いまだに「オレオレ詐欺」が蔓延する背景…特殊詐欺にまんまとだまされてしまう高齢者の心理
詐欺被害に遭った事件を見聞した時とき、「なんと愚かな…なぜそんな怪しい話にだまされるんだっ!」。そう思ったのなら、もしかすると、あなたも同じようにだまされる可能性が高いタイプかもしれない。
だまされる人の心理状態
「社会心理学の用語で脆弱性の無知と呼ぶ現象があります。詐欺の手口をよく知っているわけではないのに、『自分はだまされない!』と根拠のない自信がある心理状態をいいます。実はそういう人ほどだまされやすい傾向があるんです」と立正大学心理学部教授で、詐欺やマインドコントロールなどに詳しい西田公昭氏は解説する。
詐欺にあっているなら、当然、周囲の人間が気づけば忠告するはず。ところが、この心理状態にあると、「自分はだまされない自信があり、そもそも、他人に自分のことなどわかるわけがない」と聞く耳を持たない。加えて、こうした人ほど「コミュニティーから孤立して、自分だけで判断してしまう傾向が強い」(西田教授)という。その結果、怪しい話にまんまとだまされてしまう…。
「騙されている側は、損失を取り返そうと思いつつ、もしかしたら本当かもしれない、これまでの自分の判断にきっと間違いはない、という思いが交錯し、ズルズルと続けてしまう」と西田氏は、だまされる人が陥る散財のスパイラルを指摘する。
毎年被害の8割以上が高齢者。 なぜいつも餌食に
こうしただまされる側の心理は、決して年齢に関係ない。だが、いつの時代も詐欺被害の餌食になるのは高齢者。お金を持っている率が高い故だろうが、それにしても傾向は顕著だ。
警視庁のデータでは「オレオレ詐欺」「預貯金詐欺」などの特殊詐欺の被害者における高齢者の割合は高く、例年8割を超えている。最新データ(2023年1月~9月)でも、特殊詐欺被害者の80%が65歳以上だった。
若年層に比べれば、高齢者は一般的に判断力等の衰えは否めない。一方で、意外と知らない人への警戒心が強く、うたぐり深い面もある。それなのに一体なぜなのか?
「だます側は相手に合わせ、練り上げたストーリーでその自尊心をくすぐるようなワードをちりばめるんです。加えて説得的なアプローチはせず、お金の必要性をみじんもにおわせない。その上で焦(じ)らせる。うたぐり深いからこそ、こうしたトークにスキを突かれてしまうんです」(西田氏)。
特殊詐欺の餌食にならないための5カ条
なんとか老後の資産を食い物にする特殊詐欺を防げないのか…。西田氏が詐欺被害に巻き込まれないために心がけるべきこととしてアドバイスするのは、「さ・し・す・せ・そ」だ。
【さ】サッと切り替える
【し】しっかり調べる
【す】スパッと見抜く
【せ】精いっぱい我慢する
【そ】即、相談する
西田氏が「特に大事」と声を大にするのは「さっと切り替えること」という。「何でもかんでも疑う必要はないんです。そんな姿勢では逆に”警戒疲れ”で気持ちが持ちませんから。そうではなく、どんな話も興味深く聞くのはいいですが、お金の話がでたら、”怪しいぞ”とさっと頭を切り替えるんです」。
加えて、相談することも重要と力を込める。「家族、身近な人はもちろん、自治体の相談窓口など、さっと頭を切り替えたら、すぐに誰かに相談する。自分の中で受け止めてしまうと、次のアクションが停滞するので相談もさっと」。
その上で西田氏は、【せ】について助言する。「怪しいけどもしかして…と感じたとき、『精いっぱい我慢する』というのは、案外難しいもの。なんでもかんでも我慢する必要はありませんが、日常生活においても、自分の欲望を抑えて我慢するということを、少しでも意識する訓練をしておくと、いざというときの対応力が磨かれます」。
周囲のサポートも被害防止に有効不可欠
また、周囲のサポートも欠かせない。政府による特殊詐欺防止プロジェクトでも、対策として家族や親族からの高齢者へのこまめな状況確認を推奨している。特に、すでに被害に遭ってしまっている場合は言い出しにくくなっている可能性もあり、なおさら効果的かもしれない。
特殊詐欺の被害額の推移は月別でも比較的平たんだ。それでもやはり12月は額が大きくなる傾向にあり、警視庁のデータでは2022年も12月が最多だった。いまはまさに特殊詐欺への警戒心をより強めておくべき、要注意シーズンといえる。
「年末に会社で大きなミスをした。年内に200万円振り込めば挽回できる」。気がつけば、もう少しで師走。せわしなさにまぎれ、親族を名乗る人物から、電話やメールでそんな話が出たら、やることは一つ。
さっと頭を切り替える――。
西田公昭
立正大学教授 専門分野は司法・犯罪心理、社会問題。カルト的集団に関する心理過程や、詐欺や悪質商法など、気づかないうちに他者に誘導される心理操作(マインド・コントロール)について研究と啓発を行っている。関西大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得。論文博士(社会学)、静岡県立大学国際関係学研究科助手、静岡県立大学看護学部准教授を経て、2011年4月より現職。著書は、「高齢者の犯罪心理学 なりすまし電話詐欺の被害心理」、「だましの手口:知らないと損する心の法則」など。
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