「ステマ広告」規制の新ルールに”抜け穴”も… ネットショッピングに潜む「情報混濁」という名のリスク

弁護士JP編集部

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「ステマ広告」規制の新ルールに”抜け穴”も… ネットショッピングに潜む「情報混濁」という名のリスク
10月1日からステマ広告規制がスタートしているが…(PIXTA)

10月1日からステマ広告の規制がスタートしている。ステマ広告は「ステルスマーケティング広告」の略で、広告であることを隠し、記事のように商品・サービスを宣伝する行為をいう。これらは消費者の購買行動を歪めることなどから、規制が加えられることになった。ステマ広告に踊らされないために、一般消費者が押さえておくべきポイントはどのようなものなのか。ネット広告問題に詳しい弁護士の話から対策を探る。

絶賛記事と広告の見極めづらさ

「信奉するインフルエンサーの紹介だったので購入した」「口コミで絶賛されていたので迷わず購入した」「ファンのタレントがテレビで使用していると話していたので自分も購入した」。

商品やサービスの利用や購入をテレビ、ラジオ、ネットのメディア情報等で判断する消費者は少なくないだろう。ところが、それらが実はメーカー側の意向が色濃く反映された広告だったとしたら…。消費者としては騙されたような気分になるかもしれない。

残念ながら、こうした隠れ広告は、あふれる情報に紛れて蔓延している実態がある。

消費者庁の調査では、ある広告代理店がインフルエンサーの投稿について問題がないかを全て確認したところ、100件のうち、20件程度の割合でステルスマーケティングと思われる投稿が存在。レビューサイトでも不正レビューの募集がSNS等で公然と行われており、ECサイト、グルメサイト等では、不正レビューが散見されるのが実状だ。

ステマ広告が規制される背景

ステマ広告規制は、こうした状況を是正すべく、景品表示法(景表法)に新たに加える形で設定された。同法で規制されるのは、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(広告)」(消費者庁)。広告であるとわかりにくい表示やそもそも広告であることを隠している場合は、景表法上の不当表示に該当し、違法となる。

規制の対象は、商品・サービスを供給する事業者(広告主)で、広告・宣伝の依頼を受けたインフルエンサーは今回は規制の対象外。また、表示の対象は、インターネット上の表示だけでなく、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌等も含まれる。

これまでの野放し状態からクリアすべき基準ができたことで、ステマ広告撲滅へ一定の効果は期待できそうだ。一方で、まだまだグレーゾーンがあることは否めない。

広告主から対価をもらい、その意向に沿って作成したいわゆる純広告であれば、広告と分かる表記を付けるのは当然であり、それを怠れば罰せられるロジックはわかりやすい。

成果報酬型広告で作成側に忖度はないのか

悩ましいのは、個人のアフィリエイターや媒体企業が各自の感想や記事で販促を後押しするアフィリエイト広告がステマか否かの見極めだ。アフィリエイトはネット広告のひとつで、サイトを運営する媒体企業がサービスプロバイダ(ASP)を介し、売れれば報酬が支払われる仕組み。当然、商品やサービスが売れなければ報酬はゼロになる。

ということは、媒体企業は報酬を得るため、自ずとより消費者の購買欲を刺激するコンテンツを作成しようとする力学が働くことになる。仮に、広告主と一切やり取りせず、純粋にいいと信じ、それをコンテンツに落とし込んで多くの送客を実現しているなら健全だが、その証明は簡単でない。そもそも報酬が発生する仕組みの中に入っている時点で矛盾をはらみ、“潔白”にはみえづらい――。

消費者庁の運用基準にある”抜け穴”

ところが、消費者庁の運用基準では、例えば、「アフィリエイターの表示であっても、事業者と当該アフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示を行う場合」は、「事業者が表示内容の決定に関与したとされないもの」としている。つまり、広告主からコンテンツ作成において、なんら関与がなければ”シロ”ということだ。当然ともいえるが、その証明はやはり困難であり、ここに”抜け穴”がある。

こうした不透明さを憂慮し、記載が不要の可能性が高そうでも、念のため広告と分かる表記をし、様子見をしている媒体企業もあるという。

一方で、解釈によって広告表記の必要性が変わりかねないあいまいな状況を「本来は不要な広告表記で健全な対応をしている企業が不利益をこうむるのはどうなのか」という媒体企業のやるせない声も。

とはいえ、同運用基準では併せて、対価が発生しているかなどの実質的な「関係性」についても言及している。つまり、あるコンテンツで広告主からは一切の関与がなかったとしても、その前後で、広告主と取り引きがあった場合、直接の指示はなくとも悪く取り上げる動機は働きづらくなる。そうした要素も違法性の判断材料にするということだ。

アフィリエイトがコンテンツから送客し、報酬を得る仕組みである以上、コンテンツ制作側が広告主との対等な「関係性」を自主判断することは、大きなリスクがあると考えるべきだろう。

「『正直者が馬鹿を見る』状態でした」(弁護士)

ネット広告に詳しい辻󠄀本奈保弁護士は、規制開始後も困惑ムードが充満する中で、そもそもここまでステマ広告が蔓延した背景を次のように解説する。

「 ステマ広告が問題視されるようになったのは何年も前。そこから自主規制で対応する企業もありましたが、ステマ広告による売上増というインセンティブがある一方、ステマ広告そのものを規制する法令はなく、『正直者が馬鹿を見る』状態でした。そもそも広告であることを隠していることもあり、なかなか表面化せず、ズルズルときてしまった側面は否めないでしょう」

そうした中で、ステマ広告が規制されることにどんな意義があるのか。辻󠄀本弁護士は「今回の規制の大きなポイントは、広告であることを隠していた場合、それだけで指定告示の違反として処分対象となることです」と説明する。

ステマ広告は法律上、景品表示法の範疇となるが、ステマ広告だった場合、優良誤認、有利誤認といった表記内容の問題を飛び越え、一発アウトとなる。従って、ステマ広告規制下では、媒体企業は情報が広告である場合、そのことを消費者に明確に示す必要がある。

消費者はどんなことに気を付ければいいのか

「広告である場合はPR、広告、プロモーションなどといった文言をわかりやすい場所に表記する必要があります。逆に言えば、消費者は記事が広告かどうかわからないときは広告である旨の表記があるかを確認することが、隠れ広告に惑わされないためにまずできる分かりやすい予防策といえます」と辻󠄀本弁護士はアドバイスする。

併せて、不安を感じれば、消費者庁や消費者団体、事業者団体へ電話やメールで通報することも有効という。

一方で、「広告と分かる表記をしたら万事OKというわけでありません」と注意を促す。つまり、広告と分かる表記をしていても、あくまでステマ広告への規制をクリアしているに過ぎず、優良誤認や有利誤認などの景表法に従った正しい表記をしていなければ、当然罰せられることになる。

「新たな規制が始まると一定の混乱が生じることはやむを得ない側面もあります。だからこそ、広告主である企業はもちろん、媒体社、消費者も、できるだけ状況をきちんと把握することを心掛けた上で、慎重に対応していくことが肝要です」と辻󠄀本弁護士。

今回の規制によって、ステマ広告が違法となり、広告主(事業者)に”責任”が問われるようになったことは大きな一歩といえる。同時に、これを機に、ネット上にあふれる情報に対し、ほんの少しでも疑いの目を併せ持つようにすることが、安易に“広告偽装”に踊らされないための処方箋といえそうだ。

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