「警察官に射殺されたかった」焼肉店立てこもり犯に判決「死にたい犯罪者」はなぜ他人を巻き込むのか?

弁護士JP編集部

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「警察官に射殺されたかった」焼肉店立てこもり犯に判決「死にたい犯罪者」はなぜ他人を巻き込むのか?
東京地方裁判所(写真:弁護士JP)

今年1月、東京・渋谷区の焼肉店で発生した立てこもり事件の裁判が18日行われ、東京地裁は荒木秋冬被告(28)に懲役2年6か月、保護観察つきの執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。

当時、果物ナイフを所持した被告が、焼き肉店の店員に「バクダンを起動した」と書かれた紙ナプキンを渡すなどし、同店店長を人質に立てこもった事件。警察は被告に爆発物を作る能力がないことを確かめた上で突入、現行犯逮捕となった。

自身でテレビ局に電話をし取材要請するなど、劇場型犯罪とも思われる行動をとっていた被告。一方で、居合わせた客と店長以外の従業員を店の外に出るように促したり、店長に「もっと大きな包丁はありますか?」と尋ね牛刀を手に入れるなど、初公判で明かされた事実はどこか凶悪犯のイメージとは違っていた。

「大きい事件を起こして人生を終わらせたかった」

裁判では、事件前、就業中の無免許運転で逮捕されていたことも分かった。母親から送金された反則金納付用の金を持って上京、残りの金もすぐに酒に消えたという。「都会に行けば仕事があると思って」いたが仕事は決まらなかった。検察側に「役所には行きましたか?」と聞かれると、その質問にかぶせるように「行きました。全部断られました。自立支援(プログラム)とか、若いからって・・・」とほのかに語気を強めて答えた。

事件を起こした理由について「生きてることがわからなくなって、大きい事件を起こして人生を終わらせたかった。警察官に射殺されたかった」と語った被告。

検察は「自暴自棄になって起こした犯行で身勝手だ。繁華街で起きた事件で、社会的な影響も大きい」と懲役2年6か月を求刑。弁護側は「罪を認めて反省している。真冬の路上生活で食事も睡眠も満足にとれない生活のせいで普通の判断ができなかった」と執行猶予付きの判決を求めていた。

18日に行われた裁判では、穏やかな口調で被告に語りかけるように裁判官は判決文を読み上げた。判決の理由について「自暴自棄といえる犯行で、被害者を畏怖させ、社会への影響も軽視できない」としたうえで、被告が母親の援助を受け被害弁償の一部を支払い謝罪していることや、被害者も謝罪を受け入れ被告への重い刑罰は求めていないこと、実家に帰り生活を立て直す意欲を見せたことなどを鑑みて「社会内で更生の機会を与えるのを相当と考える」とした。

死刑を望む犯人たち

今回の立てこもり事件では幸いなことに負傷者が出ず、被告の再起・更生に裁判所も望みをかけた判決となった。しかし、事件を起こすことで「人生を終わらせたい」「死刑になりたい」という自己中心的な動機による無差別犯罪は、大きく報道されているものに限っても1~4年に1度ほどの頻度で起きている。(※以下「」内は被告の発言)

  • 池田小事件(2001年)
  • 刃物を持った男が小学校に押し入り児童8人を殺害、教師を含む15人を負傷させた。「死刑になりたかった」。弁護士との接見や裁判でも繰り返し「早く死刑執行を」と口にしていた。

  • 仙台アーケード街トラック暴走事件(2005年)
  • 商店街に男が運転する時速50~60キロで走るトラックが侵入、蛇行運転で暴走し、歩行者3人が死亡、4人が負傷した。「自殺を図ったが、死に切れなかった」。

  • 平和記念公園殺人事件(2007年)
  • ホームレスの男性が、同じくホームレスの男性を殺害した事件。人生を悲観し「自殺する勇気がないので、死刑になって死にたい」。

  • 取手駅通り魔事件(2010年)
  • 停車中の路線バスに刃物を持った男が乗り込み、乗車していた学生を次々に襲撃、14人が負傷した。取り調べに対して「自分の人生を終わらせようと思った」。

  • 大阪心斎橋通り魔殺人事件(2012年)
  • 刃物を持った男が通行人を襲い、歩行者2人が死亡した。「自殺するつもりだったが死にきれなかった。人を殺せば死刑になると思った」。

  • 釧路4人殺傷事件(2016年)
  • 商業施設内に刃物を持った男が侵入し、1人が死亡、3人が負傷した。「人生を終わらせたくて、死刑になると思って人を刺した」。

