向へ進められるのではないだろうか。

クラウドファンディングの詳細は こちら

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