年収960万円でも「私立大は無理」子育て支援10万円「所得制限」に悲嘆する高所得世帯の懐事情

弁護士JP編集部

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年収960万円でも「私立大は無理」子育て支援10万円「所得制限」に悲嘆する高所得世帯の懐事情
記者会見を開いた「子育て支援拡充を目指す会」(2月24日 霞が関/弁護士JP編集部)

新型コロナへの経済対策として昨年11月に発表された「18歳以下への10万円給付(以下、10万円給付)」は多くの議論を呼ぶこととなった。なかでも政府が“バラマキ批判”の懸念から設けた「所得制限(世帯主年収による制限)」を巡っては、制限撤廃を求める人、それを批判する人ら、当事者の間で分断を生んでいる。

24日、10万円給付の所得制限撤廃を求める「子育て支援拡充を目指す会」が記者会見を開き、給付対象外となった世帯の実情を語った。

「年収960万円未満」なのに給付されない?

報道などを通して、給付対象外となる世帯は「世帯主年収960万円以上」と印象付けられているが、実際には家族構成によって年収制限のボーダーラインは異なる。年収960万円が基準となるのは「世帯主+年収103万円以下の配偶者+子ども2人」の世帯。子どもの数が少なくなれば基準となる年収額は下がり、多くなれば上がる仕組みになっている。

10万円給付は児童手当の所得制限限度額を踏襲している。「所得制限限度額」は手取り、「収入額の目安」は額面のこと(内閣府ホームページより)

使いまわされた半世紀前の制度

ここで問題となるのは、10万円給付が「世帯主」の年収で制限されることだ。例えば夫婦と子ども2人の世帯を例にとると、以下のようなねじれが生じる。

  • 世帯年収960万円(夫婦の一方が専業主婦(夫))→もらえない
  • 世帯年収1600万円(夫婦がともに年収800万円)→もらえる

スピード感を重視したこの政策には、各自治体がすでに給付対象者の口座を把握している児童手当の仕組みが利用されている。児童手当には所得制限が設けられており、10万円給付でも同じ基準の所得制限が踏襲されることになったのだ。

日本では昭和47年(1972)に児童手当が発足した。厚生労働省の統計によると、その8年後の昭和55年(1980)ですら、夫と専業主婦からなる世帯が1114万世帯であったのに対し、共働きの世帯は614万世帯に留まっていた。

共働き等世帯数の年次推移(厚生労働省ホームページより)

ところが表からもわかるように、今や共働き世帯が圧倒的多数を占めている。半世紀も前に作られた児童手当の制度を踏襲すれば、ひずみが生じるのは当然の結果だったのかもしれない。ちなみに大和総研の調査によると、10万円給付を巡りさかんに報じられている「所得制限が年収960万円以上の世帯(世帯主+年収103万円以下の配偶者+子ども2人)」も、2019年時点で全世帯の5%以下にすぎないという。

「年収960万円」の夢と現実

一般的に年収960万円といえば「裕福」「余裕のある生活」といった言葉が連想されるだろう。所得制限の撤廃を求める人々へは「高所得者が贅沢を言うな」「浪費しすぎなのでは」といった、いわゆる高所得者バッシングも少なくない。

ところが現実は、たとえ年収960万円であろうと、どの世帯も余裕のある暮らしができるとは限らない。日本では累進課税制度によって、所得が多いほど課税率が上がり、額面と手取りのギャップは大きくなる。16歳以上(※1)の家族であれば扶養控除されるが、15歳以下は対象外だ。また、所得が上がるほど子育て関連の手当(児童手当、高校無償化、貸与型奨学金、障害児童福祉手当など)が制限がされることから、子ども一人あたりの教育費は高額になり、「私立大学は無理」といった世帯も決して珍しくないという。

(※1)年収103万円以下の場合

25日の参議院予算委員会で、国民民主党・矢田わか子議員は「累進課税によって所得再配分は機能している」として、10万円給付および子育て関連の手当の所得制限撤廃を岸田文雄内閣総理大臣に求めた。また参考人として召集された、みらい子育て全国ネットワーク代表・天野妙氏は「制度設計が雑と言わざるを得ない。施策の軸を子どもファーストでお願いしたい」と訴えた。

25日の参議院予算委員会で発言する国民民主党・矢田わか子議員(THE PAGEより)

冒頭の「子育て支援拡充を目指す会」は今後、岸田内閣総理大臣、野田聖子少子化対策担当大臣、山際大志郎経済再生担当大臣、後藤茂之厚生労働大臣に宛てて、10万円給付および各種子育て支援制度の所得制限撤廃を求める要望書を提出予定。確実に受け取ってもらえるよう、現在は関係各省庁や与野党の国会議員と調整中だという。

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