「LGBTQ当事者」1クラスに2~3人の統計も 友人から「カミングアウト」まず伝えるべき“一言”は?

弁護士JP編集部

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「LGBTQ当事者」1クラスに2~3人の統計も 友人から「カミングアウト」まず伝えるべき“一言”は?
遠藤研一郎『僕らが生きているよのなかのしくみは「法」でわかる 13歳からの法学入門』より(漫画:石山さやか)

6月9日、性的少数者に対する理解を広めるための「LGBT理解増進法案」が可決・成立しました。身近な問題として意識する人も多くなったのではないでしょうか。日本人のおよそ5〜8%がLGBTQであるという統計もあります。

意図せずに差別的な発言をしてしまうなど、当事者の尊厳を傷つけることがないよう、大人も子どもも理解に努めることが大切です。“LGBTQと法律”に関する基礎知識を、中央大学法学部の遠藤研一郎教授(民事法学)が解説します。

※この記事は、遠藤研一郎教授の著作『僕らが生きているよのなかのしくみは「法」でわかる』(大和書房)より一部抜粋・再構成しています(漫画:石山さやか)。
※本書は2019年6月に発刊されたものです。
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あたりまえって、なんだろう?

さて、下の絵を見てください。みなさんは、この絵を見てどう思いますか? たぶん、「右の絵は男の子で、左の絵は女の子」と答える人が多いんじゃないかと思います。

そして、「じつは右は女の子です」とか「じつは左は男の子です」といわれたら、みなさんのうちの多くが、意外に思うのではないでしょうか。でも、なぜ?

それは、ふだんから無意識のうちに、「〇〇は、男の子っぽい」「〇〇は、女の子っぽい」と区別しているからです。たとえば、男の子っぽいと思われるものとして、野球をしているとか、スポーツ刈りにしているとか、ズボンをはいているとか、足を開いて座るとかが挙げられるかもしれません。他方、女の子っぽいものとして、バレエを習っているとか、髪が長いとか、スカートをはいているとか、リボンをしているとかが挙げられるかもしれません。

でもね、それは私たちが勝手に、「典型的な男の子」、「典型的な女の子」をイメージとしてつくり出しているにすぎません。そもそも、「性別」って、男の子と女の子しかないのでしょうか? もちろん、典型的なもの(=多くの人が認めているもの)をあえて否定する必要はありません。でも、同時に、「そんなのあたりまえ!」という感覚や、「私のなかの常識以外は非常識」という感覚にとらわれすぎてもいけない気がします。そこから、差別が生まれる可能性があるんです。

本当にマイノリティ?

みなさんは、いま、だれか恋愛対象として好きな人がいますか? その人のどんなところが好きですか? スポーツができるところ? 頭がいいところ? やさしいところ? 髪がキレイなところ? おもしろいところ? かっこいいところ? かわいいところ? たぶん、いろいろありますよね。そして、そのような「恋愛対象としての好きな人」を考えたとき、男の子であれば女の子を好きになるのがあたりまえで、女の子であれば男の子を好きになるのがあたりまえだと思いますか?

みなさんは、「性的マイノリティ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。マイノリティとは、少数派のことで、マジョリティ(多数派)の反対の言葉です。性的マイノリティという言葉を、わかりやすく、かつ正確に説明することはむずかしいです。ただ、マンガのスズさんのように、女の子として女の子を恋愛の対象として好きという場合、それは、性的マイノリティのなかに位置づけられます。

では、いま、日本にどれくらいの性的マイノリティの方がいると思いますか? レズビアン(女の子として女の子を好きという場合)、ゲイ(男の子として男の子を好きという場合)、バイセクシャル(男の子も女の子も両方恋愛の対象になるという場合)、トランスジェンダー(体の性と心の性が一致しない場合)、クエッショニング(自分自身の性を決められない、わからない、または決めないという場合)の頭文字をとって、「LGBTQ」という言葉が使われることがありますね。

ある調査によれば、日本人のおよそ5〜8%がLGBTQであるという結果もあります。1クラス40人であれば、2〜3人がLGBTQということになります。もしかしたら、みなさんが予想していたよりも多いかもしれません。なかなか気づかない場合も多いかもしれませんが、みなさんの身近にもいますし、この本を読んでいるみなさん自身がそうかもしれません。

性的マイノリティは、不自然なことでもなければ、病気でもありません。そもそも、だれだって、「私はほかの人と少しちがうのではないか?」って思うところとか、ありませんか?

