コロナ禍で急増「予期せぬ」10代の妊娠「緊急避妊薬を薬局で」購入可能にすべき理由とは

弁護士JP編集部

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コロナ禍で急増「予期せぬ」10代の妊娠「緊急避妊薬を薬局で」購入可能にすべき理由とは
写真はイメージです(Graphs/PIXTA)

3月4日、政府により18都道府県について、新型コロナウイルス対策のまん延防止等重点措置の適用の延長が発表された(21日まで)。一部機関の調査においては、第6波は感染者数がピークアウトを迎えたともされるが、重傷者数が微増するなど、依然として新型コロナウイルスの感染拡大の先行きは見えない状況だ。

長引くコロナ禍は、経済活動や社会システムに大きな影響を与えている。外出自粛要請などによる「巣ごもり化」は、人々の行動様式を変え、目に見えにくい「社会問題」も抱えることになった。若年層の「予期せぬ妊娠」相談の急増もそのひとつだ。

緊急避妊薬「スイッチOTC化」はなぜ必要

先月4日に緊急避妊薬にアクセスできる社会の実現を目指す「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト(通称:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト)」が厚生労働大臣宛に緊急避妊薬の早期OTC化実現を求める要望書を提出した(受け取り:島村大厚生労働大臣政務官)。

「緊急避妊薬」は避妊の失敗や性被害などの「予期せぬ」妊娠の可能性のある性行為から、緊急避難的に服用することで、高い確率で妊娠を避けることができる飲み薬。72時間以内の服用で85%の妊娠阻止率があると言われ、早く飲むほど効果的であるとの実証結果も出ている。WHO(世界保健機関)の必須薬品のリストにも上がり、安全性も保障されているもの。

(「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」資料より)

ただし、実際に緊急避妊薬を入手するには、医師の処方箋・診療が必要となる。さまざまな事情から、医療機関を受診できない、または遅れてしまうことがあるケースや、コロナ禍において若年層の予期せぬ妊娠相談の急増を背景に急がれるのが、緊急避妊薬への簡易なアクセスだ。

アクセス改善には、薬局において処方箋なしで緊急避妊薬の購入が可能なスイッチOTC化(OTC=over the counter※薬局のカウンター越しの意)への環境整備、推進が重要で、WHO等の国際機関はOTC化を含め、すべての女性・少女が緊急避妊薬を入手できるよう勧告している。

(「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」資料より)

同日オンライン会見を行ったプロジェクトのメンバー、NPOピルコン理事長・染矢明日香さんの調査によれば、「緊急避妊薬のアクセスに障壁があると思う人」が96%以上。緊急避妊薬の対面診療ができる医療機関の割合にいたっては全体の3%。さらに新型コロナ感染拡大の中で、妊娠不安を抱き緊急避妊薬を入手できた人は17%という結果になった(2020年5月の調査より)。緊急避妊薬を必要とする人が、スムーズに手に入れられないのが現状のようだ。

今回提出された要望書では、

  • 緊急避妊薬のスイッチOTC化の検討課題整理を早急に進める検討にあたり、市民当事者の声を反映し使用する。
  • 当事者の負担にならない条件を考慮すること。
  • WHOなどの国際機関の勧告を踏まえ、科学的根拠に基づいた緊急避妊薬の提供について検討すること。

など主に3点が盛り込まれた。

※緊急避妊薬の国際的なガイドライン・指針・科学的根拠に基づく検証などは「ファクトチェックBOOK」にまとめられている

(「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」資料より)

10代「緊急避妊薬」アクセスへ3つのハードル

プロジェクトの賛同団体の一つで、妊娠にまつわる相談窓口「にんしんSOS東京」を運営するNPO法人ピッコラーレの副代表の土屋麻由美さんも「緊急避妊薬」に関する相談は多いと語る。相談全体の12%を占め、中でも10代からの相談は全体の49%と割合が高い。

(「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」資料より)

10代の「緊急避妊薬」へのアクセスには、まず3つのハードルがあるという。

たとえば、「予期せぬ」妊娠のリスクの不安があっても手持ちのお金が足りず、バイト代が入るのを待ってると(妊娠阻止率が高いとされる)72時間を過ぎてしまう。また、病院の診療時間と学校や塾などの時間が重なり、診察に行けるのが少し先になるといった「時間的ハードル」。

また、オンライン診療に行きついても、クレジットカード払いのため10代では利用できない、あるいは払えたとしても高額であるという「物理的ハードル」。コンビニ払い可能な病院もあるが、その情報までたどり着けずに内服を断念するケースもある。

そして、診察に際して「人目が気になる」という「心理的ハードル」。内服にいたっても、特に体の変化もなく、避妊成功のサインである出血も起きず、薬の効果が本当にあったのか不安になり、どこへ相談するのか戸惑う10代も多い。

緊急避妊薬の服用を検討する以前に、クリニックなどを受診するには費用がいくらかかるのかも分からず、不安な気持ちをネットに書き込んだり、窓口に相談することになる。

これら3つのハードルは本人の問題だけではなく、社会としても改善することが可能なものも含まれていると語る土屋さん。緊急避妊薬を必要としている全ての人が医師の処方なしで、薬剤師や助産師、看護師などの関与のもと、安価かつ速やかに入手できる環境の必要性を重ねて訴える。

緊急避妊薬の議論は進むのか

今回の要望書はこれまで市民プロジェクトが求めてきたものとは大きくは変わらず、岸田政権となり改めて提出されたもの。これらの活動の一方で、オンライン診療にかかる緊急避妊薬の調剤が対応可能な薬剤師は現在1万人を超え、スイッチOTC化への準備は着実に進んでいる。

2021年10月にも緊急避妊薬のスイッチOTC化についての検討会議が行われるなど、これまでも多くの議論が重ねられている。厚生労働省も、「緊急避妊薬の安全性の基本についての議論はかなり進んできたという認識を持っており、教育も含め社会全体で考えていかなければならない問題である」という認識だ(島村政務官の要望書提出時コメントより)。

3月10日には、19回目となる緊急避妊薬のスイッチOTC化の検討会議が開かれる予定となっている。議論がさらにどこまで進むのか注目したい。

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