”改悪”「ふるさと納税」はどこへ向かうのか? それでも “メリット”を享受する利用法

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

”改悪”「ふるさと納税」はどこへ向かうのか? それでも “メリット”を享受する利用法
豪華返礼品の裏で自治体が身を削っている実態も( shige hattori / PIXTA)

2008年に制度がスタートし、得するマネー運用のひとつとして定着したふるさと納税。10月1日からそのルールが変更されるが、”改悪”との声がもっぱらだ。制度に詳しい専門家は、「現状のルール下でやっていくことは自治体には簡単でない」と解説。その上で、「場合によっては量を減らして納税額を据え置くステルス値上げも起こりうる」と現在のふるさと納税の仕組みが限界に達していると指摘する。

2000円の持ち出しのみで、それ以上の豪華返礼品が魅力だったが

ふるさと納税は、自分の生まれ故郷や応援したい自治体に、「納税」という名のもとに「寄付」を行う制度だ。納税義務を果たしながら、返礼品という形で2000円の持ち出しのみで、それ以上のリターンがあることで利用者が増え、何度かのルール変更を経て現在に至っている。

本来は、純粋に生まれ故郷へ恩返しもかねて納税する、過去にお世話になった自治体に納税で貢献したいといった想いを果たす制度のはずだが、次第に返礼品目当てにシフト。各自治体が、寄付金争奪戦のため、返礼品を豪華にするなどで、歪みや問題が生じるようになった。

ルール厳格化で魅力が希薄に

そこで管轄の総務省が2019年に返礼品の規制を強化。「地場産の品物に限定」「価格は寄付金の3割程度」「商品券・電子マネー等はNG」などがルールに加わった。今回のルール変更は、これらをさらに厳格化する内容となっている。

とにかく豪華な返礼品目当てで制度を利用していた人にとっては、魅力が薄れることになり、”改悪”であり、なりふり構わぬ豪華返礼品で寄付額を増やしてきた自治体にとっては、大幅な減収が予想されるため、不満ぷんぷんだ。

制度に詳しい専門家は「現状維持は自治体の負担が大きい」

こうした声が多数派なため、今回のルール変更に対する評価は概ね”改悪”となっている。そこで、同制度に詳しい東京財団政策研究所の平田英明主席研究員に、その背景や狙いについて話を伺った。

今回のルール変更の本質的な狙いはどこにあるのでしょうか。

平田氏:総経費を納税額の5割以内とするルール(いわゆる5割ルール)は、経費についてのルールの曖昧さをなくし、自治体間での制度運用に関する公平性を担保するのが狙いです。最低限、ふるさと納税の半分は自治体に入るようにすることも然りです。役所としては、意図的に改悪を目指したわけではないでしょう。

あいまいさを排除して、自治体の運営負荷を健全に戻すイメージでしょうか。

平田氏:返礼品の3割ルールとの組み合わせで考えると、返礼品以外の経費を2割以内とするルールと見ることもできます。ただし、昨今、送料や人件費も上昇傾向にあるという状況下で、当該ルールの中でやっていくことは自治体には簡単ではないのが現実です。

地場産品基準の改正は2019年に続いて2度目。やはり厳格化は必要なのでしょうか。

平田氏:そもそも地場産品のルール(実際には地場のモノやサービスに関する規制)の運用は、手間がかかります。とはいえ、ふるさと納税というフレームワークの中では導入せざるを得ない仕組みです。ふるさとの良さを知ってもらうことも制度の目的なわけですから。

収益維持に “ステルス値上げ”に手を染める自治体が出る可能性も!?

ルール変更でこれまでの人気商品の削除を迫られる自治体も出てきます。”減収”も不可避の中、どんな巻き返し策が考えられそうでしょうか。

平田氏:今回は通達から新ルールの適用までの期間が短く、現時点では撤退(返礼品の取り下げ)が現実的な対応となるケースも少なからずあるでしょう。例えば、実質的な経費が5割を大幅に超えていたようなケースです。いずれにしても、魅力的な商品の撤退などの結果、納税者の減少も不可避かもしれません。 とはいえ、自治体にとって巻き返しは簡単ではなく、地場産品ルールを満たしながら、返礼品の選択と集中をする必要に迫られるでしょう。

今回のルール変更でいよいよ自治体も、そして利用者も十分にメリットを享受できなくなっている印象です。

平田氏:ふるさと納税のメリットは立場によって大きく異なります。今回の制度変更については自治体にとっても利用者にとっても顕著なメリットがありません。強いていえば、5割ルールが厳格化されたことで、商品やサービスの提供において、双方が対等の立場で競争が行えるように条件や基盤などを同一にするイコールフッティングが実現しやすくなることくらいでしょうか。この点についていえば、前向きに捉えてもよいかもしれません。

”改悪”の声が多いことからすると、利用者の減少や自治体間格差が一層広がりそうな懸念もあります。

平田氏:自治体にとっては、新ルールを満たしながら従来の返礼品を維持することは難しくなったという意味ではデメリットが大きいでしょう。それでも減収を避けたいとなれば、場合によっては、量を減らして納税額(返礼品)を据え置くステルス値上げ的なことも起きるかもしれません。他方、これは利用者にとってはデメリットとなります。

もはやふるさと納税はある種のマネーゲームと化し、行きつくところまで行きついたということなのでしょうか。

平田氏:個人的にはそのように考えています。「地方の魅力を改めて伝えていく」といった当初のふるさと納税の目的はすでに十分に果たされたと考えられます。今後は、返礼率を徐々に押し下げていくとか、ふるさと納税枠を従来の水準に戻すことなども検討すべきではないでしょうか。そうすれば、寄付としてのふるさと納税の本来の姿に近づくはずです。

活用者にとってはうまみが減り、自治体も減収が確実…。モノではなく事による返礼品は今回のルール変更の影響が少ないともいわれるが、活用者が得をすることだけが、この制度の趣旨ではなかったはず。「ふるさと」という言葉のプラスの響きが汚されてしまうなら、ここらで一区切りするのも悪くないのかもしれない。

平田英明
東京財団政策研究所主席研究員 1974年東京都生まれ。96年慶応義塾大学経済学部卒業、日本銀行入行。調査統計局、金融市場局でエコノミストとして勤務。金融関連(金融市場、マネーストック)、物価指数に関する調査研究を行うとともに、民間債務を買い切るという非伝統的金融政策の先駆けとなった資産担保証券市場を通じる企業金融活性化のためのスキーム(証券化証券の買入政策)などを担当。2005年法政大学経営学部専任講師、12年から教授(現在に至る)。IMF(国際通貨基金)コンサルタント、日本経済研究センター研究員なども務めた。経済学博士(米ブランダイス大学大学院)。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア