「“諦める”ことが一番楽だった…」 銀座時計店強盗の運転手役が“闇バイト”に手を染めるまで

弁護士JP編集部

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「“諦める”ことが一番楽だった…」 銀座時計店強盗の運転手役が“闇バイト”に手を染めるまで
男性は刑務官の影に隠れてしまうほど小柄だった(画:権左美森)

東京・銀座の高級時計店で今年5月、腕時計など74点(約3億850万円相当)が奪われた事件で、強盗などの罪に問われた作業員の男性(19)の裁判が4日、東京地裁(蛭田円香裁判官)で行われ、検察が懲役7年を求刑した。

裁判は定刻になるとすぐに初公判で終わらなかった被告人質問が再開された。前回は主に男性の生い立ちが語られた(参考:「銀座時計店強盗」19歳“運転手役”が起訴内容認める “特定少年”が「闇バイト」に至るまでの複雑な生い立ちとは?)が、今回は高校を中退後、闇バイトに手を染めるに至った経緯が、弁護人と検察官双方の質問から明らかになった。

なお男性は日本語より英語が堪能であることから、裁判には通訳が参加。前回は質問に対しほとんど英語で回答していたが、今回はすべての質問に日本語で回答した。ただし裁判官や弁護士、検察官の発言はすべて英語に訳された。

“白昼堂々”強盗が行われた銀座の時計店(5月13日/弁護士JP編集部)

「何か仕事はないか」闇バイトなら断れると…

4か月で高校を中退した男性は、母親から「学校に行かないなら仕事してほしい」と言われたこともあり、とび職として働き始める。時を同じくして、強盗事件の共犯者であるA被告(以下、A)と「独立」を考え2人暮らしを始めた。

当時大工として働いていたAが無免許運転で逮捕されたことをきっかけに職に就かなくなり、2人の家賃や生活費は男性がすべて工面するようになったという。

暴力団関係者に借金があったことを理由に今回の事件に関わったと供述しているA。男性はそんなAについて「今年に入ってから悪い方向に行ってると感じていた」と話し、暴力団関係者とつながりがあったことを知っていたかという弁護士からの質問には「そっちと関わりがあると思っていた」と答えた。

男性自身も、とび職を「ささいなミスでも怒鳴られ、殴られることもあった」ことから2年半で辞めた後、日雇いのアルバイトなどで収入を得るようになっていた。しかし、事件が起きる前の4月、携帯電話をなくしたことで仕事探しができなくなったという。男性は約8万円の家賃が支払えなくなることなどをAに相談し、「何か仕事はないか」と聞いたという。

実は今年1月頃から、AやAの知人らから闇バイトを薦められるようになっていた男性。しかしこれまでは「やりたいか、やりたくないか」を聞かれ「やりたくない」と答えていたといい、自身が仕事について相談した時も、闇バイトであればこれまで通り“断ることができる”と考えていたと説明した。その上で、「今回は選択肢がなかった。気が付いたら自分も(事件に)参加することになっていた」と述べた。

「逮捕されることはわかっていた」

事件前日の5月7日、友人とドライブをしていたという男性のもとに、通信アプリ「シグナル」を通じてAとの共通の知人から届いたのは「包丁とハンマーを買ってほしい」「1キロ離れたところにいればいい」といった身に覚えのないメッセージだった。

男性はAに詳細を聞こうと無視をしていたが、翌朝(事件当日)Aの部屋にはすでに事件で使われることになる洋服や靴、ハンマーが用意されていた。その時に初めて「東京で強盗する」と聞かされたという。

メッセージが届いていたこともあり、すでに自分も「参加することになっている」と感じた男性。Aが誰かと電話で話している様子などから「他の誰かが関係していることで、断ったら自分もAも危険」とも感じたと話す。

検察から「やっていい、成功する可能性もあると思ったのではないか」と問われた男性は、顔を検察官に向け「やっていいとは思っていないです」と答え、次のように続けた。

「逮捕されることはわかっていた。成功するもしないもなく、捕まるしかないと。母や警察に言ってどうなるかわからなかった。一番楽だったのが、諦めて(犯行を)することだった」

裁判官からの「“すぐに”諦めてしまったのか」という質問には「はい」と短く答え、「お母さんに相談しようとは考えなかったのか」という問いに対しては、「母には伝えたいと思ったが、迷惑をかけたくないと思った。今になって思えば、相談すればよかった」と答えた。

最初はバールを持って店に入る役割をすすめられていたが「せめて運転だけする」と自ら運転手役を選んだ男性。報酬については何も伝えられていなかったという。

「運転をしていたのだから、車で警察署に逃げ込むこともできたのでは」という検察官の質問には、「ナビだけで運転していて、どこを運転しているのかもわかっていなかった」と答えた。さらに検察官が「前回の被告人質問では、あなたがいかにこの社会において生きづらく苦労したかという話をしていたが、同じ環境にある人は誰でも罪を犯すということか」と語気を強め質問すると、男性は通訳が終わって少し間をおいてから「いいえ」と答えた。

検察「懲役7年」求刑、弁護側「保護観察付執行猶予」求める

検察官は論告で、犯行時の男性の役割について「実行犯らを送迎し、いつでも逃走できるようにするなど重要な役割で犯行に寄与した。くむべき点は一切ない」と厳しく指摘した。

「犯罪組織が背景にあり、一般予防の観点からも重く受け止めるべきだ」とし、特定少年であること、被害者との間で示談が成立していること、商品等の被害額は保険で賄い得ること、母親が更生に関与することなどを考慮しても「懲役7年が相当」と求刑した。

一方の弁護側は、犯行時の男性の役割について「主体性がなく従属的で利用された側面がある」と説明。

続けて「被害店舗の店員に向けた反省文からも男性が反省しているのは明らか。店員も刑事処罰を望まず更生を望んでいる。拘置所では、今後過ちを繰り返さないために、GED(アメリカ高校卒業同等資格)や漢検の勉強、日本語で書かれた小説の読書をしている。出所後はお母さんの知人の会社で働きながらプログラミングの勉強をすることも決まっている。これまで子どもとして大人に頼ることができなかった男性に、子どもとしての最後の機会を与えるべきだ」と述べ、保護観察付執行猶予の判決を求めた。

「最後に言いたいことはありますか」と裁判官に促された男性が、被害者らへの謝罪を述べ「自分が“諦めた”ことでこんな大ごとになると思わなかった。過去を変えることはできないが、やってしまったことの責任を取りたい。力になりたいと言ってくれた人たちに感謝している。今後はその人たちのためにがんばろうと思う」と更生の意志を伝えて、裁判は結審した。

判決は10月25日に言い渡される。

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