「いまだにやっていたのか…」ジャニーズ性加害問題を追い続けた元週刊文春記者を襲った “無力感”

弁護士JP編集部

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「いまだにやっていたのか…」ジャニーズ性加害問題を追い続けた元週刊文春記者を襲った “無力感”
先日開かれたジャニーズ事務所による記者会見。大手メディアは「全体的に遠慮しながら質問を重ねていった印象」だったという(9月7日都内/中原慶二)

今年3月に放送された英国放送協会(以下、BBC)のジャニーズ事務所創業者である故・ジャニー喜多川氏による所属タレントへの性加害報道は世間に衝撃を与えた。

BBCの報道以降、長年ジャニー氏による性加害問題の追及を続けてきた『週刊文春』は再び同問題の追及キャンペーンを展開。同誌において顔出し、実名告発を行ったジャニー氏による性加害被害者であるカウアン・オカモト氏が4月に日本外国特派員協会において記者会見を行うと、長年この問題を黙殺し続けてきたメディアの一部はようやくジャニー氏の性加害について報じ始めることとなった――。

これまで、マスコミ業界のタブーとして存在していたジャニー氏による性加害の実態を23年間にわたり追い続けてきた元『週刊文春』記者でジャーナリストの中村竜太郎氏がジャニーズ問題の本質とこれまでの経緯について改めて振り返る(インタビュー・全2回後編 ※【前編】「“悪魔の所業”を報じても追随するメディアはなかった」 …元週刊文春記者が語る “ジャニーズと芸能マスコミ”知られざる利害関係とは)。

「23年間絶望したままでした」

止まっていた23年間の歯車が動き出したのは昨年8月にBBCが来日し、ジャニーズ問題の取材を開始してからだと感じます。

BBCの女性プロデューサー、インマンさんは元々日本のアイドル文化に関心があって、いろいろと調べているうちに今回の問題にぶち当たり、来日以前に私にコンタクトを取り、同問題についてのやり取りを重ねてきました。

私とともに当時ジャニーズ問題を取材した記者のインタビューは文藝春秋社3階にある資料室で行われました。撮影時に話していると、当時取材に応じてくれた被害者との情景が鮮明に思い出され、彼のつらさや苦しさを感受して胸がいっぱいになりました。

協力してくれたにもかかわらず、何も変わっていない、何もできなかったという無力感。イギリス人リポーターから聞かれ、口からこぼれたのは「23年間絶望したままでした」という言葉でした。

証言者は「本当に勇気がある」と心から尊敬する

インタビュー撮影以降、BBCの取材進行状況や番組の内容についてはまったく分かりませんでしたが、放映日が決まり送られてきたラッシュを見てみると驚きました。BBCが独自に被害者を探し出し、顔出しでインタビューに応じてもらっていたからです。

BBCの取材に先駆け、私たちも当時の取材協力者に協力を仰いでいましたが、事情がありかなわなかったのです。男に犯された男という偏見や差別。絶対にカミングアウトしたくないという被害者が多いなか、BBCに出演した証言者は本当に勇気があると心から尊敬します。

結果的に彼らが顔を出して話したことよって、間接的な証言だけでなく、信ぴょう性が大きく増した。あのシーンが無ければドキュメンタリーは成立しなかったと思います。

そして涙を流している被害者の姿を見ていると、自分がインタビューした男性の顔がオーバーラップして、「被害者の苦しみはやはり同じ」という思いが立ち上がり、彼らの抱える心の中の葛藤や苦悩が見えました。

われわれのキャンペーンは何だったのか

『週刊文春』の性加害キャンペーンの時には、捜査当局へ告発しようと被害者に呼びかけましたが、裁判に出廷して証言してもらったのが精いっぱいで、それ以上はハードルが高かった。「親にも言ってない秘密をなぜ話さなければならないのか」という苦しい気持ちは理解できます。

そうした被害者側の心理を知った上で、狡猾なジャニーは性加害を続けていたのです。

ですがキャンペーンが終わったあと、記事を書いた意味はあったと思っていました。内部の関係者から「ジャニー氏がメリー氏にこっぴどく叱られ、合宿所がなくなった」と聞き、少年への性加害は止まったと安心していたのです。

