共通テスト「痴漢祭り」卑劣な書き込み犯は逮捕できない? 痴漢に間違われた際のNG対応も解説

中原 慶一

中原 慶一

共通テスト「痴漢祭り」卑劣な書き込み犯は逮捕できない? 痴漢に間違われた際のNG対応も解説
写真はイメージです(K@zuTa/PIXTA)

受験シーズンがピークを迎えている。

先日(1月15、16日)、行われた大学入学共通テストでは、「東大前刺傷事件」やスマホを使ったカンニング騒動などが起きたが、同じタイミングで「共通テスト痴漢祭り」も話題となった。

「痴漢祭り」とは、掲示板などで、「明日はJK(女子高生)を痴漢しまくっても通報されない日です」「明日はセンター試験だから痴漢し放題」などの不届きな書き込みが溢れることを指すネットスラング。

試験会場に遅れたくない受験生の心理につけ込んだ卑劣な行為で、神奈川県警犯罪抑制対策室が注意喚起。多くの受験生が利用する駅に制服警察官を配置するなどの対策をとった。

女性を装った書き込みも

このニュースが報じられると、ネット上は「腹わたが煮えくり返る」「全員住所開示して去勢しろ」などと怒りのコメントであふれ、文字通り〝祭り状態〟に。一時は「痴漢祭り」がツイッターのトレンドワード入りした。夕刊紙記者はこう話す。

「『妄想』という名目で、痴漢どうしが情報交換する掲示板があり、そこには〝○時×分の△△線の○両目で赤いバッグを持って待ってます〟などと、女性を装った書き込みもあります。しかしこれはターゲットの女性になりすまして男性が書き込んでいることがほとんどです」

2017年には、そうした書き込みの中で有名だった「1902」で、4人の男がひとりの女性をターゲットにして集団で痴漢し、4人とも逮捕される事件が起きている。

「『1902』とは、〝新宿駅午後7時2分発のJR埼京線川越行きの快速電車〟を指す隠語で、都心からの帰宅客で混み合うため、痴漢しやすい電車としてマニアの間では有名でした。〝今日の1902はどうでした〟などと情報交換がされていましたが、事件以降は有名になりすぎて、書き込みは以前より減りました。ちなみに現在はダイヤ改正により、その電車はなくなっています」(前出=夕刊紙記者)

「痴漢祭り」がツイッターのトレンドワード入り

犯罪を助長する書き込みは取り締まれない

痴漢は、「強制わいせつ罪」(6か月以上10年以下の懲役=刑法176条)、または各地方自治体が定める「迷惑防止条例違反」に問われる。

しかし、そうした犯罪を助長することになるこの手の書き込みは取り締まることはできないのか。犯罪や刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士に聞いた。

「基本的に犯罪にはならないです。特定の誰かを対象としたものであっても、それが全て犯罪として取り締まれるわけでもなく、ある程度個人への危険が現実的に生じうるものでなければ対象にはなりません。また業務妨害などの問題にするにしても、警察が対応を要するぐらいの現実的な危険性がなければ、取り締りの対象にはならないでしょう」

杉山弁護士によれば、女性になりすます行為も、「誰かを現実的に危険にさらす、誰かの業務が妨害される、このどちらかに繋がらないと、予告は犯罪にならない」という。

「痴漢冤罪」に巻き込まれないためには?

卑劣な痴漢に関連する犯罪がある一方、それらの影響も加わり、満員電車で通勤するサラリーマンなどが「痴漢冤罪」に巻き込まれる可能性もゼロではない。

全く身に覚えがないのに、満員電車でいきなり「この人痴漢です!」と自分の前で背を向けて立っていた女性に言われ、次の駅で周りの男たちにホームに引きづり下ろされた場合、どうすればいいのか。

巷間、よく言われる対応例は実際のところ正しいのか、杉山弁護士に○×△形式で答えてもらった。

■とにかく走って逃げるべき→×

「某弁護士番組で過去に推奨されていましたが、これは逮捕リスクを高めるだけの行為で、一番いけない対応です。痴漢で最も避けたいのは逮捕されることであり、得策ではありません」

■駅員室には絶対行ってはいけない→△

「行ったからダメというものでもないです。もう捕捉されているなら、駅員室かホームかはあまり重要ではないかと思います。ただし、駅員やその後に来る捜査官に、自分の弁明が理解してもらえるといった期待は捨てましょう」

■その場で〝私はやってないので、名誉毀損であなたを訴えます〟と相手の女性に携帯で音声を録音しながら毅然と言う→△

「音声はこっそり録音しておいてもよいかと思いますが、名誉毀損で訴えるまでは言わなくて良いかなと。冤罪だとしても、相手が捏造しているなら名誉毀損ですが、勘違いしているパターンもありますし」

■名刺を渡して立ち去る→△

「出来るならありだとは思います。しかし色々と周囲に妨害されそうです。一般人に現行犯逮捕をされると厄介です。現行犯逮捕されたら、そのまま勾留の判断までは行ってしまいますから」

■その場ですぐ弁護士に電話できるよう日頃から携帯電話に弁護士事務所の連絡先を入れておく→△

「面識がない弁護士ですと、電話しても即座には対応してもらえないかもしれません。その場で、対応方法を教えてくれたり、家族へ連絡してもらうことなどは、親しい弁護士でないと望ましくないでしょう。あとは、そのような場合に緊急対応するサービスを提供している弁護士と契約しておくことなどが望ましいと思います」

杉山弁護士は続ける。

「『痴漢冤罪』の問題が注目されるようになり、映画『それでもボクはやってない』(2007年公開)の時ほど、痴漢で即逮捕は当り前ではなくなってきています。捕まっても、ちゃんと弁護士が活動すれば解放できる可能性も高くなっている。したがって、「逮捕の必要性を高めるようなアクションは取るべきではない」というのが私の評価の前提です」

痴漢を誘発するような卑劣な書き込みは言語道断だが、痴漢するつもりなど毛頭ない我々一般人が、痴漢と誤解されて人生を棒に振るようなことも避けたいものだ。

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