受付嬢が先輩社員に「バリうざー」 社内チャットの“陰口”が招いた「損害賠償請求訴訟」の結末とは

林 孝匡

林 孝匡

受付嬢が先輩社員に「バリうざー」 社内チャットの“陰口”が招いた「損害賠償請求訴訟」の結末とは
日々の業務の中で気が緩んでしまったのだろうか(sasaki106 / PIXTA)

社内チャットで誹謗中傷が行われた事件を解説します(弁護士・林 孝匡)。

2名がこんなやりとりを。

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●●星人が朝からやばくてさ・・・昼もうっさかったやろ? まじ迷惑。
●●さんはほんまに個室に閉じこもっててw ガチで精神医療センター入ってほしいわー!
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誹謗中傷されたXさんが提訴しました。

裁判所
「違法! 慰謝料6万円払え」(大阪地裁 H30.12.20)

現在はパワハラ防止法で【同僚間でもパワハラ】が成立する可能性があります。そのあたりも解説しました。裁判例の詳細とともにご覧ください。

※ 争いを一部抜粋、簡略化した上で本質を損なわないようフランクな会話に変換しています

登場人物

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▼ 会社
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機械器具の製造を行う会社

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▼ Xさん
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チャットでイジメられた人

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▼イジメをした人
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■ Y1さん
受付業務
■ Y2さん
営業部所属

判決文から明らかではありませんが、おそらく3名とも女性だと思います。なんと、Xさんの方が先輩です。Y1さん・Y2さんはXさんより6年後に入社しています。

どんな事件か

仕事中にY1さんがチャットで以下の書き込みをしました。Xさんは見られないチャットです。「●●星人」とはXさんのことです。

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「今日な、●●星人が朝からやばくてさ・・・昼もうっさかったやろ? まじ迷惑。昨日夫婦で無断で休んどいて何様って思うw どうでもいい話聞きたくないからもめるなら個室に行け! ●●星人だけに!! ぐちっちゃった」
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■ 補足
Xさんの「●●」というあだ名は、Y1・Y2が、Xさんのことを「社内のウワサ話を知っておかないと気が済まない性格の人間」であると認識していたことからつけられています。

これにY2さんが以下の返信をしました。

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「●●さんはほんまに個室に閉じこもっててw ガチで精神医療センター入ってほしいわー!笑」「内線うっさすぎるし!!!!! バリうざー。」「お花たくさん用意してあげるから、大人しくお花と会話しといてw」
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▼ 私、誹謗中傷されてる...
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1週間後、Y1が休暇をとった時のことです。別の社員が受付業務をしていました。その社員が来客対応をしている時、代わりにXさんが受付業務を担当したんです。

その時、Xさんは見つけてしまいます。受付に置かれていたパソコンでチャット画面を開いた時に上記のやりとりを見つけてしまったんです。Xさんは「私への誹謗中傷だ...」と判断してプリントアウトしました。

Xさんは相当ショックを受けたようで、うつ病との診断を受けました。翌月からは事実上出勤できなくなり、休職を経て、約1年半後には休職期間が満了して復職することはありませんでした。

Xさんは訴訟を提起して、Y1さん・Y2さん・会社に対して損害賠償請求しました。

裁判にて

弁護士JP編集部

Y1・Y2・会社
「このチャットはXさんが日常的に他人の悪口や不平不満を述べていたことを背景としてなされたものである。内容としても悪口や陰口の域を超えていない」

裁判所
「シャラップ! 個人の人格を傷つける内容の表現であり、過失による違法行為であるとの評価を免れない」

「会社も責任を負います(使用者責任・民法715条)。仕事中になされたメッセージのやりとりであり『事業の執行について』なされたと言えるからです」

ーーー 賠償額は、いかほどでしょう?

裁判所
「6万円にします」

==== 理由 ====
・このメッセージのやりとりはXさんに不快感を覚えさせるにすぎない
・このチャットはXさんが閲覧することは想定されていなかった
・うつ病との間に相当因果関係は認められない
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■ 解説
悪口にもレベルがあるので、今回のケースはそこまで悪口レベルが高くないと評価されたようです。「しね!」とか書かれていたり、回数が多かったりすれば金額は上がったと思います。あとは、うつ病との因果関係が認められなかったのも金額が低くとどまった理由です。因果関係が認められれば2ケタはいくでしょう。

同僚間でもパワハラの可能性あり

現在のパワハラ防止法では、同僚間でもパワハラが成立する可能性があります。

Q.
え? パワハラって上司や先輩からやられるものでは?

A.
厚生労働省指針は、以下は同僚間でもパワハラにあたるとしています。

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・イジワル
〈正式文言〉
同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの

・2人以上からのイジメ
〈正式文言〉
同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
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イジワルの例は、「仕事に必要な情報を回してこない」「その人だけが知ってるのに教えてくれない」などです。イジメの例は、今回のような「悪口」「無視」「ランチや飲み会に誘わない」などです。

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▼ 裁判例
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同僚イジメの裁判例をひとつご紹介します。女性社員が7名の同僚女性にイジメられた事件です。イジメの概要は以下のとおりです。

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・悪口を言われる
「さちうすい顔して」
「コピーの仕事なのに高い給料もらって」
「オオカミ少年」
・執拗な陰口をたたかれる
・毎日のように悪口を送信される
・顔スレスレで殴るマネをされる
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女性社員はうつ病になってしまいました…。訴訟して労災を勝ちとることができました。

最後に

今回のようなイジメは砂の数ほどあるでしょう。

今回のケースは賠償額が低かったですが、裏を返せばこのレベルの悪口でも提訴すればいくばくかの賠償を得られるということです。イジメてきたやつに法的鉄拳制裁を加えたい方はチャットを押さえたり、録音したりして証拠を確保してみてください。

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▼ 相談するところ
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証拠を確保すれば、労働局でも損害賠償請求できます(相談無料・解決依頼も無料)。

労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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