しかしカウアンさんの会見を見て、被害はまだ続いていたことを知りがくぜんとしました。いまだにやっていたのか、と。われわれのキャンペーンは何だったのか、抑止力にならなかったのか、と自問自答しました。

「まだ放送できるかどうかは分からない」

23年ぶりに報じられたジャニー氏によるBBCの報道以降も後追いするメディアはほとんどなく、事態は急には動きませんでした。

流れが変わったのはカウアン・オカモトさんの特派員協会での会見だと思います。カウアンさんが会見をしたことにより、今ほど記者の数は多くはなかったのですが、会見内容のストレート記事を共同通信が配信。初めてスタートボタンが押された感じがしました。

その後はジャニーズサイドも重い腰を上げざるを得なくなり、藤島ジュリー景子氏が謝罪動画を公開。大手メディアもジャニーズが公式に謝罪したことでジャニー氏の性加害について報じざるを得ない流れとなりました。

一連の流れのなか、NHKの『クローズアップ現代』の取材チームが私のところにも取材に来ましたが、その段階では「まだ放送できるかどうかは分からない。ウチとしてもこの問題を取り上げることはハードルが高くて、上層部がゴーを出すのかどうかも含めて分からない段階です」と不安を口にしていました。

実際にメディア各社は、世間の反応を見ているように感じました。当然ジャニーズに対する忖度(そんたく)があったのだと思います。

この “事件”は日本社会の「さまざまな問題」を重層的に内包している

カウアンさんの会見以降、これまでの「メディアの沈黙」についての報道も出始め、大手メディア各社も報道姿勢について反省する旨の見解を出していますが、四半世紀もの間、利益を分け合う関係だったことを考えると、本当に改善されるのか懐疑的にならざるをえません。

俯瞰(ふかん)してみると今回の問題をテレビなどは本気で追及しているような気はしないのです。

例えば先日のジャニーズ事務所の会見ですが、映像を見ると追及しているような感じもしますが、果たして本当はどうだったんでしょうか。スポーツ紙や芸能リポーターからの追求はなかったような気がします。鋭い質問をしていたのはフリーランスの記者やネットメディアの人たちで、全体的に遠慮しながら質問を重ねていった印象です。

よく会見で見かける、不祥事を起こした会社やスキャンダルを起こした落ち目の議員などに対する集中砲火に比べれば、今回の会見の質問は甘いと思いました。時にはヒステリックに加害者を糾弾する性質を持ったメディアですが、ジャニーズに対してはそれほど感じない。どこかで防御線を張っていたりとか擁護したりとか。その背景に利害関係を一緒に享受してきたパートナーであることが潜んでいるような気がします。

ですがこれだけ多くのスターを抱え、大きな社会的影響力のある事務所、日本を代表する芸能界のトップな訳ですから、メディアはこの問題を引き続き大きく取り上げるべきです。他のニュースも重要ですが、今回の事件は日本社会のさまざまな問題を重層的に内包している。それをきちんと紐解いて事実を検証していくこと、これまで世の中の人に知られてこなかった事実をつまびらかにして知らせてほしいというのが私の願いですね。

23年間黙殺されてきたことが公になったことはとても重要だと思います。今後も風化させずにこの問題に関心を持ってほしい。議論をして、それで少しでも世の中が良くなればと思っています。

(取材・構成 ジャーナリスト・大島佑介)

中村竜太郎
ジャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、会社員を経て、1995年から週刊文春編集部で勤務。政治から芸能まで幅広いニュースを担当し、04年「NHKプロデューサー巨額横領事件」、13年「シャブ&飛鳥」など数々のスクープを飛ばす。「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」では歴代最多、3度の大賞を受賞。第46回大宅壮一ノンフィクション賞候補。2014年独立し、現在は月刊文藝春秋などで執筆中。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ

中村 竜太郎
文藝春秋

衝撃のスクープはこうして生まれた!端緒の情報、極秘取材、当事者直撃、徹夜の原稿執筆…その舞台裏を、20年間最前線で活躍した記者が赤裸々に明かす。

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