「年間8万件」行方不明者はどのくらい“見つかる”のか…残された人がとるべき行動とは?

弁護士JP編集部

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「年間8万件」行方不明者はどのくらい“見つかる”のか…残された人がとるべき行動とは?
行方不明者に“命の危険が迫っている恐れ”がある場合は警察による捜索が行われる(xiaosan / PIXTA)

家族や友人が突然姿を消す失踪。昨今では、残された家族や友人がSNSを通じて情報提供を呼び掛けるケースも見られる。警察庁によれば、昨年1年間に届け出があった「行方不明者」は8万4910人にのぼり、年代別でもっとも多かったのは20代で1万6848人、次いで10代が1万4959人だった。

行方不明者の中には、認知症などの疾病を持つ人や遭難などの事故に巻き込まれた人がいる一方で、自らの意思で“失踪”を選ぶケースも少なくない。

この「自らの意思で姿を消す失踪」の背景にはどのような事情があるのだろうか。『失踪の社会学』の著者で、立教大学文学部21世紀社会デザイン研究科准教授の中森弘樹氏に話を聞いた。

人が“消える”失踪の実態

「失踪」の定義から教えてください。

中森氏:「人が家族や集団から消え去り、長期的に連絡が取れずに所在も不明な状態が継続する現象」と私は定義しています。現象としたのは、本人は「配偶者から逃げている」認識でも、配偶者からすると失踪という状況になるように、ある人から見たら失踪状態だとしても、別の人から見たら失踪していないというケースがあるからです。

年間約8万件もの「行方不明届」が出されていますが、実際、長期的に連絡が取れない失踪は何件程あるのでしょうか。

中森氏:「行方不明者8万人」というフレーズはよく使われていますが、これはかなり大げさな数字です。昨年は約8万5000件の届け出がありましたが、そのうち約6万件は届け出から1週間以内に所在が確認されています。

およそ7割の行方不明者が1週間以内に所在確認等されている(警察庁「令和4年における行方不明者の状況」より ※赤枠は編集部)

その一方で、「家族が周囲の目を気にする」、「そんなに心配していない」などの理由で行方不明届を出していないケースもあり、統計にも現れない行方不明者がいます。それらを考慮しても、年単位で連絡がつかないケースは「年に1万件もないだろう」というのが私の感覚ですが、正確な件数の把握はできていません。

「一発逆転をしよう」と家を出て…

自分の意思で失踪する人たちは、主にどのような理由からそのような手段をとるのでしょうか。

中森氏:自分の意思で失踪した場合、本人が帰ってきて話を聞かない限り正確な動機はわかりませんが、昔から多いのはやはり親子げんかや夫婦げんかなど「家庭関係」です。「借金苦」が理由になることもありますが、よく話を聞いてみると、さらに実家との折り合いも悪いなど、複合的な状況に陥っていることが多いです。

(警察庁「令和4年における行方不明者の状況」より弁護士JP編集部作成)

調査をする中で、特に驚かされた失踪の動機はありましたか?

中森氏:「一発逆転をしよう」と家を出た人がいましたね。「(高額の収入が得られるとされる)マグロでも釣るか」と家を出たけど、当然そんなにうまくいく訳もなく、「公園で暴漢に襲われている女性を助けて、かっこよく死ぬか」と公園をふらふらしていたら、内装の仕事を紹介してくれる人にスカウトされ、住み込みで働き始めたそうです。

最初は、そんなに長く“いなくなる”つもりはなかったようですが、親とは折り合いが悪く、住む場所もあり、実家からの連絡に一切返事をせずにいたら、ご家族が行方不明届を出していていたと。その方は結局5年間、失踪状態を続け、最後はご家族が興信所(探偵)を使って発見に至ったそうです。

失踪に至る前兆などはないのでしょうか。

中森氏:もともと失踪経験のある人が、また失踪したというケースはあります。また、家出癖や放浪癖があって、それが高じて失踪にいたる場合もあるようです。一方、失踪をする人には、計画的なものはないように感じます。何かきっかけがあって家を出て、家族からの連絡に返事をせず、しばらくすると今度は“引っ込みがつかなくなってしまう”とよく聞きます。

行方不明者が帰ってくる2つのパターン

行方不明者に対して家族はどうアプローチするのが良いのでしょうか。行方不明者が帰ってきたケースなども教えてください。

中森氏:行方不明者が帰ってきた事例は、大きく二つに分けられます。『興信所が発見した』パターンと、『親や配偶者以外の連絡に応答があった』パターンです。

特に家族関係に問題があり失踪した人は、親や配偶者の連絡には反応しないことが多いですが、失踪している側も「ずっと帰りたくない」と思っているとは限らないようで、「親の顔が見たい」「ペットが気になる」と思うこともあるようなんですね。そんな時に誰からの連絡なら答えるのかというと、多いのは兄弟です。夫婦であれば共通の友人・知人など、関係性が異なる人を間にはさむ工夫は有効なようです。少し昔ですが、実際に兄弟とSNS「mixi(ミクシィ)」を通して連絡を取り、帰ってきたという人もいました。

失踪の際に携帯電話を置いていくなど、そもそも連絡がつかない場合などは興信所を利用するのが有効な手段ですか?

中森氏:そうですね。ただ興信所は高額で、簡単には手を出しづらい選択肢だと思います。人探しは地道な作業で、交通費が多大にかかりますし、時間もどれほどかかるか分からない。それに加えて、興信所は「依頼報酬」なので、お金を払っても見つかるとは限りません。

中には「いくらなんでも」という高額な請求をしてくる悪徳業者もいます。もし興信所に頼みたいという場合は、NPO法人や警察OB、弁護士など、人探しに精通している専門家を通して、信頼できる興信所の情報を得ることをおすすめします。

捜索は“初動”が肝心

身近な人が失踪してしまった時、何ができるでしょうか?

中森氏:警察は行方不明届が出された際、行方不明者と「特異行方不明者」に振り分けます。特異行方不明者とは、自殺の恐れがある場合や、事件に巻き込まれた可能性が高いなど“命の危険”が生じている人のことで、警察は重点的に捜索してくれます。日頃から希死念慮が強かったり、高齢、病気を抱えていたりする場合は特に、届け出を提出する際に深刻さを伝え、特異行方不明者として扱ってもらえるよう働きかけると良いと思います。

また、連絡ができる場合には、先ほどお伝えしたように、兄弟や共通の友人・知人にも連絡をしてもらうのが有効だと考えます。長期化すればするほど、失踪している本人も引っ込みがつかなくなってしまいますし、自殺を図るために家出したケースでも、人探し業界には「家を出てから自殺するまでは長くても数日」という定説があります。とにかく届け出や連絡など、対応は“早く”行うことが大切です。

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