なぜ“冤罪”が後を絶たないのか? 被害当事者が語る“人質司法”を生み出す「負」のメカニズム

弁護士JP編集部

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なぜ“冤罪”が後を絶たないのか? 被害当事者が語る“人質司法”を生み出す「負」のメカニズム
左からIPJ理事・川﨑拓也弁護士、元厚労省局長・村木厚子さん、不動産会社プレサンスコーポレーション創業社長・山岸忍さん(11月10日都内/弁護士JP編集部)

冤罪(えんざい)被害者らが検察の取り調べ等での体験を語り、立法と刑事司法制度改正の必要性などを訴えたイベント「人質司法サバイバー国会」が11月10日、東京都内で行われた。

主催したのは、非政府組織(NGO)「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」(HRW、米ニューヨーク)と、冤罪被害者の支援に取り組む一般財団法人「イノセンス・プロジェクト・ジャパン」(IPJ、京都市)。

イベントには厚生労働省局長時代に起きた「郵便不正事件」で大阪地検特捜部に逮捕され後に無罪となった村木厚子さんをはじめ、山岸忍さん(プレサンス・コーポレーション事件)、大川原正明さん・島田順司さん(大川原化工機事件)ら、冤罪被害者やその家族、およそ20人が登壇しスピーチを行った。

法務省「人質司法との批判は当たらない」

無実であっても長期間にわたり身柄を拘束し、自白を迫るなど、被疑者・被告人の身体を“人質”にして有罪判決を獲得しようとする行為は、冤罪発生のひとつの要因として、国際的にも批判の対象となっている。これらを指す意味として、日本の司法制度への批判も込めて「人質司法」という用語が使われている。

一方、法務省はインターネットサイト上で、〈日本の刑事司法制度は、身柄拘束によって自白を強要するものとはなっておらず、『人質司法』との批判は当たりません〉と反論している。

また、同サイトでは、〈どれだけ複雑・重大な事案で、多くの捜査を要する場合でも、一つの事件において、逮捕後、起訴・不起訴の判断までの身柄拘束期間は、最長でも23日間に制限され〉、〈起訴された被告人の勾留についても、(中略)証拠隠滅のおそれがある場合などの除外事由に当たると認められない限り、保釈が許可される仕組みとなっています〉と刑事司法制度についても“解説”している。

しかし、これらの解説に反し、イベントにも登壇した村木厚子さんは164日間、山岸忍さんは248日間(後に無罪)、大川原化工機の幹部ら3名は300日を超える身柄拘束を受けた(後に起訴取り下げ)という事実はどのように受け止めれば良いのであろうか。

「逮捕・勾留さえなければ…」冤罪被害者の遺族の憤り

大川原化工機の顧問であった相嶋静夫さんは、勾留中に進行胃がんと診断されても保釈が認められず、被告人の立場のまま入院先の病院で亡くなっている。

静夫さんの長男はイベントで、拘置所病院の医師が胃がんの症状である静夫さんの貧血を見落とし、その後も普通の病院であれば当たり前に行われる胃がんに対する治療が行われていなかったことも指摘。

続けて一登さんは、「なぜ公安部の捜査幹部は事件を捏造(ねつぞう)してまで出世したかったのか。なぜ検察官や裁判官は事件捏造を見抜けず、長期勾留を続けたのか」と疑問を投げかけた。

「逮捕・勾留さえなければ、父は遅くとも4か月早くがんの治療を開始できたのです。捜査機関は自らの問題点を多角的に検証して、刑事司法に対する信頼を取り戻してほしいと願っています」(一登さん)。

「大川原化工機事件」で逮捕・勾留された大川原正明さん、島田順司さんと、相嶋静夫さんの長男(弁護士JP編集部)

山岸忍さんのケースでは、裁判所に保釈請求をしても「『沖縄に別荘を持っているから』『海外に娘がいるから』逃亡の可能性がある」との検察の意見書が採用されたという。山岸さんは「日本の裁判所はこんなに幼稚な考えを信用して勾留を続けるのか」と憤りを感じたと話した。

「仕組みを変えるということが一番大事」(村木さん)

「裁判も始まっていないのに、なんでもう『罰』を受けているんだろうと、ずっと違和感がありました」と、長期勾留を受けていた当時を振り返ったのは村木厚子さんだ。

勾留期間について「罰」のようだったと振り返る村木厚子さんと山岸忍さん(弁護士JP編集部)

「もしかしたら、『あ、こいつやってないな』って知ってたんじゃないかと思うんです」と自身を取り調べた検察官の印象についても話した。

「だけど、『こいつが犯人で、こいつを有罪にするんだ』と組織が決めて走りだすと、あらゆる手段を使って、その目的を達成するという風に動くし、動ける仕組みになっている」(村木さん)と続け、『人質司法』の問題点が検察官ら個人の資質ではなく、検察組織、刑事司法制度の“仕組み”全体にあるのではないかと訴えた。

「身柄拘束ができるとか、(取り調べに)弁護人を立ち会わせないとか、黙秘権を使おうとすると『そんなものあると思ってるのか』ということを簡単に言われるとか、録音・録画が完全にはできていないとか…。そういうものを本当に“ワンパッケージ”で全部変えないと、『自白を引き出して有罪にして一丁上がりにする』という仕掛けは変わらない。仕組みを変えるということが一番大事なんじゃないかなと思います」(村木さん)

人質司法は“ひとごと”ではない

IPJ理事の川﨑拓也弁護士は、人質司法というものは「まさに“ひとごと”の象徴たる存在だと思う」と話し、次のように呼びかけた。

「『自分は絶対に冤罪事件には巻き込まれない』『悪いことをしないんだから巻き込まれないはずだ』。そう思われている方はたくさんいらっしゃるかと思います。

もしそういう方が身に覚えのない事件に巻き込まれたら、必ず否認をし、そして黙秘を弁護士からは勧められます。そうするとどうなるか。当然、釈放されません。まさに人質司法の犠牲になるんです。冤罪被害の一番近くにいるのは、この問題を“ひとごと”だと思っている一般市民の方々です。私たちはそういった状況を変えたいと思っています。

皆さんに、日々の生活の中で刑事司法の問題を意識していただいて、また発信していただいて、『人質司法』を打破し、刑事司法制度をより良いものに変えていければと思っています」

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