飲食店の被害推定“年2000億円” 年末年始の宴会予約「無断キャンセル」客に損害賠償請求はできるのか?

弁護士JP編集部

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飲食店の被害推定“年2000億円” 年末年始の宴会予約「無断キャンセル」客に損害賠償請求はできるのか?
「とりあえず予約」後にそのまま忘れるケースが多いという(白熊 / PIXTA)

「予約をした客が来ない」。経済産業省は2018年、飲食店における無断キャンセル「No show(ノーショー)」の被害額は推計年2000億円に上ると発表した。

一般社団法人「日本フードサービス協会」によれば、今年10月度の「外食産業市場動向」は前年(同月)と比べ約8.8%増加。飲食店業界がコロナ禍からの復調を見せる中、大人数での宴会需要が高まる年末年始に向け、「ノーショー」も増えることが懸念されている。

「うっかり」「悪質」ノーショーの実態

「忘・新年会の時期は、大人数で行ける、貸し切りができるなど条件に合うお店に人気が集中して席の奪い合いが起こるので、幹事さんが『とりあえず予約』して、そのまま忘れるということが起こります」

こう説明するのは「無断キャンセル対策推進協議会」賛同企業で、飲食店向け予約サービスの開発・販売を行う、株式会社トレタの広報担当・丸山寛子さんだ。丸山さんの元には、無断キャンセルを受けた飲食店の被害状況などが集まってくる。

ノーショーには、前述のように客側がキャンセルの連絡を「うっかり」忘れてしまったというケースが多いというが、なかには悪いことだとわかっていながら確信犯的にノーショーを行う“悪質”な客もいる。

最近、SNSでも話題になったという悪質なノーショーは、「個室を独占するために、人数を水増しして予約していた」というものだ。

「6名以上からしか個室が取れないお店に対し、彼女とのデートで個室にしたいがために6名で予約していたそうです」(丸山さん)

一見すると迷惑客ではあっても、“キャンセル”はしておらず、来店もしているため「ノーショー」とは関係なさそうにも思えるが、丸山さんは「2人でも来店したからいいと思われるかもしれませんが、飲食店には一席あたりの売上見込みがあり、実質4席分無断キャンセルと同じです」と憤る。

飲食店の“損害”は食材費だけじゃない

同じように、コースなど食べ物を予約していなければ、当日にキャンセルしても食材が無駄になることはないと考える人もいるかもしれない。しかし、丸山さんは「無断キャンセルでの損害は“食材費”に限らない」と説明する。

「飲食店は予約のあるなしで忙しさが変わるので、予約状況を見ながらシフトを組んだりしています。それが突然キャンセルになってしまうと、せっかく頼んだスタッフの人件費が無駄になってしまう。見込んでいた売り上げもなくなるわけですから、お店によっては人件費を回収できるかどうかも怪しくなってしまいます」(丸山さん)

また、飲食店は客が予約時間に来店しない場合でも、すぐに他の客をその席に案内できるわけではない。

「電車が遅れてるのかもとか、何かあったのかもと思って、30分ぐらいは席をキープしておく飲食店さんが多く、その間売り上げが立ちません。飛び込みでお客さんが来て『あの席は空いてる?』と言われても断るしかないため、機会損失にもつながります」(同前)

ノーショーに損害賠償「請求できる」

このように飲食店の頭を悩ませるノーショーだが、クレーマー対策など「企業防衛」に注力する桑島良太郎弁護士によれば、悪質なものについては法律で対応できるという。

「法的には、予約が成立した時点で、当該店舗と予約した顧客との間に『飲食店の利用契約』が成立していると考えられます。その契約が履行できない『ノーショー』は、『契約の不履行』ということで、損害賠償を請求することが可能です」(桑島弁護士)

弁護士費用をかけて損害が補填(ほてん)できるのかは事案ごとに考える必要があるというが、被害額が少額でも損害賠償自体は請求できる可能性が高いという。「損害の計算方法としては、予約客がコースを選択していたのであれば、それに基づいた計算も可能ですが、注文が決まっていない場合は、想定される売り上げなどから仮定計算をしていく方法もあると思います」(同前)。

飲食店ができるノーショー対策

桑島弁護士は、最初からキャンセル前提の悪質な客でなければ、予約時にキャンセルポリシーを伝えておくだけでもノーショーの抑止効果があると話す。

「電話で予約を受ける時でも、口頭で『当日のキャンセルはキャンセル料を頂戴します』と伝えておくと心理的プレッシャーが生じるので抑止力になると思います。または予約日の前にリマインドの電話やメールをしておくのも良いでしょう」(桑島弁護士)。

前出の丸山さんもリマインドなどの働きかけについて、「『うっかり』キャンセル連絡をしていなかった場合などにすごく有効です」と話す。しかし、こうした確認連絡やキャンセル料の徴収なども飲食店側の負担になっているとして、こう続ける。

「私どもの予約サービスでも、何日前と設定して、予約者の方にショートメッセージを送ることができる機能がありますが、同様のサービスやツールがさまざま出ています。予約にかかる手間はこうしたサービスやツールに頼っていただいて、飲食店の方にはおもてなしと、おいしいお料理を作ることに専念していただけたらうれしいです」(丸山さん)

新型コロナが5類感染症に引き下げられて初めての忘・新年会シーズン。丸山さんによれば、飲食店の予約数がコロナ前の水準に近くなっているそうだ。

確信犯的なノーショーは論外として、「うっかり」ノーショーは本来、飲食店の手を煩わせずとも、客側の注意ひとつで防ぐことができるものだ。

年の最後にキャンセル料の徴収や損害賠償請求の対象とならないよう、予約の変更やキャンセルが発生した際には飲食店に伝え忘れていないか確認しておくべきだろう。

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