YouTuber北海道で「ヒグマ」誘引か…危険な「餌付け」近隣住民から“賠償請求”の可能性は?

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

YouTuber北海道で「ヒグマ」誘引か…危険な「餌付け」近隣住民から“賠償請求”の可能性は?
葉田ルコ YouTube(https://www.youtube.com/@hadaruko)より

北海道警察によれば、今年に入って道内ではクマの目撃情報が487件寄せられ、人身被害も3件発生しているという(5月20日現在)。5月15日には、釣りをしていた男性がクマに襲われ死亡するという痛ましい事故も発生している。また、人里近くへのクマの出没は北海道にとどまらず、新潟県や福島県でも多発している。

クマと人間の住み分けが問題視されている中、ヒグマとの遭遇を撮影・投稿したYouTuberがSNSなどで批判を浴びている。

ピザの匂いでクマを誘引か?

YouTuberの騒動となった動画は、山中で友人とピザなどを広げて飲食していたところヒグマの親子と遭遇、本人たちは逃げこんだ車内から、現場に残されたピザなどの食べ物をあさるヒグマの様子を撮影し続けたものだ。

動画を見た視聴者からは「匂いの強い食べ物を使い、動画のためにクマをおびき寄せたのではないか」と疑いの声があがり、ヒグマの情報を発信し注意喚起を行う他のYouTuberらも動画内容を検証し、「愚行だ」などと批判している。

当該のYouTuber本人は、インターネットニュース番組「ABEMA Prime」に出演し「ヒグマをおびき寄せたくて、森でピザを食べていたわけではない」「そもそも、簡単には(クマは)現れないし、おびき寄せられるものではないと思う」などと反論した。

しかし、YouTuberがピザを食べたとされる場所から500メートルほどの地点では、撮影日の前日に親子のヒグマが出没している。この情報は、札幌市のHP「ヒグマ出没情報」に掲載されていたほか、撮影現場付近には当時すでにクマの出没を知らせる看板なども設置されていたとされる。

クマ出没を知らせる看板(YsPhoto / PIXTA ※写真はイメージです)

野生動物への餌やりは法律でも規制…

2022年4月1日より、国立公園など一部地域における、野生動物への餌やり、つきまといなどの行為が法律で禁止された。

北海道札幌市内の法律事務所に勤める小林楽弁護士は、この法律について以下のように説明する。

「自然公園法第37条1項で、〈国立公園又は国定公園の特別地域、海域公園地区又は集団施設地区内においては、何人も、みだりに次に掲げる行為をしてはならない〉と定められ、〈野生動物に餌を与えること〉が禁止されました(同項3号)。また、「違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する」とも定められています(同法第86条柱書)。

したがって、国立公園など餌付け行為が禁止された場所において、クマやシカ、イノシシなどの野生動物への餌付け行為をすると、法的に罰則が科せられる可能性があります」

この法律が制定された背景には、一部の観光客やカメラマンなどの行き過ぎた行為があったとされ、知床国立公園の特設サイト(https://brownbear.shiretoko.or.jp/higumakisei/)では、以下のような注意喚起が記載されている。

〈“ヒグマを近くで見たい・撮りたい”という欲求から、一部の観光客やカメラマンによるヒグマに対する過度な接近や餌やり等が後を絶ちません。

本来ヒグマは人を警戒して近づこうとはしませんが、人による過度な接近や餌やり等を繰り返すことにより、人を恐れない“人なれ”ヒグマへと変わってしまいます。人なれしたヒグマは、自ら人や車両に近づいたり、人の荷物を物色したりするようになり、人身事故や物理的な被害を起こす可能性が高い「問題グマ」と判断されます。そして、人間への危害を及ぼすおそれが高い場合には、やむなく補殺されます〉

規制範囲“増える可能性”高い

現在餌付け行為が規制されているのは、あくまで〈国立公園又は国定公園の特別地域、海域公園地区又は集団施設地区内〉においてだが、小林弁護士は「野生動物への餌付け行為に対する規制は、今後他の場所でも増えると考えます」と話す。

「今回の自然公園法の改正は、“マナー”として野生動物への餌付け行為をしないようにと呼び掛けていても、餌付け行為をする人が後を絶たず、餌付けに依存してしまった野生動物などが人里に出没するという事故が生じていたり、その危険が高まっていたりするという背景を踏まえて行われました。

この背景に鑑みると、野生動物が人里に出没し被害が発生するという事故やその危険性が今後も減少しない場合・増加するような場合には、現在規制されている場所以外でも、野生動物への餌付け行為に対する規制が及ぶということが考えられます」(小林弁護士)

餌付けに対する損害賠償「理論上は可能」

前述の通り、YouTuberらは故意を否定しているが、もしも“動画に出演させるために”意図的にクマをおびき寄せたのだとすれば、ピザを食べさせた行為は「餌付け」に他ならない。すでに出没が確認されていた地域であり、餌付けの影響から“食べ物の味”を覚えたクマが民家などにさらに近づいてしまうことも予想できる。

万が一、故意にクマなど野生動物に餌付けを行い獣害が発生した場合、近隣住民は餌付けした人物に対し、損害賠償請求をすることはできるのだろうか。

小林弁護士は「理論上は可能」としつつも、損害賠償請求が認められるかについては「難しい」と話す。

「このようなケースで損害賠償請求が認められるにあたっては、餌付け行為と獣害発生の間の因果関係の存在を立証する必要がありますが、その立証のハードルが高いと考えられるためです。

ただ、たとえば餌付け行為が行われる前には、獣害が全く発生していなかったのに、餌付け行為があってから獣害が発生するようになったという事情や、餌付け行為が行われた後に、獣害の件数が明らかに増えたという事情などを客観的に立証することができれば、因果関係の存在を立証することができ、損害賠償請求が認められる可能性はあると考えられます」

間近から撮影されたクマの写真や動画に“出演“するクマ。それぞれ迫力もあり、話題になるかもしれない。しかし、餌付けなどでクマを“人なれ”させる行為は、自身と地域住民を危険にさらす可能性があることは肝に命じる必要がある。人の安全な生活と“バズり“をはかりにかけることは謹むべきだろう。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア