弁護士が「報酬2700万円」のウラで“依頼者の妻”と不倫… アリバイ主張も裁判所が「高額慰謝料」命じた“決定打”
弁護士と元依頼者が恋に落ちて裁判沙汰になった事件を解説します。
夫がブチギレ、弁護士に慰謝料2000万円を請求しました。
裁判所
「弁護士は慰謝料300万円払え」
かなり高額です。裁判所もブチギレてました。弁護士はかつて夫からも事件を受けていたので裁判所は「信頼を裏切る行為」とお怒りです。(東京地裁 H19.2.27)
以下、詳しく解説します。(弁護士・林 孝匡)
※ 判決を簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています
登場人物
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 夫
━━━━━━━━━━━━━━━━━
・社長(液化石油ガスを販売する会社)
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ A子(妻)
━━━━━━━━━━━━━━━━━
・夫に暴力を振るわれ離婚を決意
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 男性弁護士
━━━━━━━━━━━━━━━━━
・A子に好意を持つようになった
どんな事件か
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 約4年で夫婦関係は冷める
━━━━━━━━━━━━━━━━━
経緯は以下のとおりです。
====
平成2年9月 結婚
平成5年 娘が生まれる
平成6年 別居状態に
====
夫は結構バイオレンスだったようです。平成5年には、夫はA子に傷害を負わせています。左上腕打撲(全治約1週間)。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ A子と弁護士の出会い
━━━━━━━━━━━━━━━━━
妻は弁護士に「夫と離婚したい」と相談を持ちかけました。弁護士は妻の依頼を受け、夫に内容証明郵便を送付しました。離婚の方向で話し合いたい旨を記載した書面です。
その約5か月後、また夫は妻に傷害を負わせます。次は・・・尾骨骨折(全治約1か月)です。ブチギレたときに物を投げたりしていたようです。
〜 そこから7年くらい期間が空きます 〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 夫の会社で紛争発生
━━━━━━━━━━━━━━━━━
夫の会社で紛争が発生します。各社の経営権をめぐる紛争です。夫は妻に「あの弁護士を紹介してほしい」とお願いしました。
7年前に妻を味方した弁護士になぜ? ってことなんですが、この弁護士は会社法務を専門としていたので、夫はビジネスライクに考えて妻に「紹介してくれ」とお願いしたのかな。
弁護士は夫の会社や関連会社から依頼を受けました。そして訴訟事件や保全事件などを受任して、結果、報酬2703万円を受け取りました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ なんじゃこのメールは!
━━━━━━━━━━━━━━━━━
それから約1年後、妻は娘を連れて家を出ることを決意しました。そのとき! 事件発生です。キッチンにA子の携帯が置かれていました。夫が携帯を開いてみると、あらビックリ! こんなメールが。
====
■ A子が弁護士に送ったメール
・「愛してる」
・ハートマークが頻繁に使われる
・「ずっと、2人一緒に居たからポッカリしています」
・「この3日間、私と娘に優しくしてくれて本当にありがとう。・・・初めての3人旅行はいい思い出だったね!」
・「胸のキスマーク(絵文字)」のタイトルで「ゴルフ場の浴場での胸のキスマーク(絵文字)には気をつけて」
■ 弁護士がA子に送ったメール
・「A子の気持ち、信じているからA子が最善と考えるやり方をとってください。火曜日はホテルで問題ないけど下馬でもいいよ。電話(絵文字)まってます、愛してるよ(ハートマーク)」
■ A子の返信
「・・・火曜日の夜は安全のためホテルかな(ホテルマーク)」
====
ご愁傷さまです。メールを見た夫はA子に問い詰めました。そして証拠保全のために返しませんでした。
夫が提訴
夫は弁護士を提訴。慰謝料2000万円を請求しました。
ジャッジ
裁判所
「弁護士は夫に慰謝料300万円払え」
裁判所は、メールの内容などを根拠に「不貞関係にあったと推認できる」と判断しました。
にしても300万はカナリ高額です。一般的に離婚慰謝料の相場は数十万円〜300万円と言われており、そのテッペンなので。
ーーー 裁判所さん、300万と認定した理由は?
裁判所
「婚姻関係の破綻については夫自身の問題点もあるにせよ、弁護士はひとたび夫が関与する会社の訴訟事件などを受任しており、信頼を裏切る行為と言わざるを得ない」
おそらく裁判所は、いろいろ案件を受けて報酬もいただいておいて、依頼者の妻に手を出すってコノヤロー! と怒ったのでしょう。
以下、弁護士の反論も紹介しておきます。全撃沈ですが。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 携帯メールは改ざんされている
━━━━━━━━━━━━━━━━━
弁護士
「携帯電話のメールは改ざんされた可能性があります」
裁判所
「改ざんされたような不自然さはないし、両名の供述は著しく不合理である」
メール・LINE・チャットが証拠提出されれば、ほぼ白旗をあげざるを得ません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ 旅行してません
━━━━━━━━━━━━━━━━━
弁護士
「3人で旅行していません。A子と娘さんだけがユニバ旅行をしただけです。私にはアリバイがあります。その日はサッカーの試合に出た後、懇親会に出席していたのです。旅行は不可能です」
さすが弁護士! 理詰めで反論しましたね。
裁判所
「そのアリバイを立証する証拠は客観性を欠きます。3日間の旅行が全く不可能であったとは言えない」
撃沈!
番外編
ーーー 配偶者の携帯を見てもいいんですか?
林.
今回はOKでしたね。携帯メールが証拠採用されました。裁判所は「民事訴訟において証拠排除をしなければならないほどの違法性を認めることはできない」と判断しました。
裁判の中で、違法収集証拠は証拠として取り上げてくれないケースは多いんですが、「違法かどうか」はマジで裁判官次第です。配偶者の携帯を見てそれを証拠提出したケースでは、証拠採用されたこともあれば(東京地裁 H21.7.22)、証拠として取り上げてくれなかったこともあるんです(東京地裁H21.12.16)。
こぼれ話
夫は弁護士会に懲戒請求もしています。懲戒請求とは「この弁護士ヤバイから処分してよ」と申し立てるものです。
裁判所ではアウトだったのですが、弁護士会は「この弁護士を懲戒しない」と判断しました。親密な交際は認定したんですが、それは夫と妻の婚姻関係が【破綻した後】であると認定されたからです。
夫婦関係が破綻していたかどうか、第三者の判断はマチマチです。
最後に
弁護士が、DVを受けている依頼者の女性に同情する気持ちはイタイほど分かります。それが恋に発展してしまったんですね。
私も気を強く持たなければなりません。司法研修所で配られた【鬼10則】の一つ目に「死んでも依頼者に手を出すな」が書かれていましたから。二つ目は「依頼者が好みのタイプの女性だったら鉄のパンツをはけ」でしたね(ウソつけ)。
今回は以上です! いつもは労働関係の知恵をお届けしています。またお会いしましょう!
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。