仏「ボトックス姉妹」裁判開始 “無資格”で美容医療行為「爆発的に増加」…日本では?

弁護士JP編集部

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仏「ボトックス姉妹」裁判開始 “無資格”で美容医療行為「爆発的に増加」…日本では?
‟無免許“医師姉妹はSNSなどで集客していたという(※写真はイメージ studiolucky / PIXTA)

フランス北部で9月13日、医師を装って客にヒアルロン酸注射をした罪で起訴された「ボトックス姉妹」と呼ばれる姉妹の裁判が始まった。フランス公共放送が運営するインターネットニュースサイト「Franceinfo」の報道によれば、姉妹はSNS上で医師を装って集客し、違法施術を行っていたという。

また報道内で外科医のアデル・ルアフィ氏は、「美容外科医や医師でなくともSNSにアカウントを開設し、客にヒアルロン酸やボトックス注射を提供することができる」と無免許医師による施術がまん延する環境を指摘した上で、こうした行為がフランス国内で「爆発的に増えている」と述べた。

実は、日本国内でも今年6月、医師免許を持っていない中国人女性が、同じく中国人女性2名に対して豊胸やしわ取りなどの施術を行ったとして逮捕されている。施術を受けた女性らは術後しばらくたっても痛みや腫れが引かず、「医師免許がない中国人女性から豊胸手術を受け、胸に痛みがある」などと警察に相談していた。

日本にも“偽医師”はいる?

大阪みなと中央病院の院長で、同病院の美容医療センター長でもある細川亙医師(形成外科)は「日本では医師のフリをして“無免許”で医療行為をしている人は少ない」と話す。ただ、医師以外によって医療が行われ、患者が健康被害に遭った国内の事例を「過去に1件だけ論文で読んだ」という。

「『形成外科』(2015年10月号)という専門誌で紹介されていた7~8年程前の事例ですが、36歳の女性が痩身(そうしん)目的で、“非医療施設”で腹部に『脂肪融解剤』とされる薬剤を注入後、激しい痛みを訴え救命救急センターに緊急搬送されたというものです。写真も載っているんですが、本当にひどい状態で皮膚がただれています」(細川医師)

この事例について細川医師は「薬剤を注入しているという点から見て、これは誰が見ても明らかに医師が行うべき医療行為」と説明するが、「患者本人も本物の医師ではないと分かった上で施術を受けていたのではないか」という疑問もあるようだ。

無免許で行う「医療行為」には2種類ある

細川医師によれば、無免許の人物による医療行為には以下の2種類に分けられるという。

①医師をかたって医療行為をしている(医師のフリをしている)
②医師をかたっているわけではないが、医療行為とみなされる行為をしている

①は誰もが想像する“偽医師”だが、②は少し複雑だ。

厚生労働省医政局は行政通知「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」(2001年)により、いわゆる入れ墨(タトゥー)やアートメーク、レーザー光線などの“強力なエネルギーを有する”光線を使用した脱毛行為、シミ・シワを化学薬品を用いて表皮剝離する行為などを「医療行為」としているからだ。

しかし「たとえば脱毛では『強力なエネルギーを有する光線』を使うのはダメと規定されましたが、具体的に何を持って強力というのかはわからない」と細川医師は通知の曖昧さを指摘する。

「同じように、日本では医師法で『免許を持たないものが医療行為をしてはならない』と決められていますが、『医療行為』というものが具体的に“どこからどこまでか”というのは明記されていません。厚労省や警察・検察、あるいは保健所が『医療行為』を恣意(しい)的に解釈できる状況。

だから『医師以外の人が医療行為をしているのか?』と聞かれると、答えるのが非常に難しい。『医療行為』かどうかがはっきり定まっていない脱毛や美容医療の施術を、医師免許なく行っている人たちは少なからずいますから」(細川医師)

ちなみに前述の行政通知をめぐっては、検察がタトゥー彫師の「医師法違反」を問うた2020年の裁判で、最高裁判所はタトゥーを彫る行為について「医業には当たらない」として無罪判決を出している。「何が医療行為にあたるのか」という問題は混迷を深めている。

免許あっても“トラブル多い”医師の存在も…

細川医師は、今回フランスで起きたというボトックス注入騒動について、「ボトックスとは神経をまひさせる薬剤で、これを体内に打ち込むのはどう考えても医療行為」と断言する。日本でボトックス注入を医師以外が行っているという話は聞かないそうだが、「医師免許は当然持ってるけれども“トラブルの多い美容クリニック”はありますよ」(細川医師)。

前出のアデル・ルアフィ医師は、フランス国内で無免許施術を行う美容クリニックは「固定電話番号がない」「現金での支払いが必要」「住所がよく変更される」などの共通点があるとして国民に注意を呼び掛けている。

では、日本で“トラブルの多い”“技術力が怪しい”美容クリニックを見極める方法はあるのだろうか。

細川医師は「詐欺師を見抜くのと同じ」とその難しさを指摘、事前に医師の経歴を調べることを勧める。特に美容の基礎となる「形成外科」を学んだ経歴の有無は重要だという。

また、他のクリニックで健康被害やトラブルを抱え細川医師の勤める美容医療センターを来院する患者の中には、考える時間を与えられず、相談したその日に契約や手術を行った人が特に多いという。

「もしもその場ですぐ契約を迫ったり、手術を始めようとしたりするクリニックに当たってしまったら、『トラブルになるかも』と踏みとどまってほしい。きちんと納得した上で施術を受けてほしいですね」(細川医師)

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