迷惑な宿泊客はホテル側で即“NGリスト”入り!?  「改正旅館業法」スタートで宿無し不可避の“要注意”カスハラ行為とは

弁護士JP編集部

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迷惑な宿泊客はホテル側で即“NGリスト”入り!?  「改正旅館業法」スタートで宿無し不可避の“要注意”カスハラ行為とは
法改正で過度なカスハラ行為は”宿泊拒否”対象に(K.Konta / PIXTA)

2023年12月13日より改正旅館業法が施行された。これまでは理不尽なクレームや言動で事業者に迫るカスタマーハラスメント(カスハラ)に対し、ホテル・旅館側はノーガードだった。それが、法律に基づく”拒否権”を持てるようになることが大きなポイントだ。

これは「アウト」の3事例

厚労省が今回の新旅館業法で、新たな拒否事由として挙げているのは次の3事例だ。

  • 不当な割引、契約にない送迎等、過剰なサービスの要求
  • 対面・電話等による長時間の不当な要求を行う行為
  • 要求内容の妥当性に照らし、当該要求実現の手段・態様が不相応なもの

上の2つは説明するまでもないだろう。3番目については、例えばホテル従業員に対する暴行や脅迫、土下座の要求などだ。これまでは、法律上、拒否権がなかったため、どんなに理不尽でも基本は対応。多くのホテル・旅館側が、いわゆるカスハラに心身をすり減らしてきた。

これまでホテル側には大きなダメージも

日本旅館協会専務理事の青木幸裕氏は、「カスハラによって従業員がメンタルに大きなダメージを受け、退職に追い込まれるなどのケースもありました。宿泊料金の減免を巡り長時間にわたって従業員が拘束され、他のお客様へのサービスが十分にできなかったなどの声も聞かれました」と、カスハラにより、ホテル・旅館業が受けたダメージついて明かした。

その上で、「改正旅館業法で、一定のカスハラ行為が示され、それに基づき宿泊施設としてお客様に対応することが可能となりました。お客様にもご理解が深まっていくことにより、より良い関係のもと、一層の安心安全なサービスの提供が図られるものと期待しています」(青木氏)と、新たな旅館業法への期待と合わせ、より良い宿泊サービスの提供を目指すことを誓った。

受けたダメージは宿泊事業者の”心臓部”にも及んだ。カスハラ客の横暴が悪目立ちする中で、「ホテル・旅館業はキツイ」と就職希望者が敬遠。人材不足という小さくない影響が、提供サービスの質や就労環境をむしばみ、負のスパイラルに陥っていた。

だからこそ青木氏は、「今回の改正により、われわれ宿泊業が就労先として敬遠されていた状況から脱することができると思います。業界の地位向上という側面においても大いに期待しています」と、インバウンド需要が復調し、国内外の旅行客が戻りつつあるタイミングでのルール改正に大きな期待を寄せる。

もちろん課題もある。ひどいカスハラ客の宿泊を拒否できるといっても、その判断基準はあいまいな側面もあり、そのことで宿泊客と摩擦が生じる可能性もある。「お客様のなかには、一定の配慮が必要な方も。あくまでも正当な理由があった場合にのみ宿泊拒否がなされるよう、改正法の趣旨を正しくみな様にお伝えすることが重要と考えています」と、青木氏は予約時も含めた接客プロセスにおける、改正法の周知も踏まえた、従業員研修なども刷新していく構えを示した。

改正のポイントとNGラインを弁護士に聞いた

宿泊業を営む側にとっては、待望といえる今回の法改正。弁護士の目からは、その意義や注意点などはどのように映っているのか。国内旅行業務取扱管理者の資格持つ、沢津橋 信二弁護士に聞いた。

まずは今回の旅館業法改正の意義について教えてください。

沢津橋弁護士:これまでの旅館業法では、宿泊客が伝染病の疾病があると明らかに認められるときや、賭博な違法行為、風紀を乱す行為をする恐れがあると認められる場合などを除いて、ホテル・旅館側が宿泊客を拒むことはできませんでした。したがって、カスハラ客に対してホテル・旅館側の対処法としては、一度宿泊を受け入れた上で民法の信義則を元に誠実な宿泊態度を求めるか、具体的な損害が出た場合に損害賠償請求するかといった方法しかありませんでした。

いずれにしろ、宿泊自体を拒むことはできなかったのが、入り口の段階でカスハラ客を拒めるようになったことで紛争予防ができるようになったのが今回の改正の大きなポイントです。

「ひどいカスハラ」客を拒めることは大きな前進ですが、定義があいまいな側面もあると思います。

沢津橋弁護士:「ひどいカスハラ」にあたるかは明確に、一律的に決まるものではなく、顧客のパーソナル情報だったり、ホテル側のグレードや宿泊プラン、要求の内容や状況までありとあるゆる事情を総合考慮して判断されます。

ですので、「ひどいカスハラ」にあたるかの判断は正直、最初のうちは難しいでしょうが、時間がある程度たてば「ひどいカスハラ」にあたるかの判断事例が増えて参考にできるようになっていくと思います。

この改正法を有効に活用するために、事業者側はどのような心構えが必要でしょう。

沢津橋弁護士:宿泊拒否できるほどの不当な要求があったのかどうかを視覚的・聴覚的に残しておくことがとても大切です。そのためには、ホテルのフロント等、不当な要求が起こりやすい場所に監視カメラを設置して録画したり、会話内容を録音することが有効です。

事業者側が注意点すべきことはどんなことでしょう。

沢津橋弁護士:カスハラ客にあたるかどうかは自己判断せず、上長を含めた複数人で判断したり、監視カメラや録音などで一定の客観性を担保して判断したりすることが大切です。一方で、宿泊拒否をすると、より紛争に発展する可能性が高まる可能性も無視できません。

ホテル・宿泊側は普段からニュースや書籍で宿泊拒否該当事例を勉強しておくなど、普段から研鑽を積んでおくことが大切だと思います。

では宿泊客側が「ここまでやると拒否されるかも」というラインはどのあたりになりそうでしょうか。

沢津橋弁護士:繰り返しにはなりますが、宿泊拒否されるかの判断は、諸般の事情を総合考慮して一般常識に従って判断されるので、これをすれば宿泊拒否されると一概には言えません。

明確なNGラインは設定しずらいが目安はある(弁護士JP編集部作成)

しかしながら、レストランや大浴場の貸し切りや少人数利用を要求するなど過剰サービスの要求やホテル側のミスがありスタッフが謝罪しているにもかかわらず再度謝罪させるなど長時間(感覚的には1時間程度が目安になると思われる)にわたってスタッフを拘束すれば、カスハラとして宿泊拒否される可能性は高まると思います。

旅行を最大限に楽しむには、旅先で心が存分に解放され、ストレスがきれいさっぱりと解消されること。そう考えれば、宿泊する側だからという一方的なロジックでごう慢な態度を取らず、より心地の良いサービスを受けるには事業者側との相互の思いやりが不可欠という機会と法改正を捉えるのが最善といえそうだ。

取材協力弁護士

沢津橋 信二 弁護士
沢津橋 信二 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所 津オフィス

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