なんだってかまいません。性格でも、血液型でも、身長でも、足の大きさでも……。でも、それはみなさんの「個性」です。性的マイノリティであることも同じはずです。

関係ないからと決めつけない

マンガのスズさんは、シオリさんが好きなことを、なかなか打ち明けられずにいます。友だちとの会話で、「スズ、好きな男子のタイプは?」と聞かれるたびに、ひそかに複雑な気持ちになります。それだけではなく、まわりの人にも打ち明けられません。親にも、友だちにも。それはなぜでしょうか?

おそらくそこには、まわりの反応が怖い、という気持ちが含まれている場合が多いのかなと思います。友だちに話したら、どんな反応をするだろうかと不安に思って、自分の心の奥底に、そっとしまいこんでいる人もたくさんいます。だから、みなさんも、「私のまわりにはいないはずだから、関係ない」と決めつけないでほしいんです。

法律はどうなっている?

では、性的マイノリティについて、日本の法律はどのようになっているのでしょうか?

正直にいって、日本では全体的に、性的マイノリティを自然に受け入れる雰囲気がまだできあがっていないのかもしれません。さまざまな場面で不当な扱いを受けてしまったりすることもあるようです。

そのようななかで、最近、性的マイノリティに配慮した法律もつくられ始めています。たとえば、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」という法律があります。これは、「体の性」と「気持ちの性」が異なるときに、裁判所の判断を通じて、法的に、「気持ち」のほうの性に変更することを認めるものです。たとえば、体は男性だけど、気持ちは女性であるなら、法律上で、その人の性を男性から女性に変更できるのです。

また、地方自治体ごとに、条例がつくられたりもしています。たとえば、同性カップルでも、パートナーであることを認める「パートナーシップ制度」を条例でつくっている自治体もあります。

そしてつい最近、「LGBT理解増進法」という法律ができました。この法律は、国や企業や学校に対して、性的マイノリティなどに対する理解の増進を求める法律です。

それでも現時点では、法整備は十分とはいえず、ほかの国と比べても遅れています。日本全体での理解の広がりや定着が、今後の課題です。

その人の気持ちになってみる

もう少しだけ、考えてみましょうか。性的マイノリティの人が「つらいな」と感じるのは、他人に打ち明けられないことだけではありません。

Q. 体は女の子だけど、心は男の子という場合がある。反対に、体は男の子だけど、心は女の子という場合もある。その人の立場に立ってみると、身のまわりで、困ってしまうのはどんなこと?

さて、みなさんは、どのようなものを考えますか? 学校生活を送るうえでも、けっこうたくさんのものが考えられるんです。

たとえば、トイレ。学校のなかでも、一般的にトイレは、「男性用」と「女性用」に分けられていますね。でも、体は女の子ですが心は男の子という場合、その子は、どちらのトイレに入るのがふさわしいと思いますか? トイレに入るときのその子の気持ちは、どうでしょうか。トイレは、男性用か女性用というように、2つに分けること(だけ)が、はたしてよいのでしょうか?

同じようなことは、制服、健康診断、修学旅行の部屋割りなど、いろんなところで出てきます。私たちのまわりは、「男の子か女の子」ということを当然の前提としてできあがっている場面が少なくありません。

もちろん、このような分け方が全部ダメ! とかいっているわけではありません。「トイレは、全部、男性用・女性用という区別をなくそう」とか、「制服は、男性・女性で分けないで統一しなければ、おかしい」とか、「健康診断は、みんな一緒にやらなければ変だ」とかいっているわけでもありません。むずかしい問題ですので、慎重に考える必要があります。でも、「男性」と「女性」をキッチリ分けることで、その狭間で苦しんだり、不便を感じたりしている人がいるということは確かなんです。

打ち明けるということ

もしみなさんが、友だちから、性的マイノリティであることを打ち明けられたら、どのように言葉をかけますか?

メイさんはスズさんから、スズさんがシオリさんのことを好きだということを打ち明けられています。スズさんは、どうしても苦しくて、信頼できるメイさんにそれを打ち明けたんですね。このようなことを「カミングアウト」といったりもします。

メイさんがスズさんからカミングアウトをされるのは、メイさんが信頼されている証拠です。また、カミングアウトには、勇気が必要です。だから、できることなら、カミングアウトしてくれた相手に、「話してくれて、ありがとう」というひと言がいえるといいですね。

そしてメイさん、ちゃんと秘密を守っていますね。これはとても大切なことです。少なくともスズさんは、「みんなに知られたくない」と思っているのですから、メイさんは、そのプライバシーをちゃんと守ってあげないと、スズさんがとても傷つくことになってしまいます。

  • この記事は、書籍発売および再版時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
書籍画像

『僕らが生きているよのなかのしくみは「法」でわかる  13歳からの法学入門』

著者:遠藤 研一郎
出版社:大和書房

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