自身の精子で生まれた子とトランスジェンダー女性の「親子関係認めない」判決の理由

弁護士JP編集部

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自身の精子で生まれた子とトランスジェンダー女性の「親子関係認めない」判決の理由
記者会見に臨むAさんと次女(2月28日東京・霞が関/弁護士JP編集部)

男性から性別を変えたトランスジェンダー(※1)の女性Aさん(以下、Aさん)が、自身の凍結精子を用い同性パートナーとの間にもうけた二児との関係を法的に認めてほしいと訴えていた裁判で、2月28日東京家庭裁判所(小河原寧裁判長)は「親子と認めない」と訴えを退けた。

(※1)トランスジェンダーとは、心と体の性が一致しない人をさす言葉。

この裁判は、二児が原告(Aさんのパートナー、二児の母である女性Bさんが原告代理人)となり、被告のAさんに対し親子の認知を求め東京家庭裁判所に訴えたもの。Aさんも二児の親であることに合意しており、原告被告の間では争いのない訴訟だった。司法が性的少数者(セクシャルマイノリティ) の子の認知をどう判断するのかに注目が集まっていた。

女性へ性別変更し民法が規定する「父」になれず

Aさんが性別適合手術を受ける前に凍結していた精子を用いて、2017年秋にBさんが長女を妊娠、2018年夏に出産した。同年、Aさんは「性同一性障害特例法」に基づき男性から女性への性別変更を行った。2019年秋には、再度凍結精子を用いて妊娠(次女)。同性カップルは2020年3月に長女の認知届と次女の胎児認知届を自治体(東京都外)に提出したが不受理とされる。次女が誕生した2020年の夏に、居住地である東京都内の自治体に認知届を再び提出。しかし、担当者から法務局に相談すると言われたまま現在に至っている。

Aさんと二児は生物学上親子であるにもかかわらず、二児の戸籍では現在も「父」が空欄となっている状態だ。

裁判所は「親子と認めない」とした判決の理由について、「女性への性別変更をしたため民法が規定する「父」とはならず、また懐胎・出産をしていないから、民法が規定する「母」ともならない(※いずれも民法779条)。他に現行法制度上、親子関係を形成することを認めるべき根拠が見当たらない」としている。

「裁判所は司法の役割を放棄している」

判決後に代理人らとともに記者会見を開いたAさんは、「裁判の場で(親子関係を)認められないというのを聞くと非常につらいし悲しい。時代錯誤な判決だとも思う。裁判官はまだ性的少数者を理解しようとしてくださっていないのかなと感じた」と1歳の次女を膝上であやしながら語った。

代理人の仲岡しゅん弁護士は「司法の役割を放棄した不当判決と言わざるを得ない。高裁・最高裁でも争う心づもりだ」と憤った。「裁判所は、懐胎・出産していないから母として認められないというために、大昔の判決をひっぱってきた(編集部注:昭和35年、平成18年の判例他)。当時は生殖補助医療も、性同一性障害も今のようには認められていなかった。時代は変わっているのに、硬直的な思考によって判決を下している」(仲岡弁護士)と批判する。

同じく代理人の松田真紀弁護士も「裁判所は現行制度との整合性ばかりを気にしているが、現行制度でとりこぼされる人たちを守ることが司法の役割ではないか」と訴えた。

左から仲岡しゅん弁護士、上林惠理子弁護士、北本純子弁護士、松田真紀弁護士

時代に沿った法が求められている

Aさんは「同性同士で子どもを育てているカップルは私たち以外にもおり、(性的少数者に対する)社会的認知も進んできていると感じている。法制度が追いついていかなければいけない時だと思う。子どもたちが生きやすい社会になってほしい」と会見を締めくくった。

今回の判決では、出自を知る権利など「子の権利」が示されなかったことにも疑問の声があがっている。

司法統計によれば、「性同一性障害特例法」が成立した2004年から2020年までに計1万301人が戸籍上の性別を変更している。また医療も発展し、2019年には全出生児(86万5234人)の7%(6万598人)が生殖補助医療を通じて誕生している。

法の定める家族の形に沿わない、新しい家族のあり方は今後ますます増えていくだろう。時代とともに変化する家族や親子、婚姻関係の形に応じた法制度の対応が望まれる。

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