泥酔男が自宅に明け方“ピンポン”…ナイフで“応戦”した女「正当防衛」とならず逮捕されたワケ

弁護士JP編集部

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泥酔男が自宅に明け方“ピンポン”…ナイフで“応戦”した女「正当防衛」とならず逮捕されたワケ
酒に酔った男性はちょうど2フロア下にある女の部屋を自宅と勘違いしたという(kouta / PIXTA)

今夏、兵庫・尼崎で酒に酔って自宅マンションの部屋を間違え、早朝にインターホンを鳴らした男性をナイフで切りつけたなどとして、57歳の女が殺人未遂容疑で逮捕された。この事件が報道されると、「正当防衛じゃないのか」「(女が)やりすぎだ」とさまざまな声が飛び交ったが、一般的に「正当防衛」として認められる基準はどこにあるのだろうか。

「正当防衛」どこまでならセーフ?

冒頭の事件をめぐっては、発生場所が関西方面でたびたび“治安の悪さ”が話題となる尼崎であったことから、「尼崎ならではの事件だ」といった声も一部で見受けられた。これについて、尼崎出身の向畑了弁護士は「(治安の悪さで)それなりに名前が通ってしまっている部分があるので、そういった声が出るのはある意味しょうがないですかね…」と苦笑いしつつ、「正当防衛」について教えてくれた。

「正当防衛に関する規定としては、刑法第36条1項に『急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない』と定められています。

ただ、個別具体的にこのケースなら成立する、このケースなら成立しないと逐一定められているわけではないので、状況をパッと見て『これは正当防衛だからセーフ』と判断するのは難しいです」(向畑弁護士)

実際に成立するかどうかの判断は難しいものの、正当防衛の基本的な考え方について、向畑弁護士は以下のように指摘する。

「もし相手が暴行などの違法な侵害行為をやってきたとしたら、本来であれば警察を呼ぶなど“正当な手段”をもって応じるべきですが、相手が今まさに殴りかかってこようとしているときに、そんな悠長なことは言っていられません。

そういう差し迫った状況で自分の身を守る必要がある場合に、例外的に自己防衛としての反撃を許しましょう、というのが『正当防衛』の基本的な考え方になります。

このような差し迫った状況を、刑法第36条1項は『急迫不正の侵害』と言い表していて、これを満たしていないと、そもそも反撃行為として『やりすぎ』『やりすぎじゃない』という議論にすら乗ってきません」(向畑弁護士)

「武器対等の原則」もあるが…

あくまで緊急状況下にあることは大前提として、「やりすぎか、やりすぎじゃないか」はケース・バイ・ケースで判断されるという。

「『やりすぎか、やりすぎじゃないか』は、同項の『やむを得ずにした行為』といえるかどうかに関わってきます。

この点、刑法には『武器対等の原則』といって、相手が拳ならこちらも拳、相手がナイフならこちらもナイフと、双方の武器が対等であれば『やむを得ずにした行為』として正当防衛になり得るという考え方があります。しかし、たとえば20代のボクシング経験者の男性と70代の高齢女性なら、武器が対等であったとしても、そもそもの体力が違うことから一概に当てはめることはできません。

『やむを得ずにした行為』といえるかは、双方の年齢や性別はもちろん、客観的な状況や当事者の言い分などから、後になって法的に評価されることになります」(向畑弁護士)

尼崎の事件で女が逮捕されたワケ

冒頭の尼崎で起きた事件について、後日談は不明だが、逮捕時の報道によれば、酒に酔って自宅マンションの部屋を間違えた男性がインターホンを鳴らしたところ、女が出てきて男性をナイフで切りつけたという。

「男性が酔っぱらって違う部屋のインターホンを鳴らしただけなら、正当防衛の成立要件である『急迫不正の侵害』があったとは言いがたいのではないでしょうか。

たとえば男性がドアをこじ開けて、部屋にいた女性にナイフを突きつけたのであれば、話はまったく異なってきます。しかし報道にあったように、インターホンを鳴らされた女性が自ら部屋のドアを開けて男性を切りつけたのであれば、たとえ裁判で争ったとしても、『やりすぎかどうか』以前の問題で正当防衛は認められないのではないかと思います」(向畑弁護士)

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