夫と浮気相手の「カーセックス」現場を押さえたのに…妻の“損害賠償請求”を裁判所が「認めなかった」ワケ

浮気相手とのカーセックス中に妻がドアを開けてきた事件を解説します。（弁護士・林 孝匡）

ホントウにあった怖い話。早速、まいりましょう。（千葉地裁 R4.6.23）

※ 判決を簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

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▼ 妻
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・4人の子ども
（内縁関係ですが妻と記載します）

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▼ 内縁の夫
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・チャラ男（仮名）
・前妻との間に2人の子ども

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▼ 浮気相手の女性
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・麗子（仮名）
・4人の子ども

どんな事件か

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▼ 6年くらいは円満
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H20
妻とチャラ男との交際がスタートします。どちらも連れ子がいましたが（合計6人）、関係はうまくいっていたようです。

H23ころ〜
チャラ男が妻の自宅に行って子どもたちと過ごすことが増えました。

H26.3
チャラ男が新居を購入。妻と子どもとチャラ男は同居。

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▼ チャラさ発動
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H26ころ
チャラ男と麗子は飲食店で知り合います（夜のお店ではなさそうです）。その後、電話でやりとりなどをして会うことがありました。

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▼ 女のカン発動
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それから3年ほどたったころ。

H29.10
妻がチャラ男と麗子の関係を疑います。妻は麗子にTELしてカラオケボックスに呼び出しました。ヤンキー漫画の世界です。

妻
「ウチの旦那とSEXしたことはないですか？」

麗子
「ただの友達です」

麗子は否定しました。しかし、妻はこの話を信じることはできず、チャラ男と別れることを決意します。

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▼ 妻が麗子にLINE
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妻が麗子に以下のLINEを送りました。

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・マジ、この人をもらって！ 私にはもう無理だ
・私は大丈夫。2人を応援するって。家も出て行くって言った。
・土曜から引っ越しするよ
・私。完全に●男（編注：チャラ男）とは切れました。こぅしなきゃいけないってずっと思ってても、そうできず散々子供達を傷つけ振り回してきた。でも、やっぱり、●男のことは弱さも不器用さも分かってるから...悪いところだけじゃないから嫌いになり切れずにいた。今もそぅ。心配で仕方ないし。でも、もう一緒にいる事はできない。。。だから、早く幸せになって欲しい。だから。頼むね、麗子。
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自分は身を引いて麗子に譲ったと読めますね。その後、妻とチャラ男は別れます。・・・しかし！

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▼ チャラ男、元サヤへ
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別れた後、チャラ男は妻と別居し始めたのですが・・・妻に連絡をとり続けたようです。そして、再び妻と交際を始めます。

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▼ チャラ男、グレードアップ
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元サヤに戻ったのですが、その後も、チャラ男は麗子に「飲みに行こう」と誘っていました（チャラ男と命名されたゆえんです）。チャラ男からの誘いを麗子は断り続けました。

4年ほど時が流れます。

カーセックス

事件の日のことをお話しします。

麗子は自分の子どもたちと焼き鳥屋で食事をしていました。そこに偶然、チャラ男が知人と来店。チャラ男は麗子に誘いをかけたのでしょう。しかし麗子はチャラ男に「また面倒なことになるのはイヤ」と伝えました。妻からカラオケボックスに呼び出された事件がウザかったんでしょうね。

その後、2軒目の居酒屋に行きます。チャラ男の子どもも合流。飲み食いした後、チャラ男は麗子に「もう1軒いこう」と誘いました。そしてお互いの子どもたちを帰らせました。

2人きりになったあと、路駐した車に入ります。人通りの少ない駐車場、お酒が入っている2人、たかぶる（ちょっと待ってください。私は官能小説を書いているのでしょうか）

ここで麗子はチャラ男からカーセックスに誘われます。麗子は​「大丈夫なの？」「大丈夫なの？」「大丈夫なの？」と3回もチャラ男に聞きました（この「大丈夫なの？」は「妻とは別れているのか」という意味だと思います。裁判所もそう認定しています）

