『相棒』『仮面ライダー』制作現場でセクハラ、長時間労働が常態化? 東映元社員が提訴
映画会社「東映株式会社」に勤務していた元社員の20代女性が12月14日、記者会見を開き、制作現場でのハラスメントと長時間労働を強いられ精神疾患を発症したことに対して、同社に損害賠償および割増賃金支払いを求めて提訴したと発表した。
元社員の女性は、これまで「総合サポートユニオン」を通じて話し合いによる解決を求めてきており、今年6月には再発防止を求めた最終解決案を東映に送っていた。しかし、同社が事実上の回答を拒否したため、女性は訴訟に踏み切ることにしたという。
セクハラ事実認定後も東映は協力を拒否
原告の元社員女性は、2019年4月に東映に入社し、テレビ企画制作部に配属された。同年から2021年にかけて、年長のフリーランススタッフからセクハラ被害を受けるようになった。また、長時間過重労働により体調も悪化、2021年6月には休職を余儀なくされ、7月には適応障害と診断された。
原告はテレビドラマ『相棒』などの現場で過重労働を強いられた上、男性スタッフからしつこくLINEやショートメッセージなどで誘われ、現場で手を握られるなどのセクハラ被害を受けた。社内の窓口に相談するも適切な対応がなされなかったという。その後、『仮面ライダー』シリーズのアシスタント・プロデューサーに任命されたが、固定残業制の導入とともに勤務時間の記録がされなくなり、長時間労働が常態化。月の残業時間が100時間を超える時もあったという。
休職後に総合サポートユニオンを通じ、ハラスメントの被害救済や再発防止等を求め続けた。東映側は第三者による調査を実施し、女性のセクハラ被害が認定された。さらに同社に対しては、労働基準監督署から労働基準法32条違反、同法37条違反、同法66条8の3への違反が勧告された。
であるにもかかわらず、東映は原告の労災認定への協力を拒否。謝罪と賠償、再発防止等を求める最終解決案も受け入れてもらえない状態だという。
会見に同席した青籠美和子弁護士によれば、「今回、直接の加害者であるフリーランスのスタッフに対しては賠償を求める予定はない」といい、職場の問題としてあくまで使用者である東映の「安全配慮義務違反」を問う姿勢だ。
さらに、「安全配慮の問題だけでなく、長時間労働の問題とも重なっており、残業代の未払いも求めていく」(青龍弁護士)として、安全配慮義務違反として314万9326円、固定残業代分の未払い分147万69円、付加金として136万2434円を請求する。
業界をよくしたいという原告の思い
原告である元社員の女性は、「映画業界をよくしたい」との思いから訴訟に至ったと語る。
「労働争議を始めた時から、話し合いを通じて解決したいと考えていた。(第三者調査による)事実認定を受けて、直接の謝罪と公式サイトに謝罪を掲載すること、他の従業員と同じ未払い金の支払い等を求め最終解決案として送ったが、事実上の回答拒否となり、東映は解決を考えていないと感じ、法廷で戦うことを決意した」(元社員の女性)
また、原告はこれまでも会見を開くなどして世間に対して訴えてきたが、加害者がだんまりを決め込めばすぐに忘れられてしまう状態と、労働環境に対する告発が増えても解決した成功事例がないことに課題を感じていたとのこと。
さらに、ネット上では女性に対し「コンテンツを汚すな」「撮影現場に女を入れたのが間違い」などの心無い誹謗中傷が寄せられ、女性は「食事が喉を通らず眠れない日もある」という日常を送る中、東映は2022年に過去最高の収益を上げるニュースなどに接してやり切れない思いを抱えていたという。
原告は東映のみならず、映画業界全体に対して変わってほしいと考えている。
「低予算や過密スケジュールに追われる状態は、ハラスメントが起こりやすい。時代錯誤な状態に適応しないといけない状況を変えてほしい。私の告発が(ハラスメントなどの)抑止力になれば」(同前)
会見に同席した総合サポートユニオンの青木耕太郎氏は、東映の対応に対して、「セクハラの事実が認定されたにもかかわらず、一貫して本人(原告)に非があるという認識から抜け切れていない。労基署にも勧告され、自社が依頼した第三者調査でも事実の認定があったなら、普通は謝罪対応するのに、支払いの話すら出てこない」と東映の対応のひどさを批判した。
さらに、今回の訴訟は、長時間労働の常態化やスケジュールの過密化など、業界全体がハラスメントの起きやすい環境を長年放置し続けたことにも原因があるとし、その状態に異議を申し立てる原告の行動について「意義のあるものだ」と話した。
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