1年後に「物流」3割“ストップ”の深刻度… 「2024年問題」国内最大手の“回避策”とは

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

1年後に「物流」3割“ストップ”の深刻度… 「2024年問題」国内最大手の“回避策”とは
「2024年問題」は目前に迫っている(千和 / PIXTA)

働き方改革関連法(※1)の施行により、2024年4月以降「自動車運転の業務」に対して、年間時間外労働の上限規制の適用や、時間外労働時間の制限(上限960時間)がされる。さまざまな問題が予想されるが、その総称を「2024年問題」と呼んでいる。

大手研究所の試算では、物流量の30%が運送できなくなるという。来年4月まで1年を切った現段階で、物流を担う現場ではどのような取り組みを行い、この問題を乗り越えようとしているのだろうか。

輸配送の領域は「宅配」「BtoB配送(店舗配送)」「幹線輸送」に大別できるが、今回は「BtoB(店舗配送)」の領域で実施されている取り組みについて、国内食品卸最大手「国分グループ」本社の物流統括部長・堀内孝之氏に聞いた。

※1
2018年6月に成立した労働関係の法律についての改正案。主に改正された関連法の一部は「労働基準法」「労働時間等設定改善法」「労働安全衛生法」「じん肺法」「パートタイム労働法」「労働者派遣法」「労働契約法」「雇用対策法」

法律改正のポイントは?

「時間外労働の上限規制」では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働く場合、原則として月45時間かつ年360時間以内と定められている。これを上回る残業が認められるのは、労使が合意した場合に限られる。

大企業は2019年4月、中小企業では2020年4月からすでに施行されているが、実情とかけ離れていた自動車運転業務に関しては、5年の猶予期間が設けられた。いよいよ来年4月1日から「時間外労働の上限規制」が適用され、「年960時間(休日労働含まず)」(※2)となる。

※2
960時間÷12か月=80時間
80時間÷22日(1カ月の稼働日数を22日で計算)=3.6時間

さらに、時間外の割増分が50%に改正される。月60時間を超える時間外労働に対する法定割増賃金率の引き上げだ。月60時間までの時間外労働カに対しては25%以上、60時間を超える時間外労働に対しては50%以上の時間外手当を支払う義務を企業に対して課している。これは、中小企業では猶予されていたが、働き方改革関連法により、2023年4月以降、中小企業に対する猶予期間が撤廃された。ちなみに、月60時間を1日に換算すると、約2.7時間の時間外勤務となる。つまり、1日につき2.7時間を恒常的に超えると月60時間を超えることになる。

1日に3.6時間以上の時間外労働が規制される上に、2.7時間を超えれば、これまでの倍額以上の時間外手当を支払わなければならない。特に食品物流に関わるドライバーは、月平均100時間程度の時間外労働が発生していると言われており、今後さらにネット通販での食品に関わる物流需要が増えると、現状のままでは輸送能力が限界を迎える恐れがあると指摘されている(「国土交通省平成27年調査 トラック輸送状況の実態調査結果」より)。

ネット通販での食品購入需要も増えている(tagk1419 / PIXTA)

国内食品卸最大手「国分グループ」本社で物流統括部長を務める堀内氏によると、同社の国内物流拠点は全国で325か所(2023年3月現在)。10,000社を超える食品メーカーから商品を仕入れ、加工食品、酒類、菓子、冷凍・チルド食品、生鮮3品(青果、精肉、鮮魚)など約60万アイテムがこれらの配送拠点から日々、スーパー、コンビニ、小売店など35,000社を超える顧客に届けられる。

日本は小売店数が非常に多く、食品メーカー数も多い。地域性・四季の変化に富む商品で生活者の多様なニーズに応える必要がある。食品卸売業はメーカーと小売業の中間に位置し、国内外の商品を得意先のニーズに対応して安定的に届けることが求められる。国分の場合では、各商圏の30~50キロメートル内での配送が中心だ。これらの拠点での配送は各地の委託配送会社との長年にわたるパートナーシップで対応を行う。

ドライバーの時間外労働時間に上限が設けられたことで請け負える業務量の減少が予想される。ドライバーの平均給与は他業種の平均賃金よりも低く、時間外労働賃金分を上乗せした金額が前提になっているためだ。物流会社や運送会社では業務量が減れば売り上げの減少につながる。新たにドライバーを雇用して対応することが理想ではあるものの、物流業界は慢性的な人手不足だ。

「会社の売り上げが減少すれば、ドライバーの収入も減少します。運送会社や物流企業が売り上げの減少を補填(ほてん)する目的で運賃を値上げした場合、荷主の負担する物流コストが上昇することになります」(堀内氏)

物流の需要が高まる一方、人手不足も頭の痛い問題となっている(node / PIXTA)

“正念場”の現場対応

堀内氏ら国分グループが今、着手しているのが運行管理の徹底だ。車両の走行距離や積載状況を把握し、緊急輸送の要請や同じ方面に向かう車両が複数台あれば、荷物を集約し効率的な輸配送を目指す。GPS機能を用いて位置情報を把握し、緊急輸送の依頼にも対応する。

すでに見たように、1日8時間の所定労働時間に3.6時間の時間外労働ということは、11.6時間以内で日々の運行を完了させる必要がある。現状の運行で11時間を超えるものがあるのかどうか、この1年かけて確認を行ってきた。仮に超える場合は、その原因を精査し改善を繰り返す。これは、物流会社が違反した状態で運行を続けると、荷主責任が問われる可能性があるからだ。

働き方改革関連法に対応するには、従業員や企業の努力だけでカバーするのは限界があるため、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も不可欠だ。特に、積載率向上が必須になるが、配送は、往路の積載率と比べ復路の積載率が極端に低下する。この積載率の平準化や全体的な向上を図ることが大きな課題となる。

長年の慣行で食品物流会社には、個別の顧客の「配送カルテ」がある。それに従って搬送を行うわけだが、業務を標準化し物流の生産性を向上できれば、売り上げの減少や物流コストの上昇に対応しやすくなる。現場の業務をすべて列挙し作業ごとに手順や方法にバラつきがあるものから標準化を図る。

さらに、複数の物流企業が共通のトラックやコンテナで荷物を運ぶ共同配送。「営業は競争、物流は共同で」というコンセプトで、各メーカーの荷物の共同配送の実践を試みる。

店舗運送事業者はこれまで、事業者間の競争や荷主ニーズへの対応のために、さまざまな対策を講じてきた。1社単体で取り組むことができる生産性向上方策は限界を迎えている。

働き方改革が推進される中、適正な賃金アップを行い荷主と運送事業者の相互協力による商慣習と運送条件の見直し、荷主間の連携による共同配送など荷主側の協力・連携が必須となっている。試算では物流量の30%が運送できなくなるのではと言われているが、店舗物流を担う立場からすれば、絶対に回避しなくてはならない。商品への安全性と消費者の信頼を維持するための正念場を迎えている。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア