ストーカー行為への警察による「文書警告」めぐる裁判 「処分性」の有無が争点となった理由

弁護士JP編集部

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ストーカー行為への警察による「文書警告」めぐる裁判 「処分性」の有無が争点となった理由
奈良地方裁判所が入った建物(Sakura Ikkyo / PIXTA)

同じ大学の男子学生へのストーカー行為に対する警察による「文書警告」の取り消しなどをめぐり、原告(中国籍・女性)が提起した裁判の中間判決が10月24日、奈良地方裁判所であった。寺本佳子裁判長は文書警告には、法的効果はなく、処分性は認められないとして、原告の訴えを退ける判決を下した。

男性が「つきまとい行為」をされたと連絡

裁判は令和4年6月29日に奈良西警察署が原告女性に対し、ストーカー規制法第4条に基づく文書警告を行ったことが発端となっている。

原告によれば、同年2月に同じ大学院の研究室の先輩男性からアプローチを受け、やむなく肉体関係に至り、その後も同様の行動を受けた際にこれを断った所、先輩男性の態度が変わった。そして同月、原告の元に奈良西警察署職員が訪れ、「研究活動のことなら連絡しても大丈夫ですよ」としながら、今後の接見について口頭注意をされたという。

同年6月に、原告が研究室のことで先輩男性に連絡をとったところ、男性が奈良西警察署に「つきまとい行為」をされたと連絡。その後に行われた原告に対する事情聴取の際、専門用語を日本語で理解することは困難と通訳者を希望したが応じられることなく、奈良西警察署によって前出の文書警告が行われたという経緯だ。

原告は、文書警告の内容は事実無根として、奈良県に対し、「取消訴訟」「地位確認訴訟」「国家賠償請求」を提起。24日の判決は、各訴訟のうち、取消訴訟の訴訟要件である「処分性」についてのものであった。

「処分性の理解を誤った不当判決」

原告の担当弁護士である松村大介弁護士によれば、取消訴訟では、訴えが適法になる論点として「処分性」をクリアにする必要があり、これは当該行為に法的効果が存在するか否かという行政法では非常に重要な論点であるという。

「結論から申し上げますと本判決は処分性の理解を誤った不当判決であり、是正しなければなりません。ストーカー規制法制定時の警察庁の解釈では、文書警告には処分性は認められない行政指導という立場を採用しています。ところが、平成21年銃刀法改正により、文書警告を受けたことが、『銃刀法の欠格事由及び取消事由に該当する』という連動規定が追加されました。

この結果、ストーカー規制法では『行政指導』とされ法的効果がないとされていながら、銃刀法との関係では法的効果が生じるという、ストーカー規制法と銃刀法の間で “ねじれ”が生じてしまいました。警察が発令する文書警告は、行政指導の域を超えて事実上および法律上非常に強力な効力を持ちます。

文書警告に、処分性が認められないとなると、警察の一方的な認定で銃砲類所持が法律上禁止されるだけではなく、裁判所で取り消しを求めることすらできなくなります。国民の権利救済の観点から非常に問題の多い法制度であると考えます」(松村弁護士)

今回は処分性が認められず、訴えは不適法として退けられた。原告は大阪高裁に控訴する意向だという。

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