持続化給付金は対象外「デリヘル店」オーナーが行政訴訟を起こしたワケ

弁護士JP編集部

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持続化給付金は対象外「デリヘル店」オーナーが行政訴訟を起こしたワケ
写真はイメージです(Ryuji/PIXTA)

新型コロナウイルス新変異株「オミクロン株」の全国的な感染が広がっている。専門家でつくる政府分科会は新たに18道府県を追加、まん延防止等重点措置の適用地域は34都道府県に拡大されることとなった(1月26日現在)。

依然として収束する気配を見せないコロナ禍。時短や休業が死活問題となる事業者に向けた救済制度の存在が取り上げられ、中小企業や個人事業主に向けた「持続化給付金」制度なども広く知られるようになった。

売上が前年同月比で50%以上減少した事業者などに対するこの救済制度(中小企業・小規模事業者上限200万円 フリーランスを含む個人事業主上限100万円)には、給付対象となる事業者の条件がある一方、給付の対象外となる「不給付」の要件も定められているのはご存じだろうか。

そのひとつが「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する「性風俗関連特殊営業」」、一般的に「性風俗店」と呼ばれる形態の事業者だ。

「『本質的に不健全』なのは国」

昨年、給付の対象から性風俗事業者を除外したのは、憲法が保障する「法の下の平等」に反し違憲だとして、関西地方でデリバリーヘルス(デリヘル)を営む事業者が「持続化給付金と家賃支援給付金」を支払うよう国を訴える裁判があった。

この訴えに対し国側は「性風俗業は本質的に不健全」であり、「国庫からの給付金支給は、国民理解を得ることが困難」、よって「支給の対象外としたことは合理的」とする姿勢を表明した。

先月12月21日に東京地裁で開かれた裁判の第2回口頭弁論では、原告側から碓井光明教授(東京大学名誉教授・東亜大学院教授)、青山薫教授(神戸大学大学院国際文化学研究科)らの意見書が提出。行政学、社会学の視点から、給付金拒否の違憲性・違法性などについて指摘がなされた内容であった。

同日の会見で原告訴訟代理人の平裕介弁護士は、これまで提出した訴状や準備書面、研究者の意見書を含む証拠に照し、「国の対応は憲法14条違反で合理的理由のない差別。『本質的に不健全』なのは国ではないか」と述べ、すみやかな弁論終結と判決を求めた。

会見を開いた平裕介弁護士ら弁護団(2021年12月21日霞が関/弁護士JP)

コロナで月の売上が8~9割減に

裁判の原告であるFU-KEN(フーケン)さんは、関西方面で無店舗型のデリバリーヘルス店を経営する人物。競合も多く、2、3年で閉店という店も少なくない中、「細く、長く」営業を続けてきた。しかし、コロナになって売上は半減。その後、政府からの休業自粛要請に従い、さらに月の売上が8~9割減という状況に陥った。

FU-KENさんは店を維持していくために公的支援の利用を検討する。

厚生労働省は、以前から「雇用関係の助成金」の支給対象から「暴力団や性風俗業」を除外していた。休業手当を支払って雇用を維持した事業者に支給される「雇用調整助成金」も同様であったが、支援団体が動いたこともあり、コロナ禍に関連する助成金の対象に性風俗業を加えられるようになった経緯がある。

「持続化給付金」に関しても細かい概要は発表されていなかったが、「対象になるだろう」と目論んでの休業。しかし、「性風俗」事業者は対象外となっていた(※性風俗店で働くキャストは給付の対象。届け出事業者は対象外)。

FU-KENさんはツイッターでもその思いを発信している

訴訟を躊躇している場合じゃない

「「おかしいな」と思ったことが今回の訴訟の出発点です。その後、支援団体に協力者を紹介してもらい、陳情書を作成して中小企業庁に提出しました。担当の方に「なぜ対象外なのか」と聞いた時に、「これまでの踏襲だ」という返答の繰り返しで何の対応もなされない。

具体的な理由もハッキリ説明してもらえなかった。きっちり届け出をして、税金を納めていても対象外というのは何故なのかを知りたくなりました」(FU-KENさん)

このままでは埒が明かないとFU-KENさんは訴訟を検討する。「行政訴訟」はリスクもあり、難しいというのも聞いていた。しかし…。

「コロナのタイミングで知ったことがたくさんあります。国がなぜそこまで差別的なのか。長年この仕事を続けていて傷ついてきたこともあるし、危険な思いもしてきた。ただ「こういう仕事だから仕方ないか」みたいなある種のあきらめもあり、それを当たり前だと思って甘受してきた面もあります。

それらの「考え方」も含めて、その原因がこういう(差別的な)扱いにあったのかもしれないと気がついて、躊躇している場合じゃないと気持ちが前に進みました」(FU-KENさん)

行政訴訟を調べるうちに、今回の裁判の代理弁護士である平弁護士のブログにたどり着き、連絡を取った。クラウドファンディング(「社会問題の解決を目指す訴訟」に特化したウェブプラットフォームCALL4を活用)の存在も教えてもらった。

想像以上の寄付と支援の声が集まった(CALL4ホームページより)

動かなくてはいけないタイミングは「今」だった

一部にある業種に対する偏見を考えると、支持されないのではと思っていたというFU-KENさん。興味や関心を持ってくれる人が想像以上に多かった。

「今回の扱いはおかしいと思っている人、性風俗以外の業界の人も賛同していただけるのがありがたかったです。一方で、「寝た子を起こさないで」「やらない方がいい」との声ももちろんありました」(FU-KENさん)

グレーな業態で誤解されがちな性風俗業界だが、あからさまに悪質な業者は減っているという。インターネットで情報共有できる時代に、キャスト、お客さんにきっちり対応しない所が生き残るのが中々難しいのだ。

「今回の訴訟、あるいはクラウドファンディングなどを通じて、『キャストを搾取している商売ではないか』といわれるような偏見、誤解、差別も含めて世の中からどう見られているのかも分かって、社会との関係性も強く意識しはじめました。

コロナ禍だからではなく、業界イメージも含めて今後も変わってほしいし、変えていきたい。動かなくてはいけないタイミングは「今」なのだろうなと思います。もちろん個人的な感情として、『納得できない』という思いが一番強かったのですが」(FU-KENさん)

陳述書の提出に協力してもらった支援団体、クラウドファンディング支援者の声、そのすべてが励ましとなった。なにより親身になってもらい、近い距離感でやりとりをしてきた弁護団との信頼関係は強い。

今後の裁判は、次回期日に「結審する方向」で進められるとみられる(期日は調整の上、指定される予定)。

自分の思いが、裁判官に伝わっていて欲しい。今はその判断を静かに待つ。

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