「博多ラーメン風呂」“SNS炎上”で中止に… キャンセルカルチャーに加担する「ネットの声」に“法的問題”は?

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

「博多ラーメン風呂」“SNS炎上”で中止に… キャンセルカルチャーに加担する「ネットの声」に“法的問題”は?
小杉湯のXより(https://twitter.com/kosugiyu)

昭和8年創業の老舗銭湯、小杉湯(東京・高円寺)がイベント企画として11月28日と29日に開催すると発表していた「博多ラーメン風呂」。この企画は、小杉湯が豚骨ラーメン店、ラーメン健太とコラボし、風呂に「白湯豚骨スープの素」を入れるというもので、28日には実施されたが、X(旧Twitter)を中心に衛生面などから批判の声が上がっていた。

企画中止に追い込んだ“バッシング”法的には「問題なし」

小杉湯は29日、Xで

「衛生管理上の注意は十分行なっておりますが、皆さまに『安心して、きもちよく』お風呂に入って頂くため、本日も予定しておりました博多ラーメン風呂につきましては中止とし、内容を変更致します」

と企画の中止と、その経緯を発表。X上では中止を悔やむ声も見受けられた。

衛生管理上の注意を十分行った上で行われたとされる同企画。仮に、法や衛生管理の観点から同企画に問題がなかったとして、「個人の感情による批判」で、「企業のサービスや企画を中止させる」という一連の動きを、弁護士はどう見ているのだろうか。

これらについて広告法務と表現の自由に詳しい杉山大介弁護士は、「ここは明確にしておきたいのですが、法的にもモラルとしても、問題ないです」と指摘する。

大前提は「良い反応も悪い反応も自由に行われるべき」

「表現の自由的な観点でも、情報が発信されて、それに対してリアクションの相互作用が起こり、相互の認識が深まる。これが言論の自由市場という、表現の自由を保障する根幹の理由です。悪い反応もまた、表現の自由的にはウェルカムなものです。

悪い反応を超えて、公権力が強制的に中止させる、あるいは私人でも物理力のような言論の域を超えた手段で強制的に中止させる場合や、ただ他者の権利を乏しめるような憲法上の保障が及ばない言論(名誉毀損やヘイトスピーチ)を向ける場合に、例外的に問題となるものであり、原則的に良い反応も悪い反応も自由に行われるべきもの、というのが大前提です」(杉山弁護士)

「炎上騒動」や「批判が集まる」という状況によって、企業などのサービスや商品の販売が中止に追い込まれる、という光景をたびたび目にする現代社会。企業側がSNSなどで、そうした声を聞き、受け入れることもある。

これについて杉山弁護士は、「今回の件でも、悪い反応を受けてやめるのは、かかわる企業さんの『悪い反応を増やしたくない』というビジネス的な判断でしかありません。そもそもなぜ悪い反応を受けたのかを考えること自体に意味があると思います。風呂屋と衛生、飲食店と食材の扱いといった、事業の根幹的価値と矛盾した広告になっていないかは常に意識すべきです」と指摘。

「気づきの機会を得られたのは、他者の反応のおかげです」(同前)と語った。

騒動のその後

小杉湯は11月30日にXを更新し、以下のようにコメントしている。

「今回企画したお風呂は、全てのお客様にとって前向きに捉えられるものではなかったと反省しております。小杉湯とコラボを快諾いただいたラーメン健太のみなさまのご厚意に、良い入浴体験という形で恩返しできぬまま、入浴にお越しいただく皆さまにもご不安を与えてしまったことを、深くお詫び申し上げます」

人々の声に耳を傾け、立ち止まり、考える。こうした姿勢が生まれるのも表現の自由が保障されているからだと言えそうだ。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア