猫の日に考える「動物愛護管理法」改正。ペットへのマイクロチップ装着「義務化」は必然のワケ

弁護士JP編集部

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猫の日に考える「動物愛護管理法」改正。ペットへのマイクロチップ装着「義務化」は必然のワケ
画像はイメージです(Gesrey/PIXTA)

新型コロナウイルス感染症の長期化によって在宅時間が多くなる中、ペットを家族として迎え入れる世帯も増えている。2021年の飼育実態調査(一般社団法人ペットフード協会)によれば、全国で犬が約710万頭、猫が約894万頭飼育されている。定番のペットといえば犬と猫だが、近年は猫の飼育頭数が犬を上回っている。

飼い主の居ない猫の保護・譲渡会の開催などを行うNPO法人ねこけんの溝上奈緒子代表によると、譲渡会に参加する人も「初めて猫を飼う人が多く、ペットショップで買う人もかなり増えている」現状だという。保護された猫の中で特徴的なのは、純血種の割合の増加だ。

「ロシアンブルー、ラグドールやマンチカンなどは、今まで私が10年以上活動してきて(保護することは)ほぼありませんでしたが、コロナ禍で非常に多くなっています。猫の生態を知らずに飼いはじめ、『噛みつく』、『思っていたのと違う』といった理由で手放されたケースは結構あります」(溝上さん)

動物にとって飼い主との出会いは幸せなものであるべきだが、人間の身勝手な遺棄も増えている。しかし、そんな状況にも歯止めがかかるかもしれない。

6月に施行される「改正動物愛護管理法」

2022年6月より、犬や猫などのペットにマイクロチップの装着を義務づける「改正動物愛護管理法」が施行される。

主に繁殖業者やペットショップなどの業者を対象とした法改正だが、ペットを購入した飼い主も他人事ではない。マイクロチップに氏名や住所、電話番号などのデータを登録することになるからだ。溝上さんはこれにより、遺棄の抑制や殺処分数の減少にもつながるのではないかと期待している。

「『ねこけん』では、10年前から保護した猫には必ずマイクロチップをいれています。迷子になって愛護センターで殺処分される命もあるわけで、その部分だけでも減らせたらという気持ちではじめました。実際にマイクロチップを入れていたから見つかった子もいますし、今回の義務化は非常にいいことだと思います」(溝上さん)

迷子や遺棄された動物は最寄りの警察署で保護されたのち、各自治体の動物愛護センターに送られることが多い。しかし警察署にマイクロチップのリーダーが設置されていない自治体も多い。たとえマイクロチップが装着されていても、愛護センターにたどり着くまで飼い主に連絡がこないこともあるという。溝上さんは改正に合わせた各警察署へのリーダーの設置も求めている。

リーダーさえあればマイクロチップの情報はすぐに確認できる。警察に保護された時点で飼い主への連絡ができれば、結果的に警察、愛護センターの負担も減るのではないだろうか。

マイクロチップはペットに負担がかかるのか?

マイクロチップ装着に対し飼い主の不安のひとつとして、『注射後にペットが違和感を抱くのでは?』というものがある。溝上さんの経験によれば「今のところ猫がそういう素振りを見せたことは一度もない」とのこと。リスク、安全性については「論文によれば、ごく稀に猫がアレルギーを発症するとあります。ただ、その場合にはすぐに取り出すことができます」と続けた。

溝上さんがクラウドファンディングで設立・運営にも携わる東京都杉並区の「ねこけん動物病院」(株式会社560group)では、マイクロチップの装着に必要な価格は1000円だ。「多くの子にマイクロチップを入れてもらいたいという気持ちで、ほぼ原価で提供しています」(溝上さん)。また、横浜市では市民の飼育するペットを対象に、マイクロチップ装着の施術料金を補助する制度を設けている(2022年3月4日までの申請が必要)。

「うちの子は脱走しない」、「家の外に出さない」という理由で装着を見送っている飼い主も多いだろう。しかしマイクロチップ装着の義務化が議論されるようになった背景には、阪神淡路大震災で飼い主と離れ離れになってしまったペットたちの存在がある。東日本大震災でも同様のケースが相次いだことを忘れてはならない。

弁護士が考える「動物と法」

すでに飼っているペットへの装着は努力義務にとどめている今回の改正法だが、「この機会にあらためて、自分がペットを飼っている環境を見直してみるのもいいかもしれません」と語るのは、自身も保護猫と暮らす小泉将司弁護士。法改正、動物愛護管理法が抱える課題について話を聞いた。


今回の法改正でどのようなことが期待されますか

小泉弁護士:繁殖業者やペットショップについては、昨年6月に施行済みの数値基準(ケージの大きさや従業員数、繁殖の回数などについての具体的基準)とあいまって、より動物福祉の理念に沿った営業の仕方になることを期待したいです。具体的には、販売や繁殖の年齢(月齢)制限の徹底や、残念ながら後をたたないペットの遺棄を減らすことにつながってほしいです。

一般の飼い主にとっては、マイクロチップが装着された犬や猫を譲り受けた場合には、飼い主の情報を登録する義務がありますから、これが動物の一生を預かるという責任感を持つきっかけになってくれれば、と思います。災害時や、ペットが脱走してしまった時でも、そのペットが保護されたときに再会できる可能性は高まりますね。


すでにペットを飼っている飼い主が法改正を受けて気を付けることなどはありますか

小泉弁護士:マイクロチップの装着は努力義務ですが、この機会にあらためて、自分がペットを飼っている環境を見直してみるのもいいかもしれません。自宅の環境が、ペットが健康で、快適で、安全で、できるだけ自由でいられる環境になっているか(といっても、私は猫は完全室内飼育を推奨しますが)、私も改めて考えてみようと思っています。


新しくペットを飼いたいと考えている人はどのような心構えを持つべきなのでしょう

小泉弁護士:これはもう、一生飼う覚悟をもって下さい、ということに尽きます。新型コロナウイルス感染拡大の影響で自宅にいる時間が増えた人が、安易な気持ちで飼い始めて、ペットの世話が困難になって手放そうとする人が増えていることは、本当に悲しく、怒りを覚えます。動物を家庭に迎えて飼うことは、動物の一生を引き受けることです。それなりの苦労も出費もありますが、動物が日々の暮らしにもたらしてくれる安らぎはかけがえのないものです。自分の生活環境やライフスタイルが変わっても、最期まで、10年単位で生活を共にするつもりで、飼い始めてほしいです。


“動物のための法律”において、個人的に課題と考えていることがあれば教えてください

小泉弁護士:マイクロチップ装着の義務化は、2019年6月に成立した改正動物愛護管理法が施行されるものです。同法は、これまで数度の改正を経ていますが、まだまだ不十分な点が多いです。

マイクロチップについていえば、いまだ地方自治体による引き取り、殺処分が存在していることを考えると、装着義務化により、装着していない猫(野良猫、迷い猫、地域猫)は、かえって危険にさらされるおそれがあります。

他にも、実験動物と畜産動物は動物取扱業の規制から除かれていますし、動物取扱業の対象動物についても、哺乳類、鳥類、爬虫類から拡大されていません(両生類や魚類は対象外のまま)。飼い主のいる動物だけが守られるのではなく、すべての動物が、社会の中で人間と共に生きる存在として保護されるような法と社会のあり方を、これからも考えていきたいと思います。

取材協力弁護士

小泉 将司 弁護士
小泉 将司 弁護士

学生時代、寮内に住み着いていた猫を、廃寮・転居時に連れ出し一緒に暮らし始めたのをきっかけに、猫保護団体(ボランティア)に所属し保護活動に従事。現在も自ら保護した猫とともに暮らしています。

所属: ベリーベスト法律事務所 京都オフィス

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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