麗子はカーセックスに同意します。

忍び寄る恐怖

車内でコトが進もうとしていた時、妻がその車を発見します。友人も一緒にいました。妻は友人に「ビデオカメラを回すよう」伝えました（恐ろしい話ですが証拠を残すにはコレくらいの気合が必要です）。

せーのっ！

ドア、オープン！

チャラ男は下半身の服を脱いだ状態、麗子は上半身に服を羽織っただけの状態でした。試合開始前？ 終了後？ どっちなんだい！

妻
「チャラ男のことが好きなの？」

麗子
「チャラ男とは久しぶりに会った。まだSEXしていない。それ知らなかった」（「それ」とは「チャラ男と妻がヨリを戻したこと」だと思います）

妻が提訴。麗子に対して300万円の損害賠償請求をしました。

ジャッジ

妻の負けです。ゼロ円。理由はザックリ以下のとおり。

裁判所
「SEXはしていない」
「でも、このイチャイチャは不貞行為！」

Q.
じゃー妻の勝ちでしょ！ 不貞行為なんだから

裁判所
「そうなんだけど、麗子は妻とチャラ男が別れたと信じてたでしょ。なら麗子に過失はない。なので妻の請求は認められない」

順番に解説します。

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▼ イチャイチャでも不貞行為？
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裁判所は、このイチャイチャは不貞行為だと認定しました。具体的には、

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性交に及ぶことを前提にされた性的接触行為といえ、それ自体、妻とチャラ男との間の共同生活の平和を害する行為である
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と認定しています。

妻
「イチャイチャではなくSEXをしたはずです！」

たしかに、SEX認定できれば慰謝料は上がりますからね。裁判所さん、どうですか？

裁判所
「性交に及んだことを裏付ける証拠はナイ」

車のドアを開けるのが少し早かったようですね。車が揺れてからオープンしてたらingを激写できた可能性があります。読者の皆さま、家康の名言「揺れぬなら 揺れるまで待とう ホトトギスとカーセックス」を教訓にチャンスを待ちましょう。

​​■ イチャイチャでもアウト裁判例
ほかにも裁判例があります。男性は、ベッドで浮気相手（女性）にマッサージしてもらった後、下着姿で抱き合い身体を触ったりしました。SEXはしてません。けど裁判所は「コレは不貞行為だ」と認定（東京地裁 H25.5.14）

完全に服を着たままイチャついてたらどうなのか？
シャツの第3ボタンまでしか外していない状態だったらどうなのか？
第2ボタンまでだったら？

悩みはつきませんが、とにかく！
【イチャつきだけでも不貞行為と認定されるかも】ということは押さえておいてください。

■ 裁判官のアタリはずれ
もしかしたら「服着たままのイチャつきでもダメ！」という純白裁判官がいるかもしれませんし、不倫グセのある裁判官だったら「服を着たままならセーフっしょ。婚姻共同生活の平和維持という権利を侵害しないっしょ」とタナボタ判断してくれるかもしれません。「どこまでしたら不法行為になるか？」って裁判官の価値観次第です。

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▼ 「別れた」と思っていた
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というわけで今回のイチャイチャはアウトなのですが、ここが大事。

麗子はチャラ男と妻が別れたと信じていたんです。裁判所は以下の事実から「麗子は彼らが別れたと信じていた」と認定しました。

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妻から麗子への「別れた」LINE
その後、妻から「チャラ男と復縁した」とのLINEはなかった
また面倒なことになるのはイヤと断っていた
大丈夫なのかを何度も確認していた
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「過失」があって初めて不法行為になります（民法709条）。今回のように裁判所が「別れたと信じていた」と認定してくれれば「過失なし」となるので不法行為は成立せず賠償金を払う必要がないのです。
※安直に信じるだけじゃ「過失アリ」となる可能性もあるのでご注意を。

今回は以上です。「ビデオカメラ回せ」・・・ドアオープンッ！・・・想像しただけで気絶しそうですな。いつもは労働関係の発信をしています。またお会いしましょう！