  • 東海道新幹線車内殺傷事件(2018年)
  • 走行中の東海道新幹線内で男が乗客を刃物で襲い、1人が死亡、2人が負傷した。「自分で考えて生きるのが面倒くさかった。他人が決めたルール(刑務所)内で生きる方が楽だと思い無期懲役を狙った」。

  • 京王線刺傷事件(2021年)
  • 走行中の京王線社内で男が乗客を刃物で襲った上に放火し、18人が負傷した。「仕事に失敗し、死刑になりたかった」。

‟捨て身”の人間による「拡大自殺」型犯罪とは

法務省が行った「無差別殺傷事犯に関する研究」によると、無差別殺傷事犯には、一般的な殺人事犯者に比べて年齢の低い男性が多く、犯行時に友人との交友関係・異性関係・家族関係等が劣悪であり、安定した職業を得ていた者が少なく、居住状況も不安定という特徴があるという。

犯人たちが俗に「無敵の人」と呼ばれる理由が、まさにこの特徴に表されているといえるのではないだろうか。失うものがない者たちはなぜ、自らの命ではなく、他者の命を奪うことで自殺を図るという遠まわしの方法をとるのだろうか。

東京未来大学教授で、犯罪心理学者としてテレビ番組でもコメンテーターとして活躍する出口保行氏は、このような犯罪を『社会が自分を適切に評価してくれない 』、『自分ばかりが悪く思われる』など、被害感や疎外感にあふれた人間が、一人で死んでいくことはあまりに‟悔しい”ので、誰かを巻き込んで死んでいこうとする現象として、「拡大自殺」と呼んでいるという。

「通常、人は犯罪の動機を形成する時、リスクとコストを考えます。リスクとは、動機を実行に移したときに検挙される危険性の大きさ、コストとは、その犯罪を実行したことによって失うものの大きさ(信用、家族、仕事、友達・・・)。このリスクとコストが大きいと判断された場合は、動機を形成しても実行に移すことが抑制される。しかし、この拡大自殺型の犯罪者は、そもそも‟捨て身”。リスクもコストも度外視にしているので、躊躇なく犯行に至っています」(出口氏)

犯行時に社会的弱者を狙う理由

前述の「無差別殺傷事犯に関する研究」では、被害者には女性・子ども・高齢者が多いという無差別殺傷事犯の特徴も報告されている。

社会的弱者を狙っている理由について、出口氏は「捨て身の犯行をする以上、『成果を出すこと』が目的になる。ここでいう成果とは被害者の数とか、結果の悲惨さです。ということは、屈強な男性を相手にしたら負けてしまうかもしれない。そこで女性や子供、高齢者を狙うという構図になります」と説明。

さらに「諸外国の場合は、銃を使った犯行が多いので、乱射すればだれでも一網打尽に殺傷することができる、相手を社会的弱者に絞り込む必要がない、という点は日本の事件と異なる部分かなとは思います」と海外の事犯との違いについても分析する。

新たな事件を防ぐためには

では、「無敵の人」による犯罪を生まないために、一人ひとりができることとはなんだろうか。

捨て身の犯罪は、出口氏が述べたようにリスクとコストが作用しない。「あまり好ましくはありませんが、個人防犯、つまり自分の身を自分で守るという考え方を展開しなければならない時代がやってきていると考えなければならないでしょう」(出口氏)

日本の場合、まだまだ『安心・安全な国、日本』というイメージで国民は生活しており、日常生活の中で自分が犯罪に巻き込まれる危険性を感じ取らずに暮らしているとも指摘する。

その例として挙げるのが「電車」だ。「電車に乗ると一斉にほぼ全員スマホを見ていて、自分の周辺で何が起きているかの観察をすることもない。しかし、同じ人間が海外に行って地下鉄に乗ったら、びくびくして周囲を観察する。いくら捨て身の人間でも、やはり周囲が敏感に観察している環境下では 『ひょっとしたら食い止められてしまうかもしれない』と思い、事件は起こしにくいのです」(出口氏)。

東海道新幹線車内殺傷事件、京王線刺傷事件などは、まさにその「電車」の中で犯行があった。「自己防犯、つまり、自分にいつ犯罪がおそいかかるかもしれないという緊張感をもって生活することが望まれます」(出口氏)。我々の防犯意識の向上こそが、捨て身の犯罪を食い止めるひとつの要素になるのかもしれない。

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