購入した土地から“人骨”発見も不動産会社「心理的瑕疵はない」 “事故物件”告知のボーダーラインとは?

弁護士JP編集部

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購入した土地から“人骨”発見も不動産会社「心理的瑕疵はない」 “事故物件”告知のボーダーラインとは?
埋葬後100年以上経った人骨は多くの人が嫌がらない!?(※写真はイメージ Wellphoto/PIXTA)

もぐらに扮した木村拓哉が地中から現れる…そんなテレビCMが印象的な「オープンハウス」。売上高成長率30%を維持するなど急成長を続ける不動産企業だが、その主要子会社である「オープンハウス・ディベロップメント」(以下、ディベロップメント社)が販売した土地の地中から現れたのは“人骨”だった――。

今年7月27日に『文春オンライン』に掲載された記事によれば、事の経緯はこうだ。

東京都内の土地を購入したAさんが、店舗併用の住宅建設のために地盤調査を行ったところ、地中から異物が発見された。Aさんはディベロップメント社に連絡し、異物の調査と除去を依頼。その結果、異物は100年以上前に埋葬された人骨であることがわかった。さらに、役所にはAさんが購入した土地がかつて墓地だった記録が残っていたという。

Aさんは「人骨の発見は心理的瑕疵物件にあたり、精神的な苦痛を感じること」「十分な地盤調査が行われなかったこと」を理由にディベロップメント社に対し土地価格の減額を求めたが、同社は「人骨が発見されたことは心理的抵抗を生じさせるものではない」と反論し、減額に応じなかったそうだ。

このように人骨が発掘された土地は、住むことに心理的な抵抗を生じさせる、いわゆる心理的瑕疵物件とは言えないのだろうか。

“何が”心理的瑕疵に当たるのか

宅地建物取引士の資格を持つ石川賢樹弁護士によれば、不動産売買の契約後に「心理的瑕疵に当たる理由があった」として、買い主が“賠償金”や“土地価格の減額”を求め販売会社を訴える裁判は少なくないという。

しかし、何をもって心理的瑕疵に当たるかという明確な規定はないそうだ。

「歴史上、“人が一度も亡くなったことのない土地”はほとんどないのではないでしょうか。そういう意味でも、人が亡くなった=心理的瑕疵があると一概には言えないんです。

過去に人が亡くなっていたとして、変死なのか自殺なのか殺人事件なのか、不動産のどの部分で、いつ起きたのか、裁判ではそうした個別の事情をかなり細かく汲んで瑕疵に当たるかを判断しています」(石川弁護士)。

ただ石川弁護士は、瑕疵があると認められる判断基準のひとつには“客観性”が挙げられるとして次のように続ける。

「社会通念上、多くの人が『この物件は傷物』『この土地に住むのは嫌だ』と思うような事情があれば、心理的瑕疵と判断されることが多く、土地価格の減額や賠償請求が認められることもあります。

Aさんのケースでは、埋葬後100年以上経った人骨について、ディベロップメント社は『社会通念上、多くの人が嫌がるものではない』と判断し、『心理的抵抗を生じさせるものではない』と主張しているのだと考えられます」

「墓地だった」に告知義務はない…?

Aさんが購入した土地がかつて墓地だったことはディベロップメント社も知らなかったようだが、そもそも契約後のトラブルを避けるために、その土地の“過去”について調査し告知しておく必要はなかったのだろうか。

厚生労働省のガイドラインでは、告知義務について、賃貸住宅で自殺・他殺・事故の死亡が起きた場合、発生からおおむね3年は宅建業者(仲介不動産会社)が借り主に事実を告知するべきと示されている。また賃貸住宅に限らず、自然死から長期間発見されなかった等、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合も伝えるべきとされる。

ただし「人の死が生じたことを疑わせる特段の事情がないのであれば」、宅建業者に「自発的に調査すべき義務まではない」ようだ。

石川弁護士も「埋葬後100年以上が経過している人骨については知らなくてもおかしくはないですし、たとえ知っていたとしても『かつて墓地だった』程度では告知義務は発生しないと思う」と話す。

その上で、義務は発生しないが、人によっては住むことに抵抗を感じる“事情”を買い主に伝えるかどうかは、宅建業者やその売買を担当する宅建士によって対応が異なるという。

「事情を説明すれば後々の紛争が防げますので、業者としても説明した方がリスクは取り除けますが、同時に、説明すれば物件が売却できないというリスクもあります。業者はそのジレンマを抱えていると思います」(石川弁護士)

不動産の“過去”を調べる方法

土地などの不動産は高額で、購入時の失敗は誰であっても避けたいもの。そのために不動産の“過去”を知りたい時はどうすればいいのか…。

石川弁護士は「担当の宅建士に聞けばいいんです」と明快だ。

「“聞かれなければ言わなくていいこと”はたくさんあるんですが、宅建士は知っていることについて虚偽の事実を申し向けることはできません。『この土地には以前何があったんですか』『どういう事情で売りにだされているんですか?』など、不安なことは宅建士にどんどん聞くことです」(石川弁護士)

宅建士も知らないような古い情報は、図書館で過去の住宅地図を確認したり、法務局に保管されている登記簿謄本を確認する手もあるが、「一番早くたしかな調査方法」として石川弁護士が勧めるのは「近くに住む人、長くその地域に住んでいる人に話を聞くこと」だという。

「町内会長や近所に住む人を訪問して『あの土地の購入を考えているんですが、以前は何があった場所ですか』など伺ってみるといいですよ。特に地図や書類には書かれていない“心理的な部分”はそのエリアに住んでらっしゃる人が1番よくわかっています。

それに心理的瑕疵とは別ですが、いざ住むとなると地域のコミュニティは切っても切り離せません。近隣の人が不親切だったら、土地が魅力的でも住まない方がいいですからね」(石川弁護士)

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