「被害者の声を可視化したい」自衛隊ハラスメント根絶へ、弁護団が緊急アンケート実施

榎園 哲哉

榎園 哲哉

「被害者の声を可視化したい」自衛隊ハラスメント根絶へ、弁護団が緊急アンケート実施
会見に臨んだ(左から)武井、佐藤、角田各弁護士(撮影:榎園哲哉)

元女性隊員のセクハラ被害告発などで表面化している自衛隊のハラスメント問題。

自衛官および自衛官関係者の方々に対する人権侵害の救済を目的とした「自衛官の人権弁護団」(事務局・札幌市)は、表に出にくい自衛隊員のハラスメント被害を“可視化”し被害を減らそうと11月1日、「自衛隊のハラスメント根絶実現プロジェクト(ハラ根)」と題したアンケートアクションをWEB上で開始した。

10月31日、アクション開始に先立ち同弁護団の弁護士3名が司法記者クラブ(東京・霞ヶ関)で会見を開き、アクションの趣旨などを説明した。

「声を可視化しないと解決には到底至らない」

元陸上自衛隊隊員、五ノ井里奈さん(元1等陸士)の告発などを受けて防衛省は昨年、全自衛隊を対象にした特別防衛監察を行いハラスメントの実態を調査。その結果を8月18日に公表したが、被害の申し出は1414件(人)にとどまった。

弁護団のもとには、特別防衛監察に対し「対応窓口に専門性や調査権限がない」「申し出たのに何も動かなかった」などの苦情が寄せられているという。

防衛省は人事教育局が所管して「ホットライン」を設け、電話やメールで隊員からの相談を受け付けているほか、全国の基地・駐屯地にも被害窓口が設置されているが、いずれも担当しているのは職員や隊員であり、相談したい隊員にとっては相談内容等が“報告”されることへの危惧はぬぐえない。

「自衛官や家族の駆け込み寺になれるよう活動してきた」と話す同弁護団団長の佐藤博文弁護士は会見で、「(特別防衛監察は)第三者の調査権限をもって行われていない。申し出た隊員にブーメランで戻ってきて、かえっていじめられたりすることもある。それが申告が非常に少ない原因になっている」と説明。

その上で「被害を受けた当事者が主体的に声を上げるのと同時に、当事者に寄り添う弁護士や支援者も声を上げていく動きをつくらないと問題を打開できない」と強調し、声をあげた人に対する支援が大切だと述べた。

「人権の問題として位置付けなければならない」

さらに、佐藤弁護士は、特別防衛監察と同時に行われた有識者会議で示された米軍約130万人(女性比率17.2%)の軍人・兵士の間で年間1万件以上起きているという性暴力、セクハラの調査例も紹介。

今回の監察で報告されたセクハラ疑いの申し出は179件だったが、「日本(自衛隊)にハラスメントが少ないのか、というとそれは違うと思う。(被害者の)声を可視化し、表に出さないと根本的な解決には到底至らない」と力を込めた。

日本最大の実力組織である自衛隊は、有事の際は「身をもって責務の完遂に務め」なければならない。階級による上意下達の命令系統は絶対であり、厳しい指導なども行われることだろう。ただ、指導と暴力、いじめは違う。

筆者はある男性隊員に、「(訓練中に)叱責され股間を蹴られたことがあった」という話を聞いたことがある。隊員の士気を高めるとともに、人権を守り、自衛隊の人的基盤をいかに高めていくかが自衛隊の課題と言えるだろう。

佐藤弁護士は「自衛隊内のハラスメントは、自衛隊のマンパワーとして働く方々の、人権の問題として位置付けなければならない。今回のアンケートをその第一歩としたい」とアクションへの期待を述べた。

「声を聞いて実態をつかまなければ」

アンケート調査の内容・目的については、佐藤弁護士から以下の四つの説明もあった。

①事務官を含む隊員らから少なくとも過去15年間の被害、加害、目撃事実を申告してもらう
②セクハラ調査は最新の基準に基づき、男性の被害も調査する
③自衛官をめぐっては精神疾患の発症や自殺者も多く、その深刻な結果とハラスメントとの関係を明らかにする
④弁護士や医師、社会教育、ジェンダー教育の有識者など、専門性を駆使した調査・分析を行う

角田由紀子弁護士は、「個人(自衛官)の尊厳を絶対に守らなければならない。外から見ただけでは分からない問題がどこにあるのか、本当の声を聞いて実態をつかまなければならない。ぜひ(アンケート)調査を成功させたい」と語った。

また、武井由紀子弁護士によるとアンケートアクションはインターネット上で行われ、被害を受けた当事者(自衛官)が答えるものと、家族や知人が答える2種類が用意されている(下記からアクセス)。

被害者(自衛官)本人用
家族・知人用

「どういったハラスメントを受けましたか」「相談しましたか」など設問は21問。自由記述もあるが、完全匿名でメールアドレスなども収集しない。実施期間は11月1日~12月31日までとし、結果はレポート等にまとめ年明けにも防衛省などに提出する予定だ。

会見では、ハラスメントの加害者には幹部(尉官以上、部隊長など)、被害者には士(2士~士長、一般兵)が多く、組織の命令と服従の関係で、被害者がとても声を上げられる状況ではないという被害実態も語られた。

「被害を告発した隊員が処罰された、仕返しに遭った、ということも聞いている。隊内で声を上げることがどれだけ大変で怖いことかは理解できる。だからこそ、今回のような外部のアンケートでひとりひとりの声をすくいあげたい。安心してアンケートに参加してほしい」(武井弁護士)

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