食べたら危険「ヤバい魚」は扱い次第で法律違反も? 知られざる“有毒魚”のリスク

宮田 文郎

宮田 文郎

食べたら危険「ヤバい魚」は扱い次第で法律違反も? 知られざる“有毒魚”のリスク
沖釣りや磯釣りでかかることもある「バラハタ」。癖がなく脂も乗っているというが東京都では販売自粛を求めている(弁護士JP編集部)

食べた人の体に異変をもたらす毒を持ち、ときに命を奪うことすらある魚がいる。いわゆる有毒魚だ。

昨年は魚や貝など有毒魚介の動物性自然毒による食中毒が16件発生し、21人が被害を受けた。寄生虫のアニサキスによる食中毒が566件だったのに対して発生件数は圧倒的に少ないものの、ひとりはフグの毒によって命を落としている。

そんな“ヤバい魚”たちから私たちはいかにして守られているのか、有毒魚にまつわる法律や規制、その運用について、食の安全を守るエキスパートと法のエキスパートそれぞれに話を聞いた。

東京都「販売自粛」の魚が多い理由

有毒魚の多くは「販売禁止」や「販売自粛」といった措置が取られており、ほとんどの食中毒はその規制の外側で起こっている。

食品衛生法では、販売や販売の用に供するための調理や輸入等を禁じる食品として「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの」を挙げ「ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない」としている。

オニカマスやバラムツ、アブラソコムツは食品衛生法によって販売などが禁じられており、イシナギの“肝臓”も販売禁止となっている。フグの場合は、昭和58年に出された国からの通知によって販売可能な22の魚種や可食部位などが定められ、処理は、有毒部位の確実な除去等ができると都道府県知事等が認める者および施設に限って行うこととなっている。

法律では定められていないが、国や各都道府県などが販売自粛の通知を出している魚もいる。規制には地域差があり、全国各地や海外から魚介類が集まる豊洲市場を擁する東京都の場合は、かなり多くの有毒魚について販売自粛を求めている。

豊洲市場などの食品衛生を所管し、食品の監視や指導、検査を行う東京都市場衛生検査所の永渕管理課長がその理由を教えてくれた。

「国による販売禁止や販売自粛の対象となっているのは、過去に死者が出ている魚や100%毒を持っているような魚ですが、ほかの魚でも、食品衛生の観点から食中毒の恐れがあるものに対しては、東京都や東京市場衛生検査所長からの通知で販売を自粛するようお願いしています。

海域や季節、大きさなどによって毒の力が変わる魚もいて、昔からの経験則を踏まえて食べられている地域もありますが、それでも食中毒は起こっています。魚の毒は、微生物が持っている毒が食物連鎖のなかで魚に蓄積したものですので、個体によってはとても強い毒を溜め込んでいる恐れもあります。そのため、全国の食中毒事例や検疫所に向けた国からの輸入禁止の通知なども踏まえて、健康被害の恐れがあり、市場に入ってくる可能性のある魚は販売自粛の対象としています」(永渕管理課長)

有毒魚を見極めるプロフェッショナル

豊洲市場の水産物取り扱い量は、1日あたりなんと1296トン。販売禁止や販売自粛の対象の魚が入ってくることは稀だが、それを逃さないよう市場内では厳重な監視体制が敷かれているという。

「市場に入ってきた有毒魚を外に出さないよう、監視はすべての開場日に食品衛生監視員が2段階で行なっています。まずは朝4時からの早朝監視で、卸売業者が入荷した魚を2人で見てまわります。次に8時から2人1組の6班体制で通常監視を行なっており、卸売業者から仲卸業者や売買参加者が購入する魚を確認しています。

卸売業者の方たちも魚を見るプロですので、有毒魚が市場に入ってくること自体、ほとんどありません。ただ、大量の魚を扱いますので、箱の下のほうに入っていて気づかなかったり、同じ魚種でも地域や個体によって色の濃さや模様の入り方に差があるためによく似ている他の魚と混同されたりといったことがあるんです」(永渕管理課長)

通常監視はすべての開場日に行われる(東京都市場衛生検査所HP「市場衛生検査所の一日」より)

令和3年度の場合、監視の際に販売禁止または販売自粛の有毒魚が8件、食用にできないフグが6件見つかった。

有毒魚対策には、市場で働く人たちの協力も必要不可欠。疑わしい魚があった場合は業者の方たちから自発的に声をかけてもらうよう、有毒魚介類の見分け方のポイントをまとめた冊子も作って配布するなど、さらなる周知徹底を図っているという。

食中毒だけではない有毒魚のリスク

釣りを趣味とする人の場合、有毒魚を自ら釣り上げることもあるだろう。

自身も釣りを愛するベリーベスト法律事務所(川崎オフィス)の藤井啓太弁護士によると、釣味の良さから積極的に釣りのターゲットとなっている有毒魚もいるのだそう。

食べないでリリースするに越したことはないだろうが、釣り上げる醍醐味にとどまらず、味を楽しんだ場合でも、個人で完結していれば規制の対象とはならないという。ただし、家族や友人にも振る舞うとなると、事情は異なってくる。

「振る舞った相手が食中毒になれば、民事上の損害賠償(民法709条)、刑事上の責任(過失傷害罪(刑法209条1項等))に問われる可能性があります。有毒魚であることを説明していなかった場合は、食中毒の発生結果に対する認識、認容があるにもかかわらず、敢えて食べさせる行為に及んだものとして、刑法上より重い故意犯である傷害罪(刑法204条)に問われることも考えられます」(藤井弁護士)

釣り上げた魚をなじみの飲食店に持ち込んで調理をお願いすることもあるだろう。飲食店は有毒魚の販売禁止措置の対象となるはずだが、どうなるのだろうか。

「有毒食品の販売などを禁止する食品衛生法第6条の柱書には、規制の対象について〈不特定または多数の者に授与する販売以外の場合を含む〉とあり、特定人が相手の場合も、規制の対象となりえると考えられます。なじみのお店に持ち込んで調理してもらう際も、場合によっては“販売”等の文言に抵触する可能性があります。

また、食品衛生法という行政法規にとどまらず、民事上や刑事上の責任を問われることもあります。実際に、1975年、坂東三津五郎(八代目)がふぐ中毒により死亡したことに対し、調理師が業務上過失致死傷罪に問われ、有罪判決を受けています」(藤井弁護士)

美味しいからといって危ない橋を渡ると、命にかかわる健康被害を出すばかりか、自分や相手が罪に問われることも。

前出の永渕管理課長は「有毒魚かどうかわからないものは、食べないようにしてほしい」と呼びかける。

わざわざ有毒魚に手を出さずとも、世の中には安全で美味しい魚が山ほどあることを忘れずにおきたいところだ。

取材協力弁護士

藤井 啓太 弁護士
藤井 啓太 弁護士

所属: 武蔵小杉あおば法律事務所

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