【弁護士に聞く】自立しない40代息子2人を強制退去! 伊で母提訴し、勝訴…日本ではどうなる?
イタリアで75歳の母親が、実家から出ない40歳と42歳の2人の息子を退去させるために裁判を起こし、勝訴した。職があるにもかかわらず、実家に居住し続け、家にお金も入れず、家事にも貢献しないことに母親が愛想をつかし、強硬手段に出た形だ。地元紙「ラ・プロヴィンシア・パヴェーゼ」(2023年10月27日付)が報じている。
イタリアは両親との同居率が高めのお国柄。母親に対する愛着・執着が強い、いわゆる “マザコン”が多いともいわれるが、甘えるにも限度があるということだろう。
日本の家庭で起こったらどうなる?弁護士に聞いた
日本でも、50歳を前に定職に就かず、母親があきれ果てる動画が拡散されたが、もしも、こうした”親離れ強制裁判”が日本の家庭で起こった場合、どんな展開が考えられるのか。家庭トラブルに詳しい杉山大介弁護士に聞いた。
40歳を過ぎて職もある子どもが、家にお金も入れず、家事にも貢献しないのは、日本の親でも我慢ならないかと。
杉山弁護士:イタリアの事件では、子どもたちは、『親による子の扶養義務』を根拠に家に留まろうとしています。イタリアの民法には全く詳しくないですが、日本法で同じような請求を行う場合、扶養義務を理由に対抗しようとしても全くお話にならないでしょう。
問題外、ですか。
杉山弁護士:日本では、住居の所有権者である親が、子どもたちに対して無償で使用させる契約(使用貸借契約)の問題と考えます。したがって、子どもたちはこの使用貸借契約を根拠に、家に居座る権利を主張することになります。 使用貸借は無償であるため、基本的には貸す側(親)はいつでも「返せ」と言えるのですが(民法598条3項)、衣食住の「住」という、人間が生きていくために欠かせない要素にも関わるため、全く無条件に追い出せるとなると、野垂れ死ぬ人が出てしまうかもしれません。
確かにそうですね。
杉山弁護士:そこで、しばしば使用収益(目的物を自ら使用したり、それによって利益を得たりすること)の目的が定められているのではないかと検討し、その目的が果たされるまでは利用できるという形で保護もしています。 また、無償の契約は信頼関係を前提にしています。そうである以上、信頼関係が失われた時も、使用収益の目的が終了したと評価します。
今回のケースでは具体的にどのような「目的」が考えられるのでしょうか。
杉山弁護士:自立しない息子に対して使わせていた場合であれば、「自ら独立して居住できるようになるまで」など、ある程度長期にもなりうる使用収益の目的が認定され得ます。そのため、最後は親子間の信頼関係の破壊という諸要素を考慮するところが争点になってくるでしょうね。
日本だと、信頼関係となるとあまり強く主張しない印象もあります。
杉山弁護士:容易にどちらの主張が正しいか判断できない訴訟が展開される気がしますね。つまり、今回のようなケースであっても言うほど追い出しは簡単じゃない、ということです。
どうやらイタリアのケースのようにはいかないのが現実のようだ。だが、日本では高齢化と非婚化が進んでいる。今後こうしたトラブルが発生する可能性は十分考えられるだけに、親はもちろん、子の側もこうした場面を頭の片隅くらいには入れておいた方がいいかもしれない…。
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