「人手不足でも難しい」“前科持ち”の再就職 「刑務所専門」求人誌の編集長が語る元犯罪者 “出所後”の現実
ここ数年、幅広い業界で人手不足が叫ばれている。10月31日に厚生労働省が発表した一般職業紹介状況によれば、有効求人倍率は1.29倍と高い。人手に困る企業が多い中で、少年院や刑務所を出所した“前科持ち”の人たちは、再就職が難しいのだろうか。
令和4年 犯罪白書によれば、一度出所してから再犯で刑務所に出戻る人の割合は、圧倒的に「無職だった人」が多いというデータもある。更正の観点からも、出所後の再就職はいかに重要かということが分かる。
少年院・刑務所専門の求人誌『Chance!!』編集長として、これまで大勢の受刑者の採用をサポートしてきた三宅晶子さんに、その実態を聞いた。
犯罪者は社会から排除されて当然、自業自得だと思っている方が大半
人手不足に悩ましい今でも、“前科持ち”の人たちは再就職が難しいのでしょうか。
三宅編集長:簡単ではないです。大前提として、多くの一般人にとって犯罪は自分とは縁のない世界の話なんです。
犯罪者は社会から排除されて当然であって自業自得であると考えたり、出所者と一緒に働きたくないと思ってしまう人が大半じゃないでしょうか。やり直しを応援したいという表向きの気持ちはあっても、頭のどこかでは「嫌だな」「怖いな」と思ってしまうでしょうし、それは当然の感覚だと思います。
企業としても、出所者の雇用はハードルが高いんですね。まず、一般採用と違って採用までに時間と労力がかかります。
少年院や刑務所ではインターネットが使えませんので、基本的には手紙でのやり取りになります。受刑者も塀の中では通信の回数に制限があるため、選考のやり取りに時間がかかってしまうんです。
普通の会社が求人を出す場合は欠員や急募が多いと思うので、受刑者が出所するまではなかなか待っていられません。今『Chance!!』に掲載されている求人は慢性的に人手が足りていない建設系の仕事が大半です。中には、社長自身が元受刑者で「自分も”過去”があるけれど、大勢の人に助けてもらって今があるので、今度は自分が何か支援できたら」と考える企業も少なくありません。
初めて出所者の雇用を考える企業には、「大変ですよ」と伝える
『Chance!!』では、社長が元受刑者ではない企業も多く求人広告を掲載していますね。
三宅編集長:ご承知の通り、今は世の中全体がかなりの人手不足です。一般の大手求人サイトや求人紙に求人広告を掲載しても全く応募がなくて採用ができない状況なんです。
この状況の中で、当社の求人誌『Chance!!』にも掲載希望の問い合わせが増えています。ですが、出所者を採用したことがない企業の場合は、最初に「こういうリスクがあります」「難しいと思いますよ」ということを伝えています。
掲載希望があっても結構お断りするんですよ。「社会貢献にもなるから」といった安易な考えで元受刑者を採用しても、当然再犯のリスクはありますし、課題の多い方もいるからです。
何かトラブルを起こすかもしれませんし、性犯罪や窃盗、覚醒剤など依存性が高い犯罪の場合は再犯率が高いです。また、採用者の過去を他の社員に隠して採用したとしても、いつかはバレてしまうケースが多く、他の社員からの反対や嫌がらせにより居づらくなって辞めてしまうということもよく聞く話です。
そういったことが起こる可能性をお伝えしつつ、私が「この会社なら」と感じた場合には掲載していただいています。あくまで私の感覚的な判断によるものですが、それが『Chance!!』としての責任だと思っています。
地道に社会経験を積んでいくしかない
元受刑者の人たちは、どのようにして社会復帰すべきなんでしょうか。
三宅編集長:『Chance!!』のような求人誌を含め「前科前歴があっても採用が可能」という企業を探し、そこで地道に社会経験を積み上げていくしかないかなと。社会人として働いていく中で少しずつ周りの人と信頼関係を築いていき、認められていけば自信がついてくるのではないでしょうか。
元受刑者の人たちが企業に就職した場合、どのくらい続くものなんでしょうか。
三宅編集長:『Chance!!』で採用となった方の今日までのデータを見ますと、半年以上の定着率が約49.2%、1年以上の定着率が28.2%になります。掲載企業を辞めたり行方不明になったりした後は、派遣会社で就労したり、転職を繰り返したり、反社の組織が経営する会社に入ったり、中には再犯してしまう人もいます。
再就職先で活躍するためには、どんなことが必要だと思いますか。
三宅編集長:少年院や刑務所から出る前に、生きやすくなる方法を学んでおくことが大事だと考えます。今、当社では刑務所内で「心のスポンジづくりプログラム」という講座を行っています。これは福岡県の「ヒューマンハーバーそんとく塾」が開発した再犯防止のための教育プログラムで、物事の捉え方や見方を変えることを目的としたものです。相手や自分を客観視して論理的な思考ができるようになることを目指しています。
また、受刑者の人たちは、自分の意志や気持ちを言語化するのが苦手な人が多いんです。叱られた時に本当は違うのに言い返せなかったり、再犯するしかない状態になった時に誰かに相談することができなかったり、誘いを断ることができなかったり。言語化する習慣を身につけて、目の前の相手に自分の気持ちや考えを伝えることができるようになることで、生きやすくなると考えています。
元受刑者が復帰できる社会にするには、「想像力」が必要
元受刑者が社会復帰をするために、私たちができることはどんなことでしょうか?
三宅編集長:「想像力を働かせる」ことが大事だと思います。たとえば、自分は犯罪とは無縁だと考えているかもしれないけれど、もしかしたら明日、自分も罪を犯すかもしれない。アクセルとブレーキを踏み間違えて交通事故を起こしてしまうかもしれないし、電車の中で「痴漢!」と言われて、冤罪なのに捕まってしまうかもしれない。何が起きてもおかしくないし、自分がそうなってしまう可能性は十分にありえます。
そういう可能性を想像してみたり、あなたの目の前にいる「過去に罪を犯した人」がどういう環境で育って、これまでにどういう人生を歩んできたのか、自分が同じ環境で生まれ育ったらどうだっただろうかと想像することがとても大切だと思うんですね。人は、生まれた時点で圧倒的な差がありますから。
相手の背景や自分の可能性を想像し、自分も罪を犯す可能性があるのだという視点に立つことが大事です。もしも想像することができないんだったら、せめて今、犯罪に手を染めずに生活できていることに感謝できる人間でありたい。そうしたら、結構優しい社会になるんじゃないかな。それだけでいいんじゃないかなと思います。
三宅晶子(みやけ あきこ)
1971年、新潟県生まれ。中学時代から非行を繰り返し、高校を1年で退学となる。お好み焼き屋で就職中に大学進学を志す。早稲田大学第二文学部卒業。貿易事務、中国・カナダ留学を経て、株式会社大塚商会に入社。2014年同社を退職後、受刑者支援団体等でボランティアを行う。その活動中に非行歴や犯罪歴のある人の社会復帰が困難な現状を知る。2015年に株式会社ヒューマン・コメディを設立。2018年に日本初の受刑者等専用求人誌『Chance!!』を創刊する。依存症予防教育アドバイザー、心のスポンジプログラム指導者。
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