“メディアの責任”注目で思い出される「TBSビデオ問題」  27年前に追及された“事件当事者”との関係

弁護士JP編集部

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“メディアの責任”注目で思い出される「TBSビデオ問題」  27年前に追及された“事件当事者”との関係
TBSは当初「オウムにビデオを見せた事実」を否定したが…(yu_photo / PIXTA)

「坂本さんの遺族には申し訳ない気持ちでいっぱい」――。

1996年4月30日。東京・赤坂のTBS本社の会見場に現れた磯崎洋三社長(当時)は沈痛な面持ちで遺族に対して謝罪した。

現在、ジャニーズ問題で性加害を事実上“黙認”してきたメディアの責任が問われているが、それをさかのぼること27年前、ことの本質は異なるものの、“メディアと事件当事者の関係”が問題視されたのが、一連のオウム真理教事件だ。

「未放映インタビュー」をオウム幹部に見せた

冒頭のように、1996年4月30日、TBSが会見を開いたのは、80年代後半から同教団の反社会性を批判、追及していた坂本堤弁護士(当時33)の一家3人が、教団によって89年11月に惨殺された『坂本堤弁護士一家殺害事件』が背景にある。

事件前にTBSがオウム幹部に対して坂本弁護士の未放映インタビューを見せていたことが日本テレビの報道によって明らかとなり、TBSは釈明に追われていたのだ。

会見当日、磯崎社長は記者からの「ビデオを見せたことが坂本弁護士一家殺害の動機の一因になり得たと思っているということでいいのか」との質問に対し、「一因になっているというのはすでに私も話していること」などと、ビデオを見せたことが坂本弁護士一家殺害事件の一因となった可能性を認め、その後、引責辞任した――。

TBSビデオ問題を取材した社会部記者が当時の経緯と問題点について振り返る。

「当初、TBSは日本テレビが『オウム幹部がTBSでビデオを見たと供述』との報道を否定。報道を受け、行われた社内調査の結果でも『ビデオを見せた事実はなかった』と改めて否定していました。ですがのちに発言を一転。事実関係を認めましたが、背景には同社の隠ぺいがあったのではないかとの疑問も生じました」

TBSが「法的責任」問われなかったワケ

同問題では磯崎元社長はじめ、専務や取締役、当事者の番組担当プロデューサーら2名も辞任したが、処分は郵政省(現総務省)からの厳重注意と社内的処分にとどまっている。社長自ら「事件の一因となった」と認めながらも一体なぜ、担当プロデューサーらは法的責任を問われなかったのだろうか。報道検証、ファクトチェックに詳しい楊井人文弁護士に話を聞いた。

「オウムが事件に関与していたと明らかになったのは、事件が発生してしばらく経過してからです。取材当時、TBSがオウム側にビデオを見せていたからといって、そのことが直接殺害事件に結びつくことを予見するのは不可能だったと思います。ですから同問題は刑事事件はもとより、遺族側が何らかの根拠を持って民事でTBS側を訴えたりしない限り、法的責任を問うのは不可能だったと考えられます」

さらに、坂本弁護士一家殺害事件当時、オウムはまだ松本サリン事件や地下鉄サリン事件などを起こしておらず、危険性のある集団とは社会的にもそれほど認知されていなかった。

また坂本弁護士が事件当時、教団批判や教団に対して訴訟の構えを見せていたことからも、教団側は事件前から坂本弁護士を“障りだ”と感じていた可能性もあり、「ビデオを見せたことと殺害の因果関係を結びつけるのは難しい」と楊井弁護士は続ける。

「当時の状況では、オウムが事件に関わっていたかどうかを報道機関側が知り得る材料はなかったでしょうし、何が事件の決定的な引き金となったのかは闇の中です。同問題で唯一問題があるとすれば、ややもすれば批判対象になりうる取材対象者に対し事前にビデオを見せながら、相手側の要求を受け入れる形で放送をとりやめたことです。その点に関しては、報道機関としての倫理を問われても仕方がないと思います」

ジャニーズ問題をはじめ、昨今では“メディアと被取材対象者の距離感”が問われている。過去の問題を改めて検証することが、メディアにとっては必要なのかもしれない……。

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