「歩きスマホ」10~20代の6割以上“常習” 「踏切内にいる」気づかず電車にはねられ死亡した例も

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「歩きスマホ」10~20代の6割以上“常習” 「踏切内にいる」気づかず電車にはねられ死亡した例も
都市部での「歩きスマホ」はもはや日常風景となったが…(AH86 / PIXTA)

「あ、危ない!」そう思った瞬間、目の前を歩きスマホをしながら横切る人がーー。

そんな経験を誰もが一度や二度はしたことがあるのではないだろうか。

「NTTドコモモバイル社会研究所」が今年9月に公表した実態調査によれば、「10〜20代の6割以上が歩きスマホを日常的に行っている」という。それ以外にも「大都市では歩きスマホをする割合が高い」「公共交通機関を使う人のほうが歩きスマホをしている」などの結果も出ている。

彼女の顔は“最期の瞬間”までスマホに向けられていた

2021年7月、東京〜埼玉を結ぶ東武東上線・東武練馬駅近くの踏切で、歩きスマホが原因と思われる悲劇が起こった。周囲は商店街で見通しは良好であったが、31歳の女性(当時)が走行中の列車と接触し亡くなったのだ。

防犯カメラの映像によれば、女性は踏切を渡る際、スマホを両手で持ちながら歩き、顔はスマホの画面に向いていた。遮断機が下り始めると周りの人たちは急いで踏切を出たが、女性は遮断機の手前で立ち止まりそのまま列車と接触。線路の中ではなく外で待っていると誤認してしまったのだろうか、彼女の顔は“最期の瞬間”までスマホに向けられていたという……。

このような事故は極端な例だが、歩きスマホによる小さなトラブルや迷惑行為は至るところで報告されている。

たとえばXで「歩きスマホ」と検索すれば、「ぶつかられそうになった」「相手からぶつかってきたのに舌打ちされた」といったエピソードが山のように出てくる。これらを見ていると、歩きスマホによる衝突が増加している現状と、投稿者からの不安や恐怖、そして怒りを感じずにはいられない。

没入感のワナ

なぜ歩きスマホは無くならないのだろうか。歩きスマホの危険性について研究する愛知工科大学の小塚一宏名誉教授は、多くの人がリスクを“自分事”として捉えられていない現状を指摘する。

「歩きスマホによる事故は、加害者も被害者も人生を狂わせる可能性があります。駅のホームでぶつかった人が線路に落ちる、階段でぶつかった人が階段を踏み外して転ぶなど、運が悪ければ命を落としてしまう事態にもなりかねません」

このようなリスクがあるにもかかわらず、歩きながら動画やゲーム、SNSなどのコンテンツを惰性や癖でつい見てしまっている人は多いのではないだろうか。

歩きスマホをしながらも「周囲が見えている」と思い込んでいる人は意外と多い。だが小塚名誉教授の研究によると「人間の脳は同時に二つのことを認識できず、その人の興味が強い方に認識が集中します。また、視界に入ったものが必ずしも認識されているわけではありません」という。

「歩いているとき、人間は本能的に視線を動かして周囲の安全を確認しています。しかし、歩きスマホをすると、視線はスマホの画面に集中し、その移動範囲が極端に狭まります。よく視界が20分の1になると言われますが、正確には視線が動いて脳で認識できている範囲がスマホの画面まで狭まるということです」(小塚名誉教授)

学生がスマホでX(旧Twitter)を操作しながら駅のホームを歩くという実験でも、学生の視線がスマホの画面から動くことはなく、視界に入った周囲の人の存在を認識できていなかったという。この結果からも、「視界に入っているから見えている」というのは単なる思い込みでしかないことが分かる。

「歩きスマホ禁止条例」の効果

事故やトラブルを防止しようと、一部の自治体では歩きスマホを禁止する条例を制定している。

たとえば神奈川県の大和市では、公共の場所での歩きスマホを禁止。スマホの操作は他者の通行の妨げにならない場所で立ち止まって行うよう求めている。愛知県の江南市も同様に、市内の道路や駅前広場など公共の場所での歩きスマホを禁止に。また、東京都の荒川区では、公共の場所での「歩きながら」または「自転車に乗りながら」の「ながらスマホ」を禁止にしている。

だが、基本的にこれらの条例に罰則はなく、自治体は、条例の内容を市民に周知するための啓発活動やキャンペーンを積極的に行うことで市民の安全意識を高め、歩きスマホの減少を目指しているのが現状だ。

東海テレビの報道によれば、大和市では歩きスマホの割合が2020年1月の12.1%から条例施行後の2023年1月には5.0%とほぼ半減している。一方、愛知県の江南市では条例が施行されてから1か月後に実態調査を行ったが、結果は5.1%から4.7%と減少幅はわずかとなった。

小塚名誉教授は、それでも禁止条例を制定する意義について「議会での審議や市民への広報、マスコミの報道などを通じて、社会の関心が高まるという効果が期待できます。地道ですが重要な一歩です」と話す。

「大和市では、2年がかりでようやく12.1%から5%まで減らすことができました。この結果は、継続的な発信と啓発が必要であることを示しています。個人レベルでも、家族や友人に対して歩きスマホの危険性を伝え、注意を促すことが大切です。

歩きスマホを軽視していると、最悪の場合、命を失うことも考えられます。日常の中で、本当に今、スマホを見る必要があるのかを考え、見直していただくことが必要だと思います」(小塚名誉教授)

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