いじめ被害生徒の絶望…加害者保護を生み出す「教員集団のメンタリティ」とは

弁護士JP編集部

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いじめ被害生徒の絶望…加害者保護を生み出す「教員集団のメンタリティ」とは
取材に答える名古屋大学大学院・内田良准教授(12月23日/弁護士JP編集部)

2021年、多くの人が最も心を痛めたニュースの一つが、北海道旭川市で起きた「14歳少女凍死事件」だろう。3月、当時中学2年生だった広瀬爽彩(さあや)さんが雪の中から遺体で見つかった。氷点下17℃という寒空の中、失踪してからすでに1カ月以上。発見時、遺体は凍っていたという。

背景にあったとされる、上級生らによる陰惨ないじめは周知の通り。ところが、事件発生からまもなく1年が経とうとしている今も調査が進まず、学校や市教育委員会は「いじめ」の存在を正式に認定していない。

「事件の真相究明」を掲げて9月に当選した現旭川市長・今津寛介氏は年末、市長の直接権限が及ぶいじめ対応専門部署の設置検討を開始。12月23日から24日にかけて、自治体として先進的ないじめ対策に取り組む滋賀県大津市、岐阜県岐阜市、大阪府寝屋川市を視察した。

本記事では旭川の例を引き合いに、学校や教育委員会のいじめ対応が“加害者保護”ともいうべき状況に陥りがちな理由を、教育社会学を専門とする名古屋大学大学院・内田良准教授の話とともに探っていく。

問題児に弱い「教員集団のメンタリティ」

「旭川14歳少女凍死事件」に関する一連の報道で、とりわけ世の中に衝撃を与えたのが、爽彩さんが通っていた中学校の教頭による「加害生徒にも未来がある」という発言。文春オンラインによると、爽彩さんの生前にもいじめ問題の調査が行われており、その結果を母親に伝える場でこの発言が飛び出したという。それを知った爽彩さんは「どうして先生はイジメたほうの味方にはなって、爽彩の味方にはなってくれないの」と泣いたそうだ。

爽彩さんはいじめをきっかけに学校に通うことができなくなっていた。いじめの被害生徒にとって学校は息苦しい場所となる。しかし多くの場合、加害生徒は出席停止などのペナルティを受けることもなく、学校生活を続けているケースがほとんどではないだろうか。

このように、被害にあった側が学校から弾き出されてしまう、いわば“加害者保護”ともいうべき状況が発生している原因について、名古屋大学大学院・内田准教授は「教員集団のメンタリティ」を指摘する。

「大前提として、子どもたちには『教育を受ける権利』が保障されており、学校として安易に強い対応を取ることはできません。それだけでなく、学校にとって“子ども”は指導により正しい方向に導くべき存在です。たとえ過ちを犯した子どもであっても、指導している以上は守らなければなりません。学校、すなわち教員たちで構成された“集団”のそういったメンタリティが、結果として加害者保護ともいうべき状況を生み出しているのではないでしょうか」(内田准教授)

「学校が問題を抱え込む体質は教員の長時間労働にも繋がっている」と内田准教授は指摘する(TK6 / PIXTA)

いじめ加害者、学校に来ないで…教員個人の本音に衝撃

いじめの被害にあった生徒が学校から弾き出されてしまう現実についても、内田准教授は強い問題意識を持っている。

「これまで被害生徒をどうやって学校から離脱させるかについてはさんざん議論されてきました。フリースクール、転校、保健室登校などさまざまな手段がありますよね。しかし加害生徒はどうでしょう。ペナルティを受けることもなく学校生活を続けているケースがほとんどです。これではいじめが起きた場合、被害生徒は『自分は守られていない存在だ』と感じてしまう」(内田准教授)

学校が子どもを教え導く場であるゆえに、いじめ対応では加害者保護に陥りがちだと指摘した内田准教授。しかし“個人”としての教員の声を拾ったところ、意外な本音が見えたという。

「昨年8月に私が全国の教員を対象に行ったWEB調査では、中学校教員413人のうち45.8%が加害生徒を『出席停止にするべき』と回答しました。驚くべきことに、学校の対応とは反対の結果が出ているのです」(内田准教授)

しかし、いくら半数近い教員が本音では「加害者の出席停止」を望んだところで、子どもたちには平等に「教育を受ける権利」が与えられている。実行することは可能なのだろうか。

「現状の制度としては、できないこともありません。しかし担任や校長の一存で処分できるわけではなく、いじめ当事者からの聞き取り、保護者への説明、教育委員会との文書のやり取りなど、非常に多くの手続きを踏まなければなりません。また大前提として、明確な『いじめの存在』を認定する必要もあります。旭川の事件でさえ、いじめの認定に相当な時間がかかっていることからも、現時点ではほとんど実効性がありません」(内田准教授)

それでは、学校のいじめ問題解決の糸口はどこにあるのだろうか。

「先に述べたように、学校や教育委員会には“教員集団のメンタリティ”という根深いしがらみがあるため、従来通り彼らだけで対応するには限界があります。大人たちがもたもたしている間にも、いじめ当事者を取り巻く状況は刻一刻と変わっていくため、解決には何よりもスピードが大切です。旭川市のような行政、あるいは警察や弁護士など、外部の機関・専門家による介入といった、第三者が積極的に介入して迅速に対応できる仕組みを作ることは不可欠でしょう」(内田准教授)

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