【大人のいじめ】「一見すると目立たない」 “ボスママ”の意外な正体 「ママ友」コミュニティーで発生した“いじめ無限地獄”

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

【大人のいじめ】「一見すると目立たない」 “ボスママ”の意外な正体 「ママ友」コミュニティーで発生した“いじめ無限地獄”
いじめ加害者には「いじめている」という自覚のない場合もある…(buritora / PIXTA ※写真はイメージです)

今年6月、大手引っ越し業者で、男性社員が運搬トラック内で全裸にされ、縛りつけられた上に荷物を固定するためのゴムで叩かれていたという壮絶な「大人のいじめ」が発覚。一連の様子を撮影した動画がSNSなどで拡散され、騒動となりました。

厚生労働省が公表した「個別労働紛争解決制度の施行状況」(令和4年度)によれば、民事上の個別労働紛争の相談として「いじめ・嫌がらせ」に関するものが6万9932件に上りました。これは他の「自己都合退職」「解雇」などの相談と比べても特に多く、職場で「大人のいじめ」が横行している証左となっています。

しかし「大人のいじめ」は職場内だけに限りません。被害者の声から、その実情を探ります。

(#5に続く/全5回)

※【#3】【大人のいじめ】人質は子ども「逆らったらどうなるか…」ボスの脅しに屈する母親たち “陰湿”ママ友いじめの実態とは?

※この記事はNHKディレクター木原克直氏による書籍『いじめをやめられない大人たち』(ポプラ新書)より一部抜粋・構成しています。

うまく付き合えないと地獄 「ママ友」の世界

「ママ友は、うまく付き合えれば戦友のような存在になるが、うまく立ち回れなければ地獄になる」と語っていた、ある女性の言葉が印象深い。

女性の社会進出は進んだが、地域によっては、男性は仕事中心・女性は家庭中心というライフスタイルはまだまだ残っている。そのような地域では、人間関係も男性が仕事や趣味仲間と集まることが多いのに比べて、女性は近所付き合いや子どもが通う学校の保護者同士での付き合いを、濃密に行うことが多くなる。

子どもの体調や発育についての情報交換、保育園や学校選択についての情報交換、夫や姑についての愚痴など、同じ境遇だからこそ共有できる悩みがある。そうした悩みや情報交換を重ねていくうちに、「戦友」のような存在になるというのだ。

一方で、「学生時代、休憩時間に連れ立ってトイレに行きましたよね。そのノリで、大人になった今でも“一緒”でなければ気がすまないという人もいるんです……」と声を寄せてくれたのは林さん(40代女性・仮名)だ。

「自分だけが入っていない」LINEグループが作られ…

林さんには7人ほどからなるママ友仲間がいて、週に1、2度行なわれる食事会が楽しみな時間だった。そのママ友仲間の中にも、率先して会を開く中心的なママ・望月(仮名)がいた。望月は、とにかく「まわりが自分に合わせないと気がすまない人」だったという。

専業主婦の彼女は頻繁にお茶会を開くものの、林さんに外せない用事があり丁寧に断ると、「なぜ来られないのか」を執拗に問われた。そうしたことが2、3度重なるうちに、7人のママ友仲間の中で、自分だけが入っていないLINEグループが作られるようになっていた。

それでも、その後も林さんは時々お茶会には呼ばれていた。以前の反省を生かし、なるべく参加するようには心がけていたものの、顔を出した際にはその場にいない人の悪口のオンパレード。お茶会の誘いに対して「付き合いが悪い」といった批判を繰り返す望月の様子に、林さんは「自分が参加していない時は、自分の悪口を言われているんだろうな」と感じたという。

他にも、LINEグループの中では、子どもたちの授業参観に際して、「みんな服装はどうする?」と確認のメッセージを送ってきたり、授業参観の前にどこかで落ち合って「一緒に行きましょう」ということを提案してくるという。

そんな望月について林さんは、

「とにかく、ひとりが嫌なようです。自分が誘ったお茶会が思い通りにならないことも嫌い。すべてが自分の思い通りにならないと気がすまないのです。中学や高校時代、女子生徒の中には昼食の時にも机を寄せ合って食べる子が多いですよね。トイレに行く時も一緒にいたり。その感覚のまま大人になったのではないでしょうか」

という。

被害者に見えたボスママ…真相は?

中心にいなければ気がすまない望月は、一見すると大人しく服装もそんなに派手ではない。いわゆる“森ガール”という感じのファッションだという。「ボスママ」というと、ついドラマなどに登場する強烈なファッションや、率先してPTAの役員などを行なっている姿を連想するが、実際のボスママは「一見すると目立たない」と林さんはいう。

ママ友の難しさについて声を寄せてくれた30代の山中さん(仮名)も、「ボスママと被害者、はじめはどちらがいじめられているのか分からなかった」という。

結果的に、ひどいいじめを行なっていたのはボスママだったのだが、彼女は普段から「いかに自分がひどいことをされたか」を力強く訴えるのだという。その切実な訴えに、山中さんも「いじめ加害者」であるボスママの方が被害者なのかと信じてしまいそうになった。結局、他の女性からの情報や、ボスママの証言にたびたび矛盾が生じることから、真相が分かったようである。

こうした状況を指して山中さんは「ママ友の間のいじめは、情報戦」と表現していた。

職場、ご近所、ママ友、いずれの場合でもいじめの加害者には「いじめている」という自覚のない場合も少なくない。むしろ「自分こそが(迷惑をかけられた)被害者だ」と思っていることさえある。そうした思い込みが、自らが行う残酷で執拗な行為に対しての罪悪感を麻痺させているのかもしれない。

#5に続く)

書籍画像

いじめをやめられない大人たち(ポプラ新書)

木原克直
ポプラ社

職場で、アルバイト・パート先で、ママ友の間で
無視、陰口、嫌味、暴言、連絡を伝えない……
いじめは大人の世界でも当たり前のように起きている!
大人のいじめについて、被害者や加害者、傍観者を取材、ならびに専門家にも意見を聞いたNHKの担当デイレクターが、大人のいじめの実態を伝えるとともに、いじめにあった時にどうすればいいのかなどの対処法も取り上げる。

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