“信号無視” “逆走”「交通違反」電動キックボードが目の前に飛び出し事故発生…それでも「クルマ側の責任」は重いのか?

弁護士JP編集部

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“信号無視” “逆走”「交通違反」電動キックボードが目の前に飛び出し事故発生…それでも「クルマ側の責任」は重いのか?
歩道にある日陰で信号待ちをする電動キックボード(Ryuji / PIXTA)

7月から道路交通法が改正され運転免許なしで利用できるようになった「電動キックボード」。自賠責保険への加入や時速20キロ以上出ない機体であることなど一定の基準を満たせば、16歳以上からヘルメットなしでも運転できる。

利用者が拡大した一方で、交通違反の取り締まり件数も増加。今月6日には東京・池袋で、歩行者を電動キックボードでひき逃げしたとして、20代の女性が逮捕されるなど人身事故も発生している。

警察庁によれば規制が緩和された7月に、全国で電動キックボードが関係する事故は7件発生。運転者に対する検挙は全国で406件に上ったという。検挙のうち187件は「信号無視」、151件は歩道への進入や逆走などの「通行区分違反」だった。

「クルマの責任が重い」は本当だった

こうした状況に、SNSなどを中心に自動車(以下、クルマ)やトラックを運転するドライバーらからは不安の声があがっている。

ドライバーらが訴える主な不安要素は、万が一、対電動キックボードの交通事故が起きれば、クルマ側の「過失割合(※交通事故において、当事者それぞれが負う責任の割合)」が高くなるとされていることからだろう。実際に事故が起きた場合はどうか。

交通事故事件を多く取り扱う鷲塚建弥弁護士は、やはり「クルマ側の責任が重い傾向になる」と話す。

「一般に、交通事故でクルマの過失割合が高くなるのは、自動車の運転行為そのものの危険性が高いため、それに応じた高い『注意義務』を負うことになるためです。電動キックボードと比べてもクルマを運転するという行為は危険性が高く、責任も重い傾向となります」(鷲塚弁護士)

クルマ側の不注意で事故が起きたのであれば納得できるが、電動キックボードでは前述の通り「信号無視」、「逆走」など看過できない危険運転も多発している。電動キックボードの過失によって事故が起きてしまった場合についてはどうだろうか。

鷲塚弁護士は「電動キックボード側に重大なルール違反があれば、過失割合が高くなる場合もある」とした上で、「交通規制違反があったから電動キックボード側の過失が高くなるというものではない」と過失割合の算定の難しさを語る。

「交通規制違反と一口に言っても、たとえば『赤信号無視』と『一時停止無視』では危険性の程度が異なりますよね。それぞれ内容に幅があるため、その危険性に応じての判断となります」(同前)

目の前で転倒されたら…

電動キックボードは車輪が小さく不安定なことから、転倒のリスクも問題視されている。今月1日には北海道で、電動キックボードの死亡事故が発生した。死亡した50代の女性は、飲酒後電動キックボードを運転し、町道で転倒したとされる。

こうした事故が今後はクルマ通りの多い道で起きることも考えられる。そうなれば、転倒した人が並走車や後続車と接触する可能性もあるだろう。

「電動キックボードが転倒してブレーキが間に合わなかったら」、「転倒して自分のクルマにぶつかってきたら」。そう不安になるドライバーも多いのではないか。

鷲塚弁護士は「並走車にぶつかった場合は、並走車側に予見可能性や回避可能性がなければ、クルマ側の責任を問われない可能性もあります。ただ、運転するクルマの前で電動キックボードが転倒し、運転手が道に投げ出された場合で、ブレーキが間に合わなかったケースでは、予見可能性や回避可能性を完全に否定することは難しく、責任を問われてしまう可能性は十分にあるともの考えられます」と説明。

その上で、運転時にドライバーが気を付けることを次のように紹介した。

「電動キックボードが近くを走行している場合は、万が一転倒しても十分に避けることのできる距離を保って走行し、追い抜くときは電動キックボードとの距離に余裕をもって運転することが一番です。

また、ドライブレコーダーを搭載しておくことで事故が起きた際の状況を客観的に証明することができます。自身の運転に問題がなく、電動キックボード側の問題で事故が生じた場合には、ドライブレコーダーが保存されているかもしっかりと確認し、消えてしまわないように証拠を確保するようにすべきです」

フランス・パリではシェアリングサービスが廃止

2018年に電動キックボードのシェアリングをいち早く取り入れた欧州のうちドイツでは、昨年、電動キックボードによる事故で11人が死亡、1234人が重傷、7651人が軽傷を負ったという(暫定値)。フランス・パリでも危険運転や乗り捨てが社会問題となり、住民投票の結果、今年8月末にシェアリングサービスが廃止される事態となった。

2018年の導入当初、13歳以上であれば免許なしでも運転が可能だった韓国でも、違反や事故が多発。2021年5月より規制が強化され、運転できる年齢は16歳以上になり、免許とヘルメットが必須となった。

こうした各国の規制強化の流れと逆行し、規制緩和に進んだ日本。

鷲塚弁護士は「利用者の利便性は高い」と電動キックボードに一定の評価をしつつも、「ヘルメットが努力義務でしかないことからすれば、無防備な状態での気軽な利用が相当増えてくることが予想され、大きな事故が起きることも十分予想されます」と懸念する。

「交通事故案件を多く取り扱っていると、バイクの事故などでは重傷化するケースが非常に多くみられます。電動キックボードでの事故が発生した場合にもやはり重傷を負ってしまう被害者が増えてしまうのではないかと危惧しています。

人が“生身”の状態で車道を走る以上、電動キックボードの利用者は相当気を引き締めるべきだと思います。クルマの運転をする方は運転そのものに気を遣うのはもちろん、自分個人が多額の賠償責任を負わないよう、任意保険には必ず加入すべきと言えるでしょう」(鷲塚弁護